「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第3章≪婚約破棄≫・7

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 学が例の話をする為にセットした食事会の出席者は、学の両親、美春の家族、そして田島親子。
 そこに学と美春を足した九名だ。
 「話したい事があるから」という気になる前振りはあるものの、これに欠席を告げる者は一人も出はしない。
 学が場所に選んだのは、葉山家がよく利用する和食割烹店。若者のセレクトなので洋風のレストランにでも席をとったのかと思っていた親達は少々意表を突かれたが、もしかして気を遣って落ち着いた場所を選んだのかともとれた。
 九名という人数なので、用意された部屋も大きければ中央にセットされた座卓も大きい。
 ほのかな灯篭の明かりでライトアップされた、品の良い日本庭園を臨む和室に全員がそろった頃、穏やかな雰囲気で食事会は始まったのだ。

「嬉しいわ。本当に久し振りよね。せっかく学がセッティングしてくれたから、今日は仕事も強制終了させて来たのよ」
 学の母親、葉山さくらは、相変わらず年相応に見えない顔に満面の笑みを浮かべ、隣に座る夫の腕に抱き付いた。
 娘時代からの童顔ではあるが、元々の雰囲気が可愛らしいせいか甘える仕草が実に堂に入っている。これでも四十になって間もないさくら。いつも言われる事ではあるが、二十四歳の息子がいるとはとてもではないが思えない。

「そのお陰で、明日は昼食も摂らせてもらえないほど忙しそうだが?」
「あら? そんな事は致しませんわよ。会長っ」
「本当か? さくらはたまに嘘つきだからな」
 そして、この十歳年下の妻をこよなく溺愛しているのが、葉山一。葉山製薬の社長にして、葉山グループの会長だ。
 業績の安定した老舗大企業と言われた葉山を、その手腕で傘下を増やし、グループ企業にまで押し上げた立役者。彼によって“葉山”は、ただの薬屋さん、ではなくなった訳だが、息子である学の代には更なる大躍進をするのではないかとも噂され、他企業の密かな脅威になっている。 
 もちろんだがこの二人にとって、ひとり息子の学は自慢であり、とても大切な存在だ。

 さくらは一の第一秘書。学に食事会をセットしたからと聞かされ、大介と同じくらい彼女が喜んでしまった理由は、やはり彼女も最近忙しく、姉妹の様に仲の良いエリや、大好きな美春どころか学ともなかなかゆっくりと話をする時間が取れていなかったせいだろう。

「さくらちゃん嬉しそうねぇ。大介と一真もね、朝からソワソワしちゃって酷かったのよ。美春と会えるからって」
「エリっ」
「ちょっ! 母さ……っ!」
 そして、夫と息子の浮かれ振りを、二人の間に座ってさり気なく晒すのは、大介の妻であり美春と一真の母である、光野エリだ。
「本当よぉ。数日姿が見えないだけでこれよ? 電話なんかで話はしているくせに。お嫁に行ったらどうするのかしらね~、この人達はっ。その前に一真は“お姉ちゃん離れ”しないと、晶香ちゃんがお嫁さんに来ても同じ事をしていたら、逃げられるからね」
「かあさんっ」 
 嫌味ではなく、実に爽やかに言ってのける彼女。何を言っても憎めない特異な雰囲気は、正に美春へと受け継がれていると言っても過言ではない。
 子供達よりも明るい栗色の髪と蒼い瞳をもつ彼女は、日本人の母親とフランス人の父親を持つハーフだ。

