「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第3章≪婚約破棄≫・6

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 お互いを求め合い与え合って、快楽を貪った後の時間が好きだ。
 それは、学も美春も同じ気持ちだろう。
 愛しい人を感じた後なのだから、心も身体も幸せに包まれている時間だ。
 だから出来れば、こんな話は避けたかった。けれど、それはしなければならない話だったのだ……。

「誕生日パーティーの前日に、婚約者候補の話を紗月姫ちゃんにしておくらしい」
 愛欲に溺れた後の気だるい身体をベッドに横たえ、学は美春を胸に抱いて、彼女の頭に回した手で髪を撫でた。
 うっとりと彼の胸に頭を乗せ、耳から響き入って来る鼓動を心地良く聴いていた美春だったが、鼓動よりも聞かなくてはならない話の出現に、そのまま顔を上げ学を仰ぐ。
「当日に紹介するって言っていたから、当日いきなり会わせるのかと思っていたわ」
「そういう訳にもいかないだろう? 覚悟くらいはさせておかないとね。小さな子供に、家庭教師を紹介するのとは訳が違うし」
「……なら、前日じゃなくて、もう少し早くても……」
「十六の時にも一度、婚約者候補の話が上がった事があって。その時は余裕を持って紗月姫ちゃんに話をしたのだけれど、反発した彼女が家出騒ぎを起こした。……前日なら、そんな事もしないだろう? 紗月姫ちゃんだって自分の状況が変わっている事は分かっているだろうし」
 
 だがきっと紗月姫はショックを受けるだろう。楽しみにしているパーティーの前にそんな話をされては。
 話をする時、神藤は一緒なのだろうか。紗月姫に婚約者候補が与えられるという話を、彼はどんな気持ちで聞くのだろう。
 それを考えると美春はいたたまれない気持ちになる。
「説得役、という訳ではないが、総司叔父さんに相談を受けていた身として、俺も同席する。美春も、行こう?」
「私も? いいの?」
「美春がいた方が、紗月姫ちゃんがもし動揺してしまった時に都合が良い」
 動揺しない訳が無いではないか。パーティーの後まで知らされる事は無いにしろ、これで学までもが候補になっていると知ったら、彼女の動揺は頂点に達するだろう。

「それと、明日か明後日、もうひとつ、やらなければならない事があるんだ……」
 紗月姫の動揺を心配する余裕は与えられなかった。学はすぐに話を切り替え、美春の髪を撫でていた手を止めて真剣な目を彼女へ向けたのだ。

「俺と美春の婚約を、一時期でも正式に解消するという話を、俺の両親と、光野の両親に、話をしなくちゃならない」

 驚きに飛び跳ねた身体は、そのまま美春の上半身を起こし、不安に見開かれる瞳を学に見せ付けた。
 婚約の解消を互いの両親に話す。
 これは大変な事だ。
 美春を溺愛している光野の家族に婚約解消の説明をするだけではなく、学は賭けに負ければ“辻川を継ぐ”という約束までしている事を、自分の両親に説明をしなくてはならないのだ。
 だがこれは結果に自信のある賭けなのだ。賭けをした事を黙っていてやり過ごす事は出来ないのだろうか。

「……以前も言ったけど、賭けの相手は“辻川財閥の総帥”だ……」
 美春が言いたかった事を見抜いたかのように、学は美春を見詰めた。
「誤魔化しは通用しない……。徹底的に、“賭けの覚悟”を見せなくては、この賭けは途中で打ち切られる」
 上半身を起こしてしまった美春の腕を引き、ゆっくりと再び胸に抱く。
 彼女を抱き締めその髪を撫でて、学は自分の思いを口にした。
「俺は、負けるつもりなんか無い。だから、誤魔化しはしない。誰もが納得いく形で、賭けに勝つつもりだ」
 美春は学の胸に身体を預け、いつもは心地良く聴く彼の鼓動を、胸が詰まる思いで耳に入れる。力強い腕が、美春を更に強く抱いた。
「話す事で、美春にも辛い思いをさせるかもしれない……。でも、責められるべきは俺のはずだ。説明は全て俺がするから。美春は、黙って見ていてくれ」
「でも、学……」
「俺を、信じてくれるよな?」
 これが学の“賭け”である限り、学は二人を知る全ての人間に責められるだろう。
 内情を詳しく知る人間ではない限り、例え一定期間でも本来の婚約者との婚約を解消して他の女性の婚約者候補になるなど、不誠実極まりない話だからだ。

「もちろん……、信じてるわ……」
 美春は学の身体に腕を回し、彼の胸に頬を擦りつけた。
「それに、学と一緒に乗り越えて行きたい、って言ったのは私だもん……。大丈夫よ」
「美春……」
「皆が幸せになれるわ。素敵な事よ」
 学はゆっくりと身体を返して、胸に乗せていた美春を静かにシーツの上へ寝かせた。彼女に覆い被さり、優しくその身体を掻き抱く。

