「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第3章≪婚約破棄≫・1

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 ――美春との婚約を、解消する。

 そんな衝撃的な話をされた日曜日。
 しかし美春は、それ以上話を追求しようとも、話させようともしなかった。
 聞きたくなかったのかもしれないし、深く知りたくはなかったのかもしれない。――知るのが、怖かったのかもしれない。

 美春が訊かないので、学もそれ以上の事を言わない。
 彼が何も言わないという事は、黙って学を信じていれば良いのだという意味で解釈をする他は無いのだ。
 実際、彼の調査は上手くいっている。失敗する筈は無い。
 第一、彼は何の為にこの調査を始めた?
 叶わぬ想いを抱えた二人を見て、美春が悲しい思いをしない様に、ではなかったのか。
 ならば彼は、どんな事をしてでもこの賭けに勝つはずだ。
 幸せに包まれる二人を見て、美春が嬉しそうに笑ってくれる姿を見る為に。
 例え、その笑顔の為の一時期が、辛い物になろうとも……。


*****


「専務っ。光野君を帰らせて下さい。帰って布団にくるんで寝かせてやって下さいっ」
 そんな週の月曜日、堪り兼ねた櫻井が学に直談判にやって来たのは、そろそろ美春が午後のお茶を淹れに来てくれるだろうかと、時計を気にした昼下がりの事だった。
「彼女は根性もあるし、仕事も出来る。熱が有ったって、今日みたいな凡ミスばっかり起こしませんよ。あれはきっと何かがおかしい。ガッチリ寝せるか、ひっぱたきでもしない限り直りませんっ」
 美春は普段、櫻井が意地悪をして仕事を認めてくれないと愚痴るが、そんな事は無い。彼はしっかりと、これ以上無いほどに彼女を認めているではないか。
 こんな台詞を聞いたら、きっと美春は感動して櫻井に抱き付いてしまうに違いない。そう思うと、専務室に美春がいなくて良かったと思う学だが、彼女が認められているのを聞くのは学も嬉しい。彼女の仕事に好意的な人間を見ると、美春の代わりに「有難う」と抱き付いてやりたいくらいだ。――もちろん、実際にはやらないが……。

「今日の美春君は……、ミスが多いのかい?」
 デスクから見上げた学の目に、櫻井の沈痛な表情が映り込む。
「……恥ずかしくて、新人の前には出せないくらい……」
「それは重症だな」
 そう言いながら腕時計を確認した学は、同じように沈痛な表情をして見せた。
「確かに……、気付かなかったが、美春君はおかしいようだ」
「専務の方でも……、何かミスを?」
「午後のお茶の時間をとっくに過ぎているが、来る気配が無い」
「それは重症ですね」
 冗談っぽい会話だが、彼らは本気だ。

 学は重々しく鼻から息を抜き、椅子に凭れ掛かった。
 今日はデスクワークが多いというのに、美春が専務室へ出入りする回数が全くもって少ない。必然的に彼女の様子を窺う機会も少ない訳だが、ランチの時はそれほどおかしな様子は見られなかったのだ。するとあれは、かなり無理をしていたのだろう。
 美春の様子がおかしいのだとしたら、その理由に学は心当たりが有り過ぎる。
 恐らく彼女は「婚約破棄」と言い渡された件を気にしているのだ。いくら「学を信じてるから」と自分に言い聞かせていようと、気にしないでいられる事ではないのだから。

 昨日は美春が平気な振りを決め込んでしまったのを良い事に、話を中途半端で終わらせてしまった。
 やはり、説明もしないまま事を進めてはいけないだろう。

 これからもっと、辛い現実が待っているのに。

「櫻井さん、貴方に、頼みたい“仕事”があります」
 凭れ掛かった身体を起こして、学が櫻井を見上げると、どこか意味ありげな表情に何かを悟ったのか櫻井は姿勢を正した。
「“特別な仕事”ですか?」
「――いいや……」
 学の口角が上がる。その不敵さのまま、彼は“仕事”を言い付けた。
「“特殊な仕事”だよ」
 櫻井の眉がわずかに寄り、その言葉の意味に掌がじとりと汗ばんだのが分かった。
 特別な仕事、ならば会社の仕事だが、“特殊な仕事”は“専務のお傍付き”としての仕事だ。
 何らかの目的の為に行う、特殊任務。脳裏に浮かぶのは、昨年十一月の件だろうか。

 慎重な面持ちにはなるが、それを受け入れる果敢な気配を感じた学は、櫻井を見たまま内線電話に手を伸ばす。
「説明をする為に、須賀さんを呼びます。――お二人に、力を合わせて守ってもらいたいものが有る」
 学は受話器を上げた手で内線番号を押し、先の台詞を追加した。

「……私が、……日本に居ない間……」 


*****


 メールを打っている途中だったのは覚えている。Enterを長押ししたまま指を止めてしまった為、カーソルがどんどん改行を繰り返し、目の前の画面が真っ白になってしまった。
 美春がその事実に焦りを感じたのは、周囲の空気が変わった事を身体が感じ、我に返った時だ。

