「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第4章≪辻川の刃≫・10

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「学様が、お嬢様に会いにいらっしゃるそうです。今、こちらへ向かわれているそうですが……」
「学さんが?」
 気の無い反応。むしろ怪訝そうな様子でもあった。
 登校の為に身だしなみを整えながら聞いた予定だが、紗月姫の気持ちはそれどころではない。いつもならば、学が来ると聞けば「美春さんは?」と嬉しそうに訊ねて来るというのに。
「何の御用かしら……」
 大きな姿見の前で制服のリボンを結ぶが、気持ちが落ち着かないせいか、どうも上手くいかない。溜息をついて三度目の結び直しをしようとした時、「失礼致します」と神藤の手がタイを取った。
「学校は、お休みした方が宜しいのではないですか?」
 タイを綺麗なリボン結びにして手を離す。しかしすぐにその手を紗月姫が握り、彼の胸の中に寄りかかって来た。
「大丈夫よ……。行けるわ……」
「ですが……」
「平気よ……」
 平気と口にしても声が沈んでいる。気丈に振る舞おうとする紗月姫を、神藤は静かに抱き締めた。

 袴田進一郎が、歩道橋の欄干を超えて車道へ飛び込んだ。
 朝の挨拶と共に神藤が持って来た報告は、昨日に引き続き紗月姫に衝撃を与えた。
 連続する婚約者候補の死。九条の死にも疑問が残ったままだというのに。
 袴田は、かなり酔っていたらしい。友人達と飲んでいる最中、少し酔いを醒ましてくると外へ出て事故に遭った。
 泥酔したうえでの事故という可能性はあるが、二日続けて婚約者候補が命を落としたのだと考えると、なかなか納得はいかない。

「口は災いの素ね……」
 自嘲混じりの呟きを口にする紗月姫を胸に抱いたまま、神藤は彼女の頭を撫でる。
「私が、『婚約者候補なんていなくなってしまえば良い』なんて言ったから……」
「お嬢様のせいではありませんよ。事故が続いたのは偶然です。そうお考え下さい」
 短絡的な考えてある気もするが、そう考えるのが一番精神的にも良いのだろう。
 元気付ける意味で神藤が紗月姫の額に唇を落とすと、紗月姫は彼を仰いで花びらの様な唇をつき出し目を閉じた。
 どうせキスをするなら唇に。彼女のそんな可愛らしい思惑が伝わってくる仕草に、思わず神藤の表情も和む。身を屈め、唇を近付けた、その時……。

『紗月姫ちゃん、俺だよ』
 インターフォンから響く声とノックの音。名前を言わなくとも、もちろん声だけで分かる。
「学さんだわ。随分と早かったのね」
 どうやらキスはお預けになるようだ。神藤は素早く紗月姫を手放し、部屋の扉を開けに向かった。
 こんなに早い時間から訊ねて来るのは稀だ。学だって仕事があるだろう。疑問は残るが、特に不審な素振りは見せずにドアを開け、神藤は学を迎えた。
「おはようございます。学様」
 ドアの前に立っていた学が、神藤を見てニヤリと笑う。いつもとは違う優越感に満ちた不敵な笑みに、神藤はわずかに眉をひそめた。そして、いつもならば必ず挨拶に応えてくれるはずの彼が、何も言わずに神藤の前を通り過ぎ、直接紗月姫に話しかけたのだ。

