「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第4章≪辻川の刃≫・11

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「須賀さん、すごーい。凄い凄いすごーい」
 別に馬鹿にしている訳ではない。美春は真剣に褒めているのだ。
 もちろんそれは須賀も分かっているらしく「そうですかぁ?」と彼らしく照れている。
 だが、どうも美春が褒めているのだと思えない櫻井だけは、怪訝そうな顔で彼女を眺めていた。
「ホント凄いです。須賀さんが作ったんでしょう? これ」
 かざした右手にある物。それは、ピンクシルバーの携帯電話だった。

 学の居ない専務室にいた美春の元にやって来たのは、櫻井と須賀だ。
 須賀は一台の携帯電話を彼女に渡した。
「GPS機能が付いてますから、こっちから光野さんの居場所を調べる事はいつでも出来るんですが、ちょっと仕掛けがありまして。サイドのカバーをスライドさせると小さなスイッチがあります。それを押すと、光野さんの方からオレと櫻井さんに居場所を知らせる事が出来るんです。同時にスピーカー機能が働いて、音声も入って来ますから、もしも危険な目に遭いそうになったらすぐに押して下さい」 
 必ず美春に何かあると決まっている訳ではない。もちろん何も無いほうが良いのだが、備えは有ったほうが良い。
 これなら、美春が危険な状況に陥った事を意識的に二人に知らせる事が出来る。

「まぁ、居場所さえ掴めれば、深刻な事態になる事もないだろう」
 櫻井の怪訝な顔も、何となく美春がはしゃぐ顔を見ているとほころんでくる。
「はい。有難うございます」
 嬉しそうな美春の笑顔に、櫻井と須賀も満足そうに笑った。


*****


「悪趣味だわ……」
 それ以外に言葉など思い付かない。紗月姫は怒りに震える声を学にぶつけた。
「学さんが四人目!? 何を馬鹿な事を言っているの!!」
 紗月姫には信じられないのだ。神藤を部屋の外に出し、二人きりになってから学がした話は、何かの冗談としか思えない。
 学が紗月姫の正式な婚約者候補であり、候補になる為に美春との婚約を解消したという。
 ――そんな話が、信じられるものか。
 紗月姫は、学と美春がどれだけ愛し合っていたかを知っている。どんな障害があろうと、決して引き裂かれる事の無い運命を持った二人だという事を、彼女の繊細な神経が感じ取っているのだ。
 そんな学が、美春を捨てるような真似をするはずが無い。

 学の話があまりにもショックで、紗月姫は立ち竦んだまま身動きも出来ない。彼女の肩にポンッと手を乗せて、学は困り顔で笑った。
「そんなおっかない顔しないでよ。俺だって、いつまでも恋愛ごっこをしている訳にはいかないんだから」
「……恋愛ごっこ……?」
「企業組織が大きくなれば、それなりに考え方も変えなくちゃいけないって事さ」
 紗月姫は目を見開いて学を見た。これは本当に学の本心なのか。彼の言葉通りに取るなら、辻川財閥という大きな組織と繋がる事が葉山グループにとっては最善であるから、美春よりも紗月姫を選びたいという解釈が出来るのだ。
「美春も納得している。彼女だって、この世界の厳しさを分かっているからね。実際、優秀な秘書だよ、彼女は」
「そんな……」

 驚きとショックを通り越して、紗月姫は眩暈さえ覚える。気を抜けばすぐにでも倒れてしまいそうだ。
 二人が仲良くパーティーに現れたのは、つい先週の事ではないか。ではあの時、既に学も美春もこの件を了解していたというのか。
 二人が愛し合う姿は、紗月姫の理想であり憧れだったはずなのに。

「九条氏が亡くなって、続いて袴田氏。おかしな偶然もあるものだが、これで俺のライバルは久我山氏だけだ。だが、どんなに優秀でも所詮はただの医者。君の選択肢はひとつしかない」
 紗月姫はゆっくりと視線を学に合わせる。彼の自信に充ち溢れた瞳を、聡明な瞳が睨(ね)め付けた。
「……ひとつ?」
「そう。俺を選ぶしかないって事。この、辻川財閥の未来の為に。次期総帥としての最善にして最良な判断だ」
 紗月姫は大きく腕を振り上げ、肩にかかった学の手を払い落した。
「学さんなんて、絶対に選ばないわ!!」

