「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第3章≪婚約破棄≫・15

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 紗月姫を部屋へ運んだ神藤は、彼女をソファへと横たわらせると、「お待ち下さい」と一言残し、冷たいタオルを用意する為にその場を去ろうとした。
 しかし紗月姫が伸ばした指先が、ギリギリのところで神藤のスーツを掴んだのだ。
「待って……。ここに、いて……」
 神藤は掴まれた裾から紗月姫の手を外し、その手を両手で包み込んで傍らへと跪く。
「冷たいタオルをお持ちします。あとは、お水を……」
「いらない……」
「お嬢様……」
「神藤が、いてくれたら、何も要らない……」
 包み込まれていた手を外し、紗月姫は神藤の肩から腕を回して抱き付いた。首を締めんばかりの力で抱き付いてくる紗月姫の腕を優しくポンポンっと叩き、神藤は彼女の髪を撫でる。
「分かりました。ここにいますから。そんなに力を入れてしがみ付くのは、私を感じて下さっている時だけにして下さい」
 神藤の言葉が恥ずかしかったようだ。紗月姫は腕の力を緩め、身体を離して彼を見詰めた。

「……そうするわ……」
 花恥ずかしそうにはにかんだ顔は、先ほどまでの青白さなど微塵も無く、薄桃色に染まった頬が気持ちの回復を伝えた。
 そんな彼女を見詰め、神藤は撫でていた髪を指に絡めて頭を引き寄せると、唇を近付ける。紗月姫は瞼を閉じ、花びらの様な唇を半開きにして彼を受け入れた。
 彼の温かい唇を受け入れているというのに、紗月姫の閉じた瞼から涙が流れ出した。御機嫌は直っているはずなのに、彼女の涙は頬に小さな小川を作り続ける。

「お嬢様……?」
 紗月姫の涙を頬に感じた神藤が唇を離すと、彼女は再び強く抱きついて来た。
「どうして返事なんてしたの……。どうして、了解したの……」
 紗月姫が気に病んでいるのは、婚約者を決定した時点で神藤がお世話役を降りるという事実だ。総司に追い詰められ、彼はそれを承知してしまった。
 だが、あの状況では、そして彼の立場では、承知する以外の手立てが無い事を、もちろん紗月姫も知っている。
 それでも、一ヶ月後に訪れるその時を思って、紗月姫は哀しみを神藤にぶつける事しか出来なかった。
 神藤は紗月姫の身体を抱き起こしながらソファへ腰を下ろすと、膝の上に彼女を座らせた。
「申し訳ありません……。お嬢様」
 言い訳も、取り繕う事もしない。彼はただ、紗月姫の責めを受け彼女を抱き締めた。
 紗月姫は抱き付いた神藤の背中を、か細い力で何度も叩く。八つ当たりなのか、甘えているだけなのか。恐らく両方だと悟る神藤だが、彼は紗月姫を抱き締め髪を撫で続けた。
「どうしたら、許して頂けますか?」
 不意に出される交換条件に、紗月姫の責めが止まる。彼女は小さな声で呟いた。
「……しがみ付かせて……」

 予想の付いた言葉ではあったが、神藤はそのまま紗月姫を抱き上げ寝室へと足を向ける。
「存分に、しがみ付いて下さい……」

 期限付きの愛を確かめ合う二人。
 残された時間は、あと一ヶ月……。


*****


「まなっ……、だめ……」
 美春は何度も唇を避けようと顔を逸らす。しかし毎回避け切れず、否定する唇は学の唇に塞がれた。
 大介との約束なのだ。学が紗月姫の婚約者候補になる期間、幼馴染同士の関係に戻ると。
 だから美春は朝から耐えて来た。移動や仕事で一緒に行動はしても、自分から近寄る事は極力せず、もちろんキスなんてしてはいない。美春は我慢しているのに、学は約束を守る気が無いのだろうか。大介の前で「分かりました」と返事をしたのではなかったのか。
「約束……守らない人……、嫌いだからね!」
「じゃぁ、嫌いになればいい!」
 顔を逸らして手を振り解こうともがいた美春だが、その手は顔の横でシートに押さえ付けられ、更に真剣な双眸が彼女を射抜いた。

「お前が嫌っても……、また惚れさせてやる」

「なっ……!」
 美春は一気に顔が熱くなっていくのを感じた。
 学の真剣な声と瞳に見詰められて、この台詞は反則だ。
 怒りたくても怒れなくて口をパクパクさせる美春だが、学は冷静に彼女の額に額をくっつけた。
「……嫌いか? 俺の事」

 コンビニの駐車場ではあるが、店から外れた横通路の奥に止めてしまったせいで、街灯の灯りも届かず車の中は薄闇だ。
 そんな薄闇の中、美春の目には今にも閉じ込められてしまいそうな学の瞳だけが映り込む。
「大体な、俺は、幼馴染同士だった時の方が美春に触ってる。“意識的に”って意味だけどな。わざと頭撫でたり、肩抱いたり。ちっちゃい時からベタベタくっついてたから美春はすっかりそんなのにも慣れていて、さり気なくアプローチしても全然気付かないくらい鈍くなってたけど」
「にっ、鈍い……、酷っ……」
「本当の事だろう」
「で、でも、幼馴染の頃はキスなんてしなかったもん! これは触り過ぎ……」
「キスしただろ」
「ちっちゃい頃に、ほっぺにチュー、とかっていうのとは……」
 抵抗をしていた美春だが、そこまで口に出してからフッと表情が変わった。
 ――思い出したのだ……。