「ごきげんよう、姫君。今日の美しさも花の様だね」

 軽薄な軽口は極めて彼らしくない。紗月姫は驚きつつも、学はふざけてわざとこんな態度を取っているのだろうと考えようとした。
「ごきげんよう……。学さん、今朝は随分と早くに……」
 来邸の理由を訊ねようとするが、学があまりにも薄笑いを浮かべてジロジロと眺めるので、紗月姫は少々ムッとした。
 そんな彼女を知ってか知らずか、学は相変わらず軽妙な語り口調で紗月姫に近付く。
「早く紗月姫ちゃんに会いたくてね。飛び起きて駆けつけて来たんだよ。ああ、でも残念だなぁ、制服を着る前の君に会いたかった」
「学さん?」
 紗月姫は眉をひそめた。少々学はふざけ過ぎではないだろうか……。
「なんだろう? 紗月姫ちゃんって、そんなに制服が似合わなかったかな? 先日の肌を出したドレスの方が、今の君の雰囲気にはピッタリ合っているよ」
 学は喉の奥で笑いを堪えると、身を屈めて紗月姫に顔を近付け鼻を鳴らした。
「“女”の匂いがするなぁ。誰に“オンナ”にしてもらったの? だからその清楚な制服が似合わなくなっちゃったんだよ」

 紗月姫の柳眉が逆立った。間違いなく学は悪ふざけが過ぎている。一喝してやろうかと思ったが、先に神藤が動いた。
「学様! おふざけが過ぎます……!」
 学らしくない言動に驚き、腕を掴んで紗月姫の傍から離そうとする。だが、逆に学が神藤の腕を掴んだ。
「俺はふざけてなんかいないよ、神藤さん。ちょっと君は部屋から出ていてくれ。紗月姫ちゃんと二人きりで話がしたい」
「お断りよ。こんなおかしい学さんとお話なんかしたくないわ!」
 すぐに紗月姫が拒否反応を起こす。紗月姫が嫌だと言っているのだ、たとえ相手が学でも、神藤が引く訳にはいかない。学の手を外し、紗月姫を庇う為に彼女の前に出ようとしたが、先に学が紗月姫の前に立ちはだかり神藤の動きを止めた。
「部屋から出たまえ。彼女との間に、例え誤解でも良からぬ噂がある君にはここに居てもらいたくはない。俺には、それを指示する権利がある」

 学の言葉に、紗月姫と神藤は不可解な面持ちを見せる。
 そんな二人をよそに、学は衝撃的な言葉を発した。

「紗月姫ちゃんの、四人目の婚約者候補として、ね」


*****


 チラリと時計を見る。さっきからまだ五分しか経っていない事に気付いて、美春は苦笑した。
 主の居ない専務室に佇み、デスクに手をついて、いつもここで笑顔を見せてくれる学を想う。学は、上手く紗月姫に婚約者候補の件を告げられただろうか。下手に彼女の反感を煽るような言い方をしていなければ良いが……。
「学、わざと意地悪な言い方したりするからなぁ……」
 美春の不安は的中していたりするのだが、彼女がそれを知る由は無い。

 紗月姫に用件を告げたら、学はすぐに北欧へ発つ為に空港へ向かう。
 この計画の為に小型機をチャーターしてある。念の為に学には信悟が同行し、ロスで更に田島弁護士と合流する。その後にD国入りするのだ。
「頑張って……」
 デスクを見詰めて呟き、美春は口元をほころばせた。

 大丈夫。
 学なら、きっと旨くやる。
 きっと、最高の結果を出してくれる。

(信じてるからね。学……)

 後はそれを、美春は黙って待つだけだ。

 但し。何も障害が起こらなければ、……だが。――






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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 学君、いきなり攻撃的な態度で攻めました。
 これでは紗月姫ちゃんの反感を煽るだけです。彼がこんな態度に出た理由は何なのでしょう。
 そして、学君が四人目だと知った紗月姫ちゃんの反応は。

 いよいよ学君がいなくなります。
 信じて待つ美春ちゃん。出来るだけ早く帰って来てもらいましょう。
 不安な留守中の対応を、“お傍付き”さん達が立ててくれますよ。^^

 今回問題になっている北欧の小国。
 知る人ぞ知る。ではありますが、実名はまずいので「D国」とさせて頂いています。
 “実在する国をモデルにしている”という事で御了承下さいね。

 では、次回!!




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