 紗月姫は浮かびあがって来そうな涙を、奥歯を噛み締めて耐える。
 兄の様に尊敬し慕っていた従兄。まさかこんな形で裏切られるとは……。

 紗月姫の怒りを買ってしまった学だが、当の本人は落ち着いている。相変わらず口元に不敵な笑みを浮かべ、挑戦的な態度に出た。
「じゃぁ、久我山氏を選ぶ? 果たして彼は君の結婚相手になれるだけの器かな」
「それはこれから見極めます。彼がその器ではないと判断出来ても、学さんは選ばない。貴方を選ぶくらいなら、私は結婚なんてしません!」
 紗月姫が結婚をしないという事は、跡取りを儲けないという事。学を選ぶくらいならば、辻川が紗月姫の代で絶えても構わないというのだ。
 そこまで嫌われると反対に清々しい。ついでにとばかりに、学は紗月姫の怒りを煽る。
「跡取りはどうする? ああ、そうか、別に結婚をしなくても、君は女だから作ろうと思えば跡取りは作れるよね。例えば、“オンナ”にしてくれた大好きな従者にでも、ひと言命令すれば良いんだ」
 紗月姫は息を呑む。学は紗月姫と神藤の関係に気付いている。最初にからかわれた時は冗談だろうと思っていたが、そうではないのだ。
「従者に抱かせて自分の格を落としたお姫様でも、俺は大歓迎だよ? いつでもどうぞ」

 とっさの感情で紗月姫は手を振り上げる。しかしその手が学の頬に下ろされる前に、彼女の腕は簡単に押さえられてしまった。
「似合わないなぁ。慣れない事をするんじゃない」
「学さんなんて、絶対に願い下げよ! 貴方に頼むくらいなら、居るのか居ないのか分からない得体のしれない五人目の候補に、両目をつぶって頼み込むわ!」

 紗月姫としては軽侮するつもりで出した言葉だったのだが、何故か学はその瞬間ニヤリと口角を上げ、声を立てて笑い出した。
「それは良い! 是非選んでくれ!」
 紗月姫の腕を離し、屈んで彼女の顔を覗き込む。
「約束だよ? 絶対に“五人目”を選んでくれ」

 紗月姫は怪訝な表情で学を見た。
 詳細不明なうえ、本当に居るのか分からない、噂だけの“五人目”の候補。そんな人間を引き合いに出されて、学は悔しくはないのだろうか。プライドが傷付きはしないのか。
「もちろんよ。少なくとも、学さんは、絶対に、選ばない」
 紗月姫はひと言ひと言、自分に、そして学に言い聞かせるよう口にする。相変わらず小さな笑いを漏らす学は、一瞬いつもの笑顔を見せた。
「上等だ。絶対に俺は選ぶな」

 紗月姫に背を向け、「じゃぁ」と手をひと振りしてドアへ向かう。学が見せた笑みに怒りが止まった彼女を残して、彼はそのまま部屋を出た。
 ドアの横では神藤が控えている。学が出て来たのを見て頭を下げるが、神藤としては学が四人目の候補だという話が気になって仕方が無いところだろう。
「神藤さん」
 学に声をかけられ、神藤は頭を上げた。目の前に立つ学は真剣な表情を見せ、最初に訪れた時の軽薄さは見当たらない。
「あなたには、四年前の約束を守ってもらいますよ」
「……約束?」
 神藤は思い出そうとしたが、それを待たずに学は彼に背を向けた。

 二人の元を去りながら、学は豹変した彼に戸惑う紗月姫の様子を思い出していた。
 泣きそうなくらい困らせたのは可哀想ではあったが、滅多に見られない彼女の動揺した姿に可愛らしさを感じ、微かな笑みが浮かぶ。
 学を絶対に選ばないとムキになった紗月姫を思い出し、口元がほころんだ。

「絶対に……俺は選ぶな。絶対、五人目を選べよ……」

 小さく呟き、正面を見据えて速足で歩き出す。

 彼がすべき事に向かって。

 ――運命を、変える為に。






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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 須賀さんは器用だなぁ。^^
 第9部の時も、ヘッドセットを作り変えてましたよね。
 さてさて、この危険察知用の携帯電話、使用する機会があるのでしょうか。
 ……無いほうが、良いんですけどね。(笑)

 そして、紗月姫ちゃんとひと喧嘩して来た学君。
 彼女の怒りを煽ったのは、候補としての自分を彼女の中から排除させ、五人目の存在を匂わす為だったのかもしれません。
 そして同時に、神藤さんに「四年前の約束」を思い出してほしかったのかも……。

 学君は北欧へ発ちます。
 それを図った様に、すぐさま動き出したのは……。

 では、次回!!






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