「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第2章≪禁戒の愛≫・9 *R凌レ

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 瞬時にして、神藤はその状況を悟った。
 車を用意しに出たと思っていた栗原は、生徒会室へ行っている。会議等予定が無く、恐らく紗月姫一人しか居ないであろう生徒会室に。そしてその彼は、三十分、いや、一時間も戻っては来ないだろうと咲月は言うのだ。
 神藤の脳裏に、どこか取り繕った栗原の笑顔が思い出される。
 何故か執拗に紗月姫の周辺で動き回っていた男。栗原が紗月姫を見詰める視線に、眉を寄せたくなる感情が含まれている事は、同じ男として薄々感付いてはいた。
 昨日だって、栗原が応接室へ向かったのは特別室管理職員に聞いたからではない。紗月姫の行動を監視していた栗原が、恐らく中の様子をずっと廊下から窺っていたのだろう。それこそドアの前に立っていた栗原を職員が目撃している事も、後の調査で神藤は確認している。

 そんな男が、誰もいない生徒会室で紗月姫と二人きり……。

 神藤は抱きつく咲月を引き剥がし廊下へ出ようとドアノブに手をかけたが、今度は背中に抱きつかれ再び動きは止まった。
「待って、神藤さんっ。もう無駄よ。何分経ってると思っているの。今頃二人でお楽しみ中よ」
 神藤は動かない。納得してくれたのだと感じた咲月は調子に乗って話を進めた。
「大切なお嬢様が、他の男とお楽しみ中の姿なんて見たくないでしょう? 良いじゃない。辻川様だって、たまにはあなた以外の男も知っておかないと……。ねぇ?」
「……成澤様」
 神藤の背中に頬を付け、うっとりとその広さに寄りかかる。しかし寄りかかった背中から聞こえた声は、鼓膜を凍りつかせんばかりの冷たい声だった。
「この愚行は、貴女が指示なさったのですか……?」

 抱きつく咲月の手を外し、その手に痛いくらいの力が入ると、彼女はビクリと身体を震わせ彼の背中から離れた。
 その背中からは、相変わらず冷たい声が聞こえて来る。
「もしもこれが、お嬢様の御指示ならば、私は何も言わずこの状況を受け入れましょう。生徒会室の二人に干渉せず、この場で貴女の衣服を奪う事も厭わない。ですが……」
 神藤は力が抜けた咲月の手を放し、チラリと背後へ視線を走らせた。

「これは、私のお嬢様がお望みになっている事ではありません。――貴女は“辻川家の御令嬢”に対して、何をしたかお分かりか」

「……な、にっ……!」
 一瞬にして咲月の顔が赤らむ。自分を否定された恥ずかしさや、他家の人間とはいえ従者ごときに大きな口を利かれた事が、屈辱となって彼女の頭に血を上らせる。
 しかし、微かに向けられた神藤の視線があまりにも鋭く、恐ろしさのせいで全身が竦み上がってしまったというのが正直なところだ。

 何も言えなくなった咲月から目を逸らし、神藤は足早に部屋を出た。
 目の前でドアが閉まって数秒後、咲月は全身の力が抜け、その場に座り込む。
「……何……。あの男……」
 今になって汗が出てきた。冷たい汗が全身を冷やしていくなかで、咲月は恐ろしい危機感に捉われる。
「栗原……」
 神藤は生徒会室へと向かったのだ。そこには紗月姫と栗原がいる。
 恐らく、栗原は紗月姫を……。

 鋭い殺気を孕んだ神藤の視線を思い出して、咲月の身体が小さく震え始める。
 栗原の身に襲いかかるであろう未来を予想しつつも、咲月はその場から動けなかった。


*****


「や……ぃや……、はなし、て……」
 全く説得力の無い声しか出せない自分が恨めしい。だが仕方が無いのだ。身体は重く、神経が通ってはいないかのように動かない。内臓さえも重苦しくて口で呼吸をするが、それさえも上手く出来ない。
 息をするのもままならない状態であげる否定の声は、自分でも悲しくなるほど弱々しい。
 身体は動かないのに、触覚はある。そのせいで栗原が身動きするたびに、その感覚が全身を襲うのだ。