「キスしただろ? 二歳の時……」

 一番大切な思い出を心に呼び起こして、学の唇が重なる。

 ――愛してるよ。結婚しようね。

 二人が出会ったあの日。幼馴染として、運命の相手としてスタートしたあの日。
 確かに、小さな二つの唇は重なった。

 学の唇に啄まれながら、美春は目頭が熱くなり漏れそうになる嗚咽に肩が震え出した。
 幼い頃からずっとずっと大好きだった学。
 大好きで大好きで堪らなくて、いつも一緒に居た。成長して意地を張る様になっても、距離的な物は何も変わってはいなかったはずだ。いつでも二人は、一緒だったのだから。
 学はその頃と同じように接しているだけだ。
 それなのに、今日一日、美春は学を避ける事ばかり考えていたような気がする。
 触らない様に。近寄らない様に。関わらないように、と。
 辛く厳しく、考え過ぎていたのかもしれない。

「……幼馴染の頃、俺の事好きだったろ……?」
「うん……」
「俺もだ。用が無くても美春に構って、絶対視界から離さなかった。だからな、ワザと避ける必要なんかないからな。今日の美春は考え過ぎだ」
「うん……うん……」
「大体、まだ俺達、婚約者同士だし」
「うん……、……えぇっ!?」
 感傷的になって半泣き状態だった美春。学の言葉にもただ「うん」と繰り返していただけだったのだが、衝撃の事実に彼女は目を見開いた。
 もちろん学は、意地悪くニヤリと笑う……。

「美春、俺から事前に話を聞いているから、婚約解消に関する書類、見てないだろう? 一時婚約解消が執行されるのは、俺が紗月姫ちゃんの婚約者候補として彼女に紹介された時点からだ」
 目と口を開き、呆然とする美春のシートベルトを外して、学は喉の奥でおかしそうに笑う。
「昨日の反応見ても、多分勘違いしてるなと思ったけど、今日の避け具合は異常だぞ。俺が紗月姫ちゃんに紹介されるのはパーティーの後だし、その後ですぐ北欧に行って決着を着けるつもりだから、実質、婚約者じゃなくなる期間ってそんなに長くないんだよな」
 笑い上戸のツボにはまったらしく、学は頭を美春の胸に乗せて肩を震わせている。もちろん美春は、出る言葉も無い。

(だったら早く教えてよ!!)

 美春の怒りが伝わったのか、学は笑うのを自力で止め、顔を上げて、涙が溜まった美春の目尻に唇を付けた。
「ごめんな、美春。……期間が長かろうと短かろうと、美春に悲しい思いをさせるのは変わらないな……」
 学の唇をホッとした思いで感じながら、美春は表情を和ませる。そのまま彼を抱き締め、耳元で囁いた。
「……大丈夫……。学だって、辛いはずだもん……。信じてるからね……」
 安心した気持ちの中で、二人の唇が重なる。
 大切な人達に波紋を投げた“一時婚約破棄”という事実。
 今は、ただ学の計画が上手くいく事を祈るしかない。

 学が北欧から最良の結果を持ち帰り、運命を変える鍵を投げてくれる日を、待つしかない。

「なんか……、凄く安心しちゃった……」
「安心したついでに、ここで、する?」
「ばかっ! 調子に乗ってっ! もぅっ」

 と、いいつつ……。

 この後、内窓が曇ってしまったレクサスが、小一時間ほど駐車場に停まりっ放しだったのも、事実……。






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第3章≪婚約破棄≫
 今回の第15話でラストになります。

 タイトルの悲惨さから……。
 なんとなく読んで頂いている方々も、おっかなびっくりだったような感触が……。(^_^;)
 ラストはちょっと平和にしてみました。(笑)
 でも、婚約解消期間があるのは変わりがないです。その準備を抜け目なくやってしまったばかりに、両家を巻き込んだ大事になってしまいましたね。

 二人の思いを新たに、紗月姫ちゃんと神藤さんに不安を残したまま、誕生日パーティーが始まります。
 婚約者候補の三人が、紹介されますよ。
 そして、学君が持ってくる結果を信じながらも、彼を諦め切れない総司さんが、ついにやってはいけない行動に出ます。

 では、次回より、
 第4章≪辻川の刃≫
 (“刃”は“やいば”って読んで下さいね<(_ _)>)
 に、お付き合い下さい。

 宜しくお願いします!


 *次回更新は、3月21日からになります。





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ツキハラコトセさんへお返事です3/13


 コトセさん!

 こんにちは! 3章もお付き合い頂き、有難うございました!!

 へへへへへ~~~。(←不気味)
 3章のラスト、平和だったでしょう?(笑)
 タイトルが不吉でしたからね。ちょっと平和に終わらせてみました。(^^ゞ

 多分、美春ちゃんが書類も見ないで勘違いをしていると気付いた信君は「学君の意地悪」(* ̄m ̄)プッ……と、心の中でほくそ笑んだ事でしょう。(笑)

 美春ちゃんのお誕生日、覚えててくれたんですね。
 有難うございます!
 そうなんですよ。13日!
 SSもいちゃらぶも何も出来ませんでしたけど、覚えていて頂けて本当に嬉しいです!
 そうそう。去年は地上200メートル、でしたね。
 あのシーンは、私の妄想の中でも大好きなシーンです。(///∇///)

 4章スタートまで、長いお休みを頂いています。すみません。
 是非また、お付き合い下さいね。

 ちなみに、「シルシ」のみならず、カタカナにするといやらしく感じる言葉が結構多い気がするのは私だけ……?
 「ナカ」とか「イイ事」とか……。(←そっちかい!)


 有難うございました!



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