「しょ、晶香ちゃんはね、良い子だからちゃんと分かってくれてるのっ。だいたい、彼女だって“お姉ちゃん離れ”してないし」
 彼の発言は、晶香が一真の事を理解してくれているという、実に良い言葉ではあるが、最後の言葉がいけない。そこにすかさずひと言入れてしまったのは信だった。
「でも一真君。君の場合と晶香ちゃんの場合じゃ“シスコン”の意味が違うと思うけど」
 せっかくオブラートで包んでハッキリと言わない様にしていたというのに、これでは台無しだ。
 ただ、一真が“超”の付くシスコンである事は出席者の誰もが知っている事なので、敢えて信の発言に異を唱える者はいない。一真の本質を知らない人間がひとりだけ居る事はいるのだが、ちょっとした出来事には動じない性格なので“シスコン”くらいで口は出さないのだ。
 だが、その話題を引き出してしまったのが自分の息子だとなると話は別になる。
 気楽に確信を衝いた息子に対して、田島信悟は同じく気楽に暴言を吐く。
「まぁ、お前も“隠れマザコン”だから人の事は言えないな」
「とーさんっ」
「ん? 別に隠れてはいないか?」
 眼鏡の奥にある鋭い瞳が、面白そうに信を見る。可愛い爽やか君タイプの信の父親とは思えないような冷徹な雰囲気ではあるが、亡くなった妻を十六年間想い続けている様な一途さを秘めた男だ。
 法曹一族、田島法律総合事務所の現所長。代々葉山製薬の顧問弁護士を務めてきた家系であり、一とは幼い頃からの知り合いで、未だに一を「坊ちゃん」とからかうツワモノだ。

「信悟先生、特に隠れてはいないですよ。昔、涼香さんのどこが好きなのかって訊いたら、堂々と「笑った顔か死んだ母さんに似ていて、すっごく可愛いから」とか、断言した男ですから」
「はやまっっ」
 いきなり暴露された親友の恋バナではあるが、失礼ながら初めて耳にする事実に美春は噴き出してしまった。
 しかし笑うのは失礼だと感じたのか、すぐに指先で口を押さえて繕い笑いを信に向ける。
「ごっ、ごめっ、田島君っ」
「いいよ、いいよ。美春さんに笑われても腹も立たないし。かえって潤いになれて嬉しいよ」
 気を遣ったのではなく本心なのだが、そこで学は訊いてはいけない事を訊く。
「高校の頃、それ聞いて笑った俺を殴らなかったか? お前」
「お前に笑われると腹が立つ」
「信ちゃん、冷たくね?」
「るせっ」
 親友同士の楽しい語らい。しかしそこに、父親の叱責が飛ぶ。
「“専務”に、『るせっ』とは何だ。この礼儀知らずがっ」
 叱責も飛んだが、平手も飛んだ。信の後頭部は、信悟によってペシッというとても良い音を発してくれたのだ。
「相変わらず、中身の詰まった良い音だな」
「西瓜かっ。オレはっ」
「褒めてるんだぞ」

 美春は再び小さく噴き出し、学も楽しそうに微笑む。
 「信悟先生は、本当に信君が可愛いのねぇ」とさくらに冗談抜きの褒め言葉を貰い、とても和やかな雰囲気の中、一真だけは是非とも晶香に“信の隠れマザコン説”を話してやろうとほくそ笑んでいた。
 食事中も続く団欒のひと時ではあったが、一通りコースも終了し店の人間が入って来る事も無くなった頃、「皆さんにお話をしたい事があります」と学が口火を切り、場の雰囲気は変わり始めた。
 学が目で信に合図をすると、彼は傍らに置いていた書類鞄から、クリアファイルに挟まった数枚の書類を取り出す。
 そしてそれを、大きな座卓の中央に置いたのだ。
 覗きこみ、そして不審げな表情を見せたのは五人。学の両親と、美春の家族。
 覗き込む事も顔色を変える事もしなかったのは、その書類が何であるかが分かっている田島親子と、学と美春だ。

「……これは?」
 代表する様に一が冷徹な視線を学に向けた。

 五人が目にした書類には、見逃してはいけない題目が付けられていたのだ。

【葉山学、光野美春・一時婚約解消についての概要】

「……ご説明します……」
 学の声が、重々しく部屋中に響いた。






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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 一気に登場人物が出て来てしまったので、ご説明を兼ねての展開になりました。
 何気ない話で平穏な雰囲気。
 ですがこの雰囲気は一転します。

 第3章中盤、さて、学君の説明は旨くいき、理解を得る事が出来るのでしょうか。

 では、次回!!





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chieさんへお返事です3/4

chieさん、こんにちは!

 うふふ~。けっこう、お風呂でのいちゃらぶが多い二人です。❤(///∇///)

 これから展開が少々辛いですね。
 婚約解消の話をしなくてはなりませんから。

 久々に、というか、やっと一さんやら信悟さんを出せました。(笑)
 絡められるシーンが少ないのが悲しい。(おい)

 哀しい展開が続きますが、どうぞお付き合い下さいませ。;;

 有難うございました!

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