「葉山専務、どうなさったんですか? 誰かお呼びしますか?」
 学生時代、よく彼に浴びせられていた黄色い声を彷彿させる楽しげな口調は、教育研修中の新入社員だろう。秘書課オフィスにわざわざ専務がやって来るのは、“光野女史に用が有るからだ”という事を他の社員は知っている。
(え? 学?)
 何故学がわざわざ来たのだろうと頭は考え、目は目前の真っ白になった画面を凝視し、身体は椅子から立ち上がろうかこの真っ白になった画面を何とかしようか思い悩む。
 早い話、彼女は混乱して何をしたら良いのか分からないのだ。
「確かに、重症だな」
 しかしその声には首が反応した。頭で考えるより先に、首が声の主を振り返ったのだ。
 パーティションの角に頭を付けて、困り笑いで美春を見詰める学を。 

「……学……、っ、あっ、……専務、あの……」
 慌てて立ち上がり、チラリとパソコンの時計を盗み見て冷や汗が出る。午後からの定時報告も、午後のお茶の時間もとっくに過ぎている。おまけにそろそろ予定していた外出の時間だ。準備も何もしていない。
「すいません……。あの、すぐ、お茶をお持ちしますので。定時報告はそれと一緒に……」
「何のメールを打っていたの? 画面は真っ白だけど」
「あ……。スイスの……」
「ロシュティスの社長秘書かい? それは大切だ。それを先にやりなさい」
「でも……」
 自分の仕事は終えていなくてはならない時間だ。やっと回って来た頭で専務の用事を優先させようとした時、美春の頬に冷たい感触が走った。
 頬に当てられたのは、冷たい飲料缶。それを美春の頬にピッタリ当てて、目の前の学はニコリと笑う。
「一番売れない、裏口横の自販機で買って来たミルクティーだから、スッゴク冷えている。ほら、これ飲んで目を覚ましなさい。私のコーヒーも買ってきているから大丈夫。お茶の問題はこれで解決。定時報告も今日はデスクワークが多いし、大した物は無いだろう? あるなら後で移動の車の中で聞く」
「……専務」
 ミルクティーの口を開けてから美春の手に持たせ、学は椅子を引いて彼女を座らせた。Enterの押し過ぎで真っ白になっていたメール本文を戻し、書きかけの文末に合わせると、美春の両肩をポンッと叩く。
「……ありがとうございます。……専務」

 今日の自分はどこかおかしい。美春にも分かっていた。それが昨日の出来事のせいだという事も。
 けれど昨日言われた一件は、仕事とは直接関係の無い事だ。美春はそれを持ち込むまいと意識していたのだが、やはり心理的に無理が有ったのだ。
 こうして、学に気を遣わせてしまったではないか。
 ミルクティーの冷たさにひと震えしている美春の前に屈み、学は缶と入れ替わりに彼女の唇を塞いだ。
 冷えた口腔内を温かな吐息で満たし、額同士を付けて学はクスリと笑う。
「外出先での用事が終わったら、今日はそのまま直帰しようか。もちろん、俺のトコな」
「え? でも、そんなに時間のかかるものじゃないし……」
 婚約者モードになった学の言葉に戸惑っていると、彼は頬笑みを真剣な表情に変えて人差し指を立てた。
「それじゃないと、美春はこの後、櫻井さんにひっぱたかれる」
「……ひぇっ!? どうしてっっ?」
 訳が分からず本気で怯える美春だが、反対に学は楽しそうに微笑んだ。
「今日の美春を治すには、ガッツリ寝せるか、ひっぱたくか、しかない、ってさ。だからガッチリ眠る為に、早めに直帰してゆっくり風呂にでも入ろう? 一緒に」






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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第3章≪婚約破棄≫、スタートです。

 信じていたって、大丈夫だと思ったって、平常心でいられる筈は無いと思います。
 例え少しの間でも、その期間の事を考えれば辛くて堪らないはずですから。
 それでも、止まりそうになった美春ちゃんを引っ張って歩き出すのが学君です。そして、先へ先へと進めて行くのも彼の役割ですね。
 学君は、櫻井さんと須賀さんに、どんな仕事を任せたのでしょうか。

 でも、元気のない美春ちゃんには、お風呂につかってリラックスしてから、ガッツリ寝てもらいましょうね。
 ……まぁ、その間に、彼が何もしないはずも……ないんですけどね。(笑)

 余談ですが、皆さんお風邪などひいてはいませんか?
 実は私、更新のお休みを頂いた先週から、ずっと
風邪と熱で病人状態でした。( ̄∇ ̄; 
 やろうと思っていた他の事(拍手お返事や他作品の執筆)は何一つ出来ませんでしたが、まぁ、この作品の更新分だけは書けたし、熱も下がったから更新も出来そうだし、……いやぁ、うまいことお休み宣言中の発病で良かったぁ……、って感じです。(笑)
 インフルエンザではなかった……と、思う。(←おい)
 インフルエンザも、A型が治まったと思ったらB型が流行り始めたとか、色々あったりしますが、皆さまもどうぞお気を付け下さいませ。

 ……長くなったついでに、スッゴクくだらない話なんですけど、私のMYバイオ君(ノートブック)「いんふるえんざ」って打って一発変換すると「淫振る円座」って出るんですよ。
 …………ヽ(;▽;)ノ

 くだらない話書いちゃってスイマセン!(活報かツイッターでやれ、って怒られちゃう)(;▽;)

 では、次回!!





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