「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第4章≪辻川の刃≫・9

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「九条貴明氏は、車ごと公道へ飛び出しトレーラーに衝突したようです。車はそのまま引きずられ、九条氏の車は大破。もちろん本人は、――即死です」
 キーボードを叩きながら状況を説明していた須賀は、一瞬躊躇いに手を止めるが、一呼吸置いた後に九条の最期を告げた。
 戸惑ってしまったのは、美春にはショックな話なのではないかと思ったからだ。
 案の定、ソファの傍らに立つ美春は、その光景を想像したらしく眉を寄せて切ない表情を見せている。美春にそんな顔をされてしまうと、須賀の方が罪の意識を感じてしまうではないか……。
 だが、少し離れた場所では“専務”がデスクで腕を組み、ジッと須賀の報告に耳を傾けているのだ。美春にかまけてやめる訳にはいかない。須賀は気を取り直し、再び口を開いた。
「事故なのか自殺なのか、真相は分かってはいませんが、世間的には“事故”で処理されるようです。事故が最初に起きた場所は一切公表されてはいません。ですが、辻川財閥の屋敷から出た敷地内から公道に切り替わる地点だと思われます」

 昨夜、九条が事故に遭ったという話は、学の元にも伝わって来た。一夜明けて世間的に事故として取り上げられてはいるものの、取り上げ方は小さくあまりにも情報量が少ない。
 おかしく思った学が事故の詳細を調べてくれるよう、須賀に頼んだのだ。
 話が話なので、須賀は専務室に愛用のノートブックを持ち込み、詳細の調査を始めた。もちろん、すぐさま情報は手に入ったのだが……。
「ねぇ、須賀さん、今、どこをハッキングしてるの?」
 基本的な疑問を問いかけ、美春は小首を傾げる。
 一切公表されていない、してはいけない情報を入手しているのだ。これは彼が得意とする分野をフル活用しているに他ならない。だが、どこからどういう情報を引き出せば、彼の報告の様に形作られるのだろう。
 思えば、紗月姫が学園で事故に遭った時も、四方から情報を集め形作ってくれたのは彼だった。
 須賀は美春を見上げ、少し眉を寄せ真剣な顔で問いかける。
「……知りたいですか?」
「ううんっ。いいっ。知らなくてもいいっっ」
 須賀にこんな顔をされてしまうと、何となく凄い事を聞かされてしまう様な気がする。美春は顔の前で手を左右に振り、一緒に首も左右に振った。

「辻川の敷地道から公道に出る地点か……。それは、取り上げ方も小さくなるな……。相変わらず、辻川側の動きは早い」
 腕を組んでデスクの上に視線を落としていた学の呟きに、美春は不思議そうに反応した。
「どうして? 別に辻川邸の中で亡くなったとか事故に遭ったとかじゃないでしょう? 裏で手を回す必要なんて……」
「それでも、敷地内で起こった死亡事故なんかに、辻川の名前を出させる訳にはいかないだろう。ましてや九条氏は婚約者候補だ。放っておけば、節度と身分をわきまえない輩に面白可笑しい噂を立てられる」
「それにしたってお気の毒だわ。どうしてトレーラーなんかに……」
 自殺は有り得ない。それはきっと、誰もが思っている事だろう。
 紗月姫の婚約者候補に選ばれ、どういう結果になるかは分からなくても彼は希望に溢れていたはずだ。辻川家で何か失態を冒したというのなら話は別だが、そんな彼が自殺などしよう筈が無い。
 ならばやはり事故なのだろう。自分の中でそう解決付きそうになった美春だが、その考えに須賀は波紋を投げる。
「道路にタイヤの跡が無かった事から、ブレーキをかけた形跡は見られない様ですね。九条氏はスピードを出したまま往来の激しい道路に飛び出した事になります」
 自殺の可能性もあるという事だ。思わず眉を寄せてしまった美春は、更に続いた須賀の言葉に反乱を起こした。
「もしくは、何者かに自殺に見せかけられて……」
「んもぅっ! 須賀さん、物騒よっ!」

