「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第4章≪辻川の刃≫・1

 ←第3章≪婚約破棄≫・15 →第4章≪辻川の刃≫・2

「パーティーの出席はやめよう」
 その場にいた誰もが思った。
 ――やっぱり言った。と……。
「どうして? 学」
 そして美春も、返答が分かっているのに訊いてしまったのだ。

「こんな綺麗な美春、他人に見せられるかっ。もったいない!」

 予想通りの台詞は学の十八番。
 美春はもちろん、一やさくらも苦笑いだ……。
「もぅ、学ってば、いっつも同じ事言って」
 しかし、はにかむ美春は内心、学のその台詞を待っていたりもする……。
 学を「大袈裟だ」と笑ってはいけない。恐らく誰が美春の恋人でも、今の彼女を見れば彼と同じ事を思ってしまう筈なのだ。

 ブラックパールのイブニングドレスを白い肌に纏わせ、緩やかに巻いた栗色の髪をアップにした、華やかさと艶やかさを湛えた彼女を目の前にすれば……。


 紗月姫の誕生日パーティーが催される週末。
 仕事を早めに切り上げた二人は、社長室の別室を借りて出席の準備をした。
 専務室にもクローゼット兼用の部屋があるので着替えは出来るのだが、準備を終えて地下駐車場まで直通で降りるとしても、エレベーターホールへ行くまでに同フロアの社員に会う可能性が充分にある。
 しかし最上階には社長兼会長の執務室しかない。
 ここで着替えてしまえば、よっぽどの事が無い限りエレベーターに乗るまで他人に会う事はないのだ。
 何故人に会う事をそんなにも避けるのかといえば、着飾った美春を他の人間に見せたくないという学の我儘ひとつしかない。
 パーティー会場に入ってしまえば、隠す事など不可能なほど他人の目に晒されるのだから、そこまで拘らなくても良いだろうと思うが、会場という本番で彼女が活躍をするのは構わない、しかし、そこへ出るまでの過程で余計な物を引っ張りたくはないという考えなのだ。
 それはもしかしたら、幼い頃から美春におかしな虫が付かない様に守り続けて来た学の、防衛本能のひとつであるのかもしれない。

 そう思うと、学のこんな我儘も、とても愛おしく感じてしまう。

「でもね、そんな事を言うなら、私だってこんなに素敵な学を他の人に見せるのは嫌よ?」
 学の我儘太刀打ち法など、美春はとっくに習得済みだ。
 大学三年の頃から、学が会社関係の代行や研修で動く時は必ず同行させられるようになった。もちろん、パーティーや会合、レセプションの同伴も必ずさせられていたのだから、美春が着飾らなければならない機会は増え、秘書になってからは更に増えている。
 正直、着飾るたびに飛び出す学の十八番に、いつもいつも頬を染めて無言になっている訳にはいかなくなっているのだ。

 美春は「んふふっ」と可愛らしく肩を竦め、目の前に立つ学の鼻先をツンっとつつく。
 完璧な佳麗さを漂わせる彼女が見せた、今の姿には似つかわしくない、とても可愛らしい仕草。学はすっかり我儘を忘れ美春に見惚れた。

 学の我儘を諭す為に口にされたかのような美春の台詞だが、決してそうではない。
 美春にだって、正装した彼を他人に見せてしまうのはもったいない、という独占欲はあるのだから。

 今夜の学は、美春のイブニングドレスに合わせてミッドナイトブルーのテールコートだ。
 パーティーのレベルに合わせて正装のレベルも変えるが、辻川財閥御令嬢の誕生日パーティーに親族として出席するからには、辻川側だけではなく来賓達の目にも配慮しなければならない。
 スーツ姿は毎日見ているし、パーティー系はほとんどがタキシードだ。テールコート姿など今まで数回見た事がある程度。
 学が美春に見惚れるだけではなく、美春も彼に見惚れてしまっている事は言うまでもない。