「愛してるよ。美春」
「私も。愛してるわ……、学」

 信じ合う二人に、優しく穏やかな時間が与えられ、幸せは共有される。
 だがこの幸せは……。
 これから訪れる、波乱の前に与えられた、ひとときの安らぎ……。


*****


 美春の父親、光野大介は、葉山製薬開発研究部研究室の室長だ。
 優しく穏やかな人柄や、研究熱心で末端の研究所の話にも真剣に耳を傾ける堅実さが、研究所員や社員達に絶大な支持を得ている理由だ。
 そんな彼が、娘の美春を冗談抜きで溺愛しているのだと社員に知らしめてしまったのは、実は三年ほど前。美春がまだ大学三年生だった頃、所要があって学と共に社長を訪ね、そのまま大介の元へ来た時だ。
 またそれは、「光野室長のお嬢さんは可愛くて美人だ」という噂を流し、美春を入社前からアイドル化させた出来事でもある。
 同じ会社に居るとはいえ、部署も違えば仕事も違う。会社も広いので意識して会おうと思わない限り会えるものではない。
 なので、美春がわざわざ大介のスケジュールを秘書に確認し、空いているであろう時間に自分の時間も空けて室長室を訪ねてきたりすると、彼は今にも泣き出さんばかりの勢いで感動してくれる。
 本当に泣きはしないが、実際数分前に美春が室長室を訪れて来た時も、丁度報告にやって来ていた三名の所員を追い出してしまったほどだ……。

「美春と一緒に食事なんて、久し振りだな」
 そして、最愛の娘を目の前に、大介は今もご機嫌なのだ。
 室長室のソファに座り、頂き物の“蓬(よもぎ)饅頭”を竹楊枝で切りながら幸せそうに口へ運ぶ美春を、穴が空くほど眺めている。
「一緒って言ったって、他にも一杯だけどね」
「それでも、最近家でも美春と食卓についた記憶が薄いからな。お父さんにとっては“久し振り”だよ」
「んふ……、ごめん」
 ちょっと肩を竦めてはにかむが、内心申し訳ない気持ちが湧きあがって来てしまう。
 社会人になってから、仕事の効率を考え仕事が終わったら葉山家へ帰り、朝はそのまま学と出勤するという日が多くなっていた。今年に入ってからは、それが去年以上に増えている。
 大介の記憶が薄いのではない。美春自体が家に帰っていないので、一緒に食卓へ着く事が無くなってしまっているのだ。

 いくらお隣さんで気心が知れていて、おまけに婚約者同士といえど、まだ結婚をしている訳ではない。ほぼ葉山家に住んでいると言っても過言ではなくなってしまっているこの状況を許してもらっている事に感謝しつつ、甘えて勝手をしてしまっている事に、娘としては少々負い目を感じてしまっている事は確かだ。

「一のトコとウチで一緒に食事会なんて、元旦の親族会以来かもな。去年は一ヶ月に一度は揃っていたような気もするが。それだけ今年は忙しいって事だし。良い事だよ」
 美春が何か気まずい物を感じてしまった物を悟ったのだろう。大介はさらりと流して話を変えた。
「今回は一が決めたのではなく、学君が決めたらしいね。何でも、田島君も弁護士のお父さんと一緒に同席するとか」
「あ、……うん、あの、田島君は涼香と今年中に籍入れるし、一真が晶香ちゃんと結婚したらさ、全くの他人ではなくなるから……。それで、交流も兼ねて、じゃないかな……」
「そうなのか? 学君は連絡をくれた時、『大切なお話もあるので』と言っていたし、弁護士さんが同席だから、お父さんはてっきり美春に赤ちゃんでも出来て、『入籍先にします』とか言われるのかと思っていたぞ」
「おっっ、おとーさんっ、そんな訳ないでしょうっ」
「そうか? 残念だな」

 冗談にも程があるが、大介の気遣いに、気まずそうだった美春の表情が笑顔に変わる。それを見て、大介も嬉しそうに笑ってくれた。
 しかし、笑顔の影で美春は胸が痛む。
 大好きな父の笑顔が、もうすぐ、口元を上げる事も出来ないほど驚愕に固まってしまうのだろう事実を、想像して……。






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 あー、大介さん、やっと出せた。(笑)
 大介さんは美春ちゃん溺愛パパですから……。婚約解消の話を、彼はどう聞くのでしょうね。
 心配なのは大介さんだけじゃないです。
 葉山の両親もそうですけど、もうひとり、美春ちゃんを大好きな人がいますから……。
 うーん、冷静なのは、田島親子だけかもしれないなぁ……。( ̄  ̄)

 そんな不安だらけな食事会。(報告会)が、始まりますよ。

 では、次回!!






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~ Comment ~

ドキドキです;;;

玉紀先生

・・・どんどん心拍数があがっております・・・
このお話が、佳境に入るころ、倒れちまうのではないか・・・
・・・
・・・
なーーーーんて、ちょっとか弱いことをいってみたかった;;
しかし、心拍数が上がっているのは確か・・・
とうとう、両家に説明する日が来たのですね;;;
幸せを掴む為に必要な賭けとはいえ、とても辛い1ヶ月の始まりです
危険を伴います・・・多分・・・ですよね・・・先生????
最後に幸せがあることはわかっていても、また迷宮~で話は理解していても、学っちと美春ちゃんのこれからの1ヶ月が辛いですね;;
でも、倒れないように?いえ、間違っても、PCを倒さないように心してがんばります
先生もお体ご自愛ください;;

Re: ドキドキです;;;(hiromiさんへお返事です3/3)


hiromiさん、こんにちは!

 おっ、おねがいしますっ。
 PCぶったたいて壊さないで下さいね。(・∀・;)
 いや、多分「こんな展開しらねぇ!!」って言っちゃうような展開になりますので……。

 本当に、両家には説明しないでやり過ごしちゃえばいいのに、って思いますが、そうもいかないんですよね。
 「迷宮~」ではここまで突っ込んでやらなかったので、謎部分ではありましたがそんなにひどい事にはなっていないのだろうと皆さん思っていると感じています。
 でも、現実的に考えれば、深刻な事ですから……。

 hiromiさんも倒れない様に。^^;
 
 有難うございました!!

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