「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第4章≪辻川の刃≫・2

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 紗月姫の誕生日パーティーは、辻川邸一階の大広間で行われる。
 屋敷の中でも一番大きく最高の設備を誇るこの部屋は、紗月姫が産まれる年に元々半分だった広間を増築した物だ。
 約五百名の来賓を迎える事が可能であり、紗月姫関係のイベントは必ずといって良いほどこの広間が使われる。
 そして今日は、朝から広間周辺が慌ただしかった。今夜行われるパーティーの為、使用人のみならず、会場設置用の関係者から警備員、紗月姫のお付きまで。準備とチェックに追われていたのだ。

 そんな中、いつも通り変わらない任務を遂行し続けていたのが神藤だ。
 日中は学校へ付き添い、屋敷に戻ってからは、準備で忙しない邸中の雰囲気を感じさせないよう、温室へ連れて行き藤棚で遊ばせた。
 神藤の配慮に嬉しそうな紗月姫ではあったが、どんなに彼が気を遣おうと、何度彼が優しく抱き締めようと、消えず変えられない不安が彼女には残っている。そして、神藤にも……。

 今夜のパーティーで、紗月姫に婚約者候補が紹介される。

 その事実は、二人の胸に重く影を落とし続けているのだ。
 避ける事の出来ない、現実として……。


*****


「どうかしら、神藤? おかしくはない?」
 おかしいなどと言う筈が無いではないか。
 今夜の紗月姫を見て蔑みの言葉を出そうとする者がいるなら、きっとその声は己の罪悪感で封印されるだろう。
 紗月姫の質問に、もちろん神藤は頬笑みで応えた。
「とてもお美しいですよ。予想以上です」

 白い肌にワインレッドのドレスが彩りを添える。
 ネックラインが鎖骨の下にくる服など、初めてではないだろうか。ローブ・デコルデタイプのイブニングドレスにしては、胸元のカットや腕の露出が少ないほうだが、普段露出を抑えた洋服ばかりを着用している紗月姫にとっては、大冒険と言って良いほどの大胆なデザインだろう。

 パーティー用に着替えを終えた紗月姫の元にやって来た神藤は、部屋の中央に置かれた大きな姿見鏡の前で頬を染める彼女に近付き、手に持ったシルクレースのショールを肩からかけた。
「上手く、お一人で着替えられたようですね」
 楽しげな笑顔を浮かべながらショールの先を結ぶ神藤を、紗月姫は拗ねた顔で見詰める。ショールの中に入ってしまった髪を丁寧に取り出す彼の指を感じながら、紗月姫は文句を口にした。
「……もぅ、誰のお陰で、一人で着替えなくてはならなかったと思っているの?」
「申し訳ありません」
 神藤が、髪を寄せた紗月姫の左耳の裏に吸い付く。既に数個の花びらを散らされているそこに、また新しく赤紫の花びらが散った。
「神藤……っ、もぅっ……」
 首を逸らして彼の唇から逃れたが、怒っている訳ではない。ただ少し恥ずかしいだけだ。拗ねて彼を上目遣いで見る紗月姫を、神藤は優しく抱き締めた。
「私に堪え性が無いばかりに、お嬢様に御面倒をおかけ致しました。申し訳ありません」
「――無くていいわ……」

 本当なら、メイド達の手を借りて着替えるはずだった紗月姫だが、「初めて着るタイプのドレスだから、ひとりで着てみたい」と、手伝いを拒んだのだ。
 それには、どうしても拒まなくてはならなかった大きな理由がある。
 毎夜、神藤と愛し合っている紗月姫は、その身体の所々に罪の刻印を残されてしまっているのだ。
 耳の裏に、胸元に、腰に、内腿に……。
 華やかに散らされた赤紫色の花びらを、他人に見られてしまう訳にはいかないだろう。
 いつもの神藤ならば、いつ誰に肌を見られるか分からないという可能性も考慮して動けるのだろうが、どうも紗月姫を抱いている時の彼は理性の歯止めが効かない様だ。