「ほらほら。二人で見詰め合っていたら、パーティーに遅れてしまうわよ」
 楽し気に笑うさくらの声で、二人はやっとお互いから目を逸らした。すぐ傍では一とさくらが二人を微笑ましそうに見ている。
「見惚れる気持ちは解るわ。二人とも、とても素敵よ。学のテールコート姿なんて見ると、結婚式みたいでワクワクするわね」
「有難うございます、お母さん。でも、結婚式の時はワクワクどころかドキドキし過ぎて心臓発作を起こしてしまう位の姿をご覧にいれますよ」
 さくらの称賛を受けつつも、学は美春の肩を抱いて更なる感動を約束する。
「何年か後に、『結婚式の学は、一さんよりカッコ良かった』って言わせるくらいね」
 学はさくらに向けてではなく、一の顔を見ながら笑顔を見せる。滅多に出ない息子の憎まれ口に、一はちょっと嬉しそうな笑顔を見せた。

「じゃぁ、お前達の結婚式の時は、私も新郎を喰ってしまう位めかし込んでみるか。美春ちゃんに『お父様の方がカッコ良かった』って言ってもらえるように」
「……美春なら本当に言いそうなので、やめて下さい……」
「学っ、言わないわよぉっ……!」
 一に煽られ少々本気で返答してしまった学を見上げて、美春は慌てて否定した。これはやはり、時々学の前で「お父様、素敵よねぇ」と口に出してしまうせいだろう。
 しかし、美春にさえも「素敵よね」と言わせてしまう一に、学は確実に似てきている。美春が一を褒めてしまうのは、学が彼自身尊敬する父親に似てきているからだと、気付いてくれているだろうか。

「じゃぁ、早く、その極上の姿を見せて頂戴。美春ちゃんを着せ替え人形状態にするくらいドレスを選んであげようって、エリちゃんと楽しみにしているんだから」
「すぐですよ。もう少し待っていて下さい」
 いつか来るであろう結婚式の話を、笑いながら語らう三人を見て、美春は心穏やかな感覚を覚えていた。 
 一時婚約解消という事実があっても、一やさくらは何一つ態度を変えない。
 学が言っていた通り、婚約解消になる期間は彼にかかっている。一週間か、一カ月か。結果によっては一生。しかし、最悪の事態など誰も想定はしていない。学は一週間で決着をつけるとまで言っているのだ。
 話し合いが行われた日は、光野の家族も学の決断に反感を持っていた印象を受けたが、その後はこの件を話題にする事もなく、いつもと変わらない毎日を過ごしていた。
 ただ、やはり少々気を遣ってしまうところは学にも美春にもあり、美春はあの日から、毎日必ず光野家に帰る様にしている。

「さて、美春。会場入りする前にお勉強の復習だ」
 学は美春の背を促し、大理石のテーブルの前に座らせる。そこに置いてあったノートブックを開くと、すぐにウィンドウが起ち上がった。
「辻川紗月姫嬢の婚約者候補。今夜本人に紹介される三人。もう一度、見ておいてくれ」
 横から伸びて来る学の指先を見ながら、美春はクスリと笑う。
「学の、“ライバル”達ね?」
 ちょっと皮肉が込められた台詞は、反対に愛しさのボルテージを上げる。学は美春の肩を抱き髪に唇付けてから「そういう事だ」と口にしてキーを押した。

 モニターに、三人の男性名が映し出される。

【九条 貴明】 【袴田 進一郎】 【久我山 充彦】

「……錚々たるメンバーね……。でも残念ながら、“私の”学以上の男性ではないみたい」
 肩を抱く腕の強さを感じながら、美春はモニターに見入った。






人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第4章≪辻川の刃≫
 スタートします!
 またしばらく、お付き合い下さいね。

 和やかな雰囲気で始まりました、第4章。
 一時婚約解消という話の影響は、それほどない様です。
 それでも、学君に頑張ってもらわなくてはならないのは変わらないのですが。

 3人の婚約者候補。
 内密にされる4人目の学君と、候補未満の神藤さん。一見この二人の引き立て役でしかないような配役ですが、この3人も、とある人物の運命を狂わせてゆく役目を負っています。
 さぁ、パーティーが始まりますよ。

 でもその前に、“パーティーの主役”の様子をご覧頂きます。
 こっちも、学君と美春ちゃんに負けず、いちゃついてますが……。(笑)

 では、次回!!




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第3章≪婚約破棄≫・15】へ  【第4章≪辻川の刃≫・2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第3章≪婚約破棄≫・15】へ
  • 【第4章≪辻川の刃≫・2】へ