「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第2章≪禁戒の愛≫・11

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 呆然と床に座り込んだまま、どのくらいの時間が経っていたのだろう。
 恐怖から動揺が治まらないまま身動きひとつ出来なかった咲月は、微かな振動と不審な物音で我に返った。
「……何?」
 今、このプライベートルームが微かに揺れた。地震だろうか。いや、かなりの大きな物でなければ、この学園は地震などで揺れる事は無いはずだ。それに地震にしてはおかしな揺れだった。まるで下の階の物音が上に伝わって来たような……。
 不気味な予感が、ぞわりと咲月の全身を包んだ。
「栗原……?」
 この階下には生徒会室が有る。思い浮かぶのは、そこに居るはずの栗原と紗月姫。そして、向かったであろう神藤。
 恐怖に捉われた身体は、再びガタガタと震え出した。


*****


「今すぐ、お付きを全て学園へ集めろ。弁護士もだ」
 神藤の声は冷静だった。
 依然床に座り込んだまま、片腕にシッカリと紗月姫を抱き、もう片方の手でスマホを握り締めている。電話の相手は邸で待機しているお付きで執事補佐の水野だ。神藤は上司としての采配を振った。
「お嬢様の大事だ」
 紗月姫に関する事。このひと言だけで水野は悟っただろう。「他言は無用」と。

 話を終えてスマホを腰のホルダーに戻すと、腕の中で身動きしようとする紗月姫に両腕を回す。
「動いてはいけません、お嬢様」
 頭を撫で、胸に押し付けて、決して後ろを振り向かぬよう腕の中に庇う。
「貴女が……目に入れて良いものではありません」
 神藤は、半眼のまま正面へ視線を移す。そこには、紗月姫の目に入れてはいけない光景が有る。彼女の聡明なその瞳を汚さない為にも、映させてはいけない物が……。
 
 壁の一部に飛び散った赤黒い斑点。同じ物が床にも飛び散り、所々にどろりとした赤黒い塊が散っている。
 鼻を刺すのは蛋白質が焼け焦げる嫌な臭い。全ての原因は、床に転がる、下半身を失くした人間の躯。

 爆発物が仕掛けられていた荷物は、一人の人間をただの亡骸に変えた。

 栗原の処分を考える手間は省けた。彼は自ら、愚行に対する決裁のスイッチを踏んだのだ。
 しかし、生徒会室にこんな爆発物が有ったのは何故なのだろう……。
 下手をすれば生徒の誰かが、いや、紗月姫が開けていたかもしれない荷物だというのに。
 だが今はそれを模索している時ではない。今は腕の中に居る紗月姫を守る事が先決だ。
 紗月姫も何かを悟っているのだろう。神藤の腕の中に収まり、大人しく寄り添っている。何かが起こったのであろうこの状況に、一言も口出しをせず、全てを神藤に任せているのだ。
 そんな紗月姫の信用が、神藤は嬉しかった。

 今、部屋の外には、爆発音がして一番に駆けつけてきた警備員が立っている。
 何者かが近付いてくる気配がした時、ドアを開けられてしまう前に神藤がインターフォンを使って指示を出したのだ。辻川の者が到着するまで誰も中へ入れるな、と。

 神藤は周囲に散らばる紗月姫の衣服を集めると、紗月姫を抱いたまま立ち上がった。
「お嬢様、プライベートルームにお連れ致します。もう少々、御辛抱を……」
「……大丈夫よ……」
 腕の中で安心しきった声が聞こえ、神藤はホッとした。

 この事件は、これから辻川財閥の手によって片付けられる。
 今話題の爆弾事件に辻川財閥の令嬢が巻き込まれ、その傍で人がひとり命を落としたとあっては、下手をすれば辻川の名に、そして紗月姫に傷が付く。
 そんな事が有ってはならない。
 この一件は、このまま闇に葬られるのだ。誰も知る事の無い出来事として。
 真相を知る、一部の人間を除いて……。


*****


 “専務のお傍付き”は、櫻井だけではない。
 神藤がその腕を認め、学もハッカーとしての才能を見抜いた、IT事業部の須賀大智もその一人だ。
 かつて少年時代、天才ハッカーとしてその世界では有名だった彼だが、ある事件をきっかけに自分の存在を隠し続けてきた。
 目立つ事を避ける為に辞退し続けてきた昇進だったが、この春、彼は主任の役職に就いたのだ。
 見るに見兼ねた学の命令で……、といえば簡単だが、実は彼、現在交際中の恋人と結婚を考えている。今年二十八歳という年齢的な物を除いても、昇進を快諾した理由にその事も含まれていたりする。
 恋人の市橋悠里とは、学や美春と共に巻き込まれてしまった事件で知り合った。
 親しくなってから、ずっと美春に憧れている須賀。憧れ、といっても恋愛感情的なものではなく、眺めているだけで満足する有名人にいだく様な憧れだ。彼の爽やかな雰囲気が友人の信に似ている事も有り、美春にとっても須賀はお気に入りなのだ。……時々、学にその辺りをつつかれたりもするのだが……。

 憧れの女性の前で、あまり自分の惚気話という物もし辛いものだ。よって、美春は須賀のノロケを聞いた事が無い。
 ――が……。

「ほんっとにもうねっ、見てらんないですよ? べたべたべたべたくっついてっ。あー、行くんじゃなかったっ」
「お前が勝手に来たんだろうがっ!」
 愚痴の様に告げ口をする同僚の木村に、須賀は仕事の手を止めて言い返した。
「だってよぉ、ゆーりちゃんが来てるとは思わなかったんだよな。お前、ゆーりちゃんが来てる時はドアに札かけとけ。『ただ今イチャつき中』って」
「おいっ」
 傍で聞いていた美春がクスクス笑い出すと、須賀は照れ臭そうに言葉を止め、再びパソコンの画面に視線を戻した。

 須賀に用が有ってIT事業部にやって来ていた美春だが、彼が手を離せない仕事をしていたので少し様子を見ていたのだ。すると、須賀の同僚で話好きの木村がやって来て、先日須賀の部屋へ行った時に見た知られざる一面を話してくれた。
 須賀のそんな姿は想像しにくいが、美春自身が学とべたべたくっついている方なので、好きな人とくっついていたい気持ちは凄く分かる。
「んふふ、そういうものですよ。木村さんは、べたべたしたい人、居ないんですか?」
「へ?」
 須賀の告げ口をしていたというのに、反対に言葉に詰まってしまった木村。
 社交的で明るく、友達も多い彼だが、残念ながら彼女だけは募集中だ。
 その会話を聞きながら、ザマーミロと心の中で舌を出した須賀だったが、キーボードの上で動き続けていた彼の手はふっと止まった。
「あれ?……なんだ?」

 不思議そうに呟く須賀の様子に気付き、美春が後ろに立つ。
 セキュリティチェックをしていた彼は、どうやら何かおかしな動きを見付けたらしい……。

「……辻川が……、動いてる……」






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 事件を裏で片付けて行く神藤さんですが、実はこれが片付けきれなかったりします。
 事件自体は隠せても、心の中には残ってしまいますから……。

 そして、秘密裏に動いているはずなのに、その断片を拾ってしまった人がいます。
 彼に拾われたら、隠す事は出来ません。
 それもその現場に、美春ちゃんもいます。辻川が関わっているのに放っておくはずも有りません。
 知らず知らず、彼女も自ら足を入れて行ってしまいます……。

 隠せないといえば、そろそろ学くんも、美春ちゃんに例の話をしなくてはいけない頃ですが……。

 では、次回!!





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