 急に怒られ、須賀は驚いて手を止める。勢いに煽られ「はいっ、すいませんっ!」と謝ってしまった。
 さすがにこれには今まで深刻な顔をしていた学も噴き出す。肩を震わせ笑いながらデスクから立ち上がった。
「まぁ、そういった可能性もあるって事だ。すいません、須賀さん。自分の仕事で忙しいのに、急に頼んでしまって」
「あ、……いいえ。大丈夫ですよ。このくらい簡単です」
 笑顔を見せてパソコンをポンポンっと叩く。まるでペットでも撫でているかの様な手付きだ。
 決して“このくらい”と軽んじられる技術ではない。しかし須賀に驕ったところや恩着せがましいところは一切ない。いつも爽やかで嫌味が無い須賀。美春が気に入っているのも彼のそんな性格だ。
「ごめんなさい、須賀さん、大きな声出しちゃって。今、コーヒーでも淹れますね」
「有難うございます。嬉しいなぁ、光野さんに淹れてもらえるなんて」
「須賀さんも、残業続きでしょう? ごめんなさい、悠里さんに怒られちゃうわね」
 櫻井と同じく、須賀の残業も明日からに備えたものだ。毎日残業で遅くなれば、恋人の悠里に会える時間も取れないだろう。
 気を回して謝ってみたが、反して須賀からは気楽な答えが返って来た。
「あ、気にしないで下さい。遅くなっても毎日悠里ちゃんの部屋には行ってるんですよ」
「そうなの? あんまり遅いと悠里さんも寝ちゃってるんじゃ……」
「そういう時は、横に潜り込んで寝ちゃいます」
 爽やかに大胆発言をされた美春は、指先で口元を押さえ照れてしまう。昨日の櫻井といい、今日の須賀といい、何となくあてられっぱなしだ。

 美春に照れられた事に照れ臭そうな笑みを浮かべ、須賀はとある目標を口にした。
「百回目、目指してるんで……」


*****


 九条の事故死は、もちろん紗月姫にも軽いショックを与えた。
 婚約者候補という事で、それほど紗月姫的には歓迎していた訳ではなかったが、少なからずとも彼女に関わった人間である事は間違いが無い。
「何だか、嫌な感じだわ……」
 窓辺に立つ紗月姫は、煌々と輝く明る過ぎる月を見ながら不安げな声を出した。
「……本当に、事故なのかしら……」
 窓越しだというのに、紗月姫の呟きに反応した風が騒ぐ。カタカタとガラスを揺らし、彼女にここを開けるようにと催促する。
 窓を開ければ、紗月姫は風の声を聞く事が出来る。きっと九条の真相を知る事も出来るだろう。
 だが紗月姫は窓を開けず、ガラスに両手をあて俯いた。
「……ごめんね……」

 何故だろう。真実を追求するのが怖かった。
 チラリと聞いた話では、事故でも自殺でも無いかもしれないという話だ。――だとしたら……。
 事故の真実の中に、何か因縁めいたものを感じずにはいられないのだ……。

 ふるりっと全身が震える。
 その震えを、後ろから大きな腕が抱きとめた。
「大丈夫ですよ……」
 紗月姫の身体を反し、不安に憂う彼女の瞳を見詰めて、神藤が微笑む。
 昨夜の事故に、何かの予感を感じずにいられないのは紗月姫だけではないのだ。
「もしも貴女に何か危険が迫っても、必ず私が守りますから」
「神藤……」
「私が、命に変えて……」

 紗月姫を抱き締めて、神藤はいつも以上の強い想いを心に留める。

 何があっても、紗月姫を守る。

 守るものを与え、生きていく意味を教えてくれた少女。
 ――紗月姫は、彼の“幸せ”そのものなのだ。

「……神藤……」

 不穏な予感に、紗月姫の声が震える。


 そして……。

 真夜中、袴田進一郎が、歩道橋から車道に落ちて、絶命した……。――――






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 須賀さん、ハッカーとして働いている時はカッコ良いんですけどね。
 普段は普通の爽やか君ですよね。(笑)この辺は信君と同じ。^^
 須賀さんの「百回目、目指してる」っていう言葉の意味は、後ほども書きます。
 でも、既に出て来てはいるんですよ。
 覚えていてくれている方は居るでしょうか。第10部の、エピローグ(第6章)で出て来たんです。
 さて、今何回目なんでしょう?(///∇///)

 九条さんの事故に不安を感じる紗月姫ちゃん。
 その不安を決定付けるように、次は袴田さんが……。
 これはいったいどういう事でしょう。

 そして、学君が北欧へ発つ日がやって来ます。

 では、次回!!





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