 “あの”神藤が、我を忘れて愛してくれる……。

 紗月姫はその事実が嬉しくて、こんな“面倒”も、かえって嬉しい。

「このショールは、絶対にお外しにはならないで下さい……」
 紗月姫を胸に抱き、神藤はショールで覆われた肩を撫でる。
「こんなにも露わになったお嬢様の肌を他人に見せるなど……、私は嫉妬でおかしくなってしまそうです……」
「クスッ……、このドレスを選んでくれたのは、神藤なのよ? 似合うと言ってくれたのに」
「もちろん、とても良くお似合いです。ですが……」
 神藤は紗月姫の顎を掬い、唇を近付ける。
「どうか、肌を出すのは私の前だけにして下さい……」
「……私の神藤は、こんなに我儘を言う人だったかしら……」
「我儘になる事を、教えて頂きました。――お嬢様に……」

 唇が重なると、紗月姫は神藤の背に腕を回す。
 ほわりと温かだった吐息は徐々に熱を帯び、絡まる舌が身体を弄る彼の掌と同じくらい熱い。
「神藤……」
 紗月姫はいつの間にか腰に落ちていた神藤の手に触れ、羞恥に満ちた瞳で彼を見詰めた。
「駄目……。そんなに触れられたら、私、パーティーに出られなくなってしまうわ」
 パーティーになど出したくは無いのが神藤の本音だろう。出れば彼女には婚約者候補の紹介が待っているのだ。しかし彼は本音を口には出さないまま、再び強く唇付け、そして迎えたくは無い瞬間の説明をする。

「婚約者候補の方々三名との顔合わせは、余興で会場入りしている弦楽四重奏団の演奏が始まってから行われます。今夜は、くれぐれも自己紹介と顔見せ程度の挨拶に留めるよう、先方に通達済みです。明日からは恐らく、皆様が御機嫌伺いと称してお嬢様の元へお通いになる事と思われますので」
 聞きたくは無い話を、口にして欲しくは無い彼の声で聞いている紗月姫は、込み上げて来そうな嗚咽感を堪えた。
「本日は、来賓の方々への接客も有りますし、お嬢様のご学友の皆様もいらっしゃいます。初めて目通りする男性達と過ごすより、同年代の令嬢同士で過ごす方がお誕生日パーティーを楽しめるだろうとの旦那様から頂いたご配慮です。後ほど旦那様にお会いしましたら、お心遣いを頂いた感謝をお伝えするのが宜しいかと」
「どうせ頂ける配慮なら、おかしな顔合わせなんて要らなかったわ。今回のパーティー、どこに心遣いがあるというの。全てお父様の思い通りではないのかしら」
 拗ねて総司を批判する紗月姫だが、神藤に優しく頭を撫でられ、はにかんで言葉を止めた。
「旦那様は、お嬢様を想って下さっていますよ。表向き余興としている弦楽四重奏の楽団は、お嬢様の為に先方の予定を裂いてもらってご招待なさったそうです。曲目もお嬢様がお好きなもので……」
「随分とお父様の味方をするのね。神藤」
 どうやら神藤は、総司のカタを持ち過ぎた様だ。せっかく機嫌が良くなっていた紗月姫が、またもや拗ねてしまった。
 しかし神藤は慌てない。彼が結んだショールを解き、隠れる鎖骨の上に淡い花びらを落とした。
「しっ、しんどっ……」
 反対に慌てる紗月姫に、神藤はニコリと微笑みかける。

 レースのショールが床に落ちるが、どちらも拾おうとはしない。
 二人は唇を重ね、少しでも長い間お互いを感じる事に懸命だ。

 期間限定の幸せを胸に閉じ込めて……。

 パーティーが、始まる。






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**********

 こんにちは。玉紀 直です。
 昨日は学君と美春ちゃんがべたべたしてたので、今日は紗月姫ちゃんと神藤さんで……。(*´艸`*)
 美春ちゃんもキスマーク付けられまくっていましたけど、紗月姫ちゃんも同じの様で……。
 いやん。神藤さんのえっちっ。(←やめれ)

 何だ、この二人は。通じ合った途端にいちゃこらして! と呆れないであげて下さいね。
 期間限定ですもの。好きなだけくっつかせてあげて下さい。;;

 さて、婚約者候補のご紹介です。

 では、次回!!





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