 嘔吐感を催すほどの、嫌悪と共に……。

「柔らかいなぁ……、なんだぁ? この肌……食いちぎってやりたいくらいだ……」
 紗月姫の肌の上でもそりもそりと蠢く身体。彼女の肌の柔らかさをスーツ越しに感じ、それだけで栗原の脳は恍惚感を覚える。
 抱き締めた身体はしなやかで、手触りは極上。本当に強く掴んだら千切れてしまいそうだ。
 床に横たわり身動き出来ない紗月姫の姿は、彼に貞操を蹂躙される事を待ち望んでいるかのような錯覚さえ起こさせた。
「最高じゃないですか……こんな身体、あの色男一人で占領してるなんて、もったいない」
 唇が首筋の柔肌に喰い付き、吸い付きながら舌を這わせる。
 逃げたくても逃げられないおぞましさで身体中を震わせ、紗月姫は途切れる泣き声を上げる事しか出来なかった。

「やめ……いやぁっ……」

「冷たいなぁ……。神藤君にばっかりイイ思いさせなくたっていいじゃないですか……。まったく、ずるいなぁ、彼は」
「ちが……、そんな……」
「何が違う? イイ思いさせてやってるんだろ? あの色男にっ」

 スーツの上着を慌ただしく脱ぎ捨て、ネクタイを緩めるより先に、栗原は腰を浮かせてズボンのベルトに手をかける。
 怒りとも嬉しさとも違う常軌を逸した表情は、一種狂気させも感じさせた。

 いや、彼は狂いかけているのかもしれない。
 焦がれ待ち望んだ天使を、犯し蹂躙出来る幸せに……。――

(――神藤……)

 そんな中、紗月姫の脳裏に浮かぶのは神藤の姿ばかり。

(神藤……、どこに居るの……。神藤!)

 どうして彼は傍に居ないのだろう。
 どうして彼ではない手が、自分に触れているのだろう……。

(私に触れて良いのは……神藤だけなのに……――)

 紗月姫の心が、口から出ない分まで叫び続ける。
 違う、こんなのは間違っている、と。

 ――――≪神藤……!≫

 ズボンに手をかけたまま、栗原の動きが止まった。紗月姫の胸で擦り付けていた顔をふっと上げ、彼はドアに目を向ける。
 部屋のドアが、ガタガタと揺れ動いているのだ。両開きの形で並んだドアノブもガチャガチャと音を立てている。
「何だ?」
 栗原は怪訝そうに眉を寄せた。誰かが入ってこようとでもしているのだろうか。それにしてもノックの音も何も無かったような気がする。いきなりドアを開けて入ってこようとする様な無作法者が、この学園に居るとも思えないのだが……。
 栗原の後を追って紗月姫もドアの方向へ視線を向け、うつろな瞳が激しく振動する扉を捉える。小刻みな振動が止まると、今度は大きな音と共にドアが大きく揺れ動いた。
 どうやら何かがドアにぶつかっているようだ。
 流石におかしく思った栗原が、紗月姫から離れ立ち上がったその時、ひときわ大きな音がしてドアが勢いよく開いた。
 ガシャリと片方のドアノブが落ち、そのドアノブを蹴り飛ばして勢いよくダークグレーの影が飛び込んで来たのだ。

 刹那、栗原が息を呑み立ち竦む。
 しかし、彼はその影によって壁へと叩きつけられた。

 顔面を掌で掴まれ、力が入るこめかみの骨が砕けてしまいそうな痛みを感じながらも、指の間から見える影の顔を驚愕の表情で凝視する。

 影は彼に、ひとつだけ選択肢を与えた。

「このまま顔を握り潰すか? お嬢様の前で命乞いをするか? 選べ」

 冷たいグレーの瞳が、殺気を孕む。――――






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 神藤さん、大活躍♪
 彼が飛び込んできましたから、これでこの件は終わり……。じゃないんですよ……。
 大切な展開が残っています。

 サブタイトル的に、どちらかといえばこの章は紗月姫ちゃんと神藤さんの出番が多いです。
 ここを抜けたらメイン二人の流れになりますので、もう少々お待ち下さいね。

 さて、この愚行の結末は……。

 では、次回!!





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