「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第4章≪辻川の刃≫・12

 ←第4章≪辻川の刃≫・11 →第4章≪辻川の刃≫・13


「学君は、今日発つらしいな……」
 書斎の大きな窓から外を見詰め、そこから射し込んで来る午前の陽射しに、総司は目を細めた。
 神藤の出生に関する決定的なものを持ち帰ると、自信に充ち溢れていた学。その頼もしい姿を思い出し、総司は陽射しから逃げるように瞼を閉じる。

 彼は間違いなく、自分が成すべき事をやり遂げるだろう。
 賭けをした時点から、総司は負けを覚悟していたところもある。いや、負けを想定したうえで、賭けを持ちかけたと言っても良い。

「私は、間違った望みを持ってしまったのだろうか」
 口をついて出た言葉は、誰に問いかけた訳ではない。強いて言うなら、彼は自分に問いかけたのかもしれない。
 そして、その呟きを耳にしたのは、総司愛用のシノワズリにコーヒーを注いでいた章太郎だけだ。

「総帥として辻川の未来を考えた時、紗月姫の相手には学君しか考えられなかった。彼は、幼い頃から全てにおいて逸脱した才能を見せていて……。私は、辻川の為に、学君の才能が欲しくて堪らなかった」

 今まで生きてきて、総司が手に入れられなかった物など無い。
 手に入れる事を一度諦めた椿でさえ、彼は手に入れた。不可能と医者から宣告されていた、跡取りとなる子供も。
 プライベートも仕事も、“欲しい”と思って諦めた物など無いのだ。

 だが、“葉山学”という人間だけは違った。

 巧みに辻川の誘いをかわし、自分の強い意志で婚約者を選び、“葉山の切り札”として、密かに辻川の組織に脅威を与える甥っ子。
 そんな優秀な彼を、手に入れたいと思ったのは間違いなのか。
 追い求め、焦がれる事は、愚かだったのだろうか。

「旦那様は、夢をご覧になっていらっしゃったのかもしれませんね」
 コーヒーポットを片手に、章太郎はニコリと笑う。
「ですが、時折夢を現実にしてしまう。それが、旦那様の凄いところで御座います」
 彼の話口調を背に聞きながら、総司はふっと懐かしそうに表情をほころばせた。
 章太郎の口調は、彼の父親である執事の水野にそっくりだ。現在辻川家の執事を務める水野は、かつて総司のお世話役であり、お付きで有ったのと同時に、常に総司の相談役でアドバイザーだった。
 もしここに水野がいたなら、彼は章太郎と同じ事を口にするだろう。

「夢か……」
 総司の口調は、どこか憂いを帯びる。
 “葉山学”を捕まえて操れる人間などこの世にいない。もし出来るとすれば、彼が選んだたったひとりの女性にだけ与えられている権利だろう。
 そう。たったひとりの……。

 ゆっくりと開く瞼。そこから現れた瞳はナイフの如き冷たさで、眼底に再現された栗色の髪を持つ女性を睨(ね)めつける。
「夢ならば……、最後まで見なければ、スッキリとはしないな」
 総司は軽く手を身体の横で上げ、章太郎に指示を出す。
「“例の”女性を、明日にでも私の元に連れて来てくれ。少し話がしたい。……話の結果次第では、先日指示をした通りに動け」
「分かりました」
 話はそれだけかと思われた。なので章太郎も頭を下げ、一度下がろうとしたのだ。しかし総司の話には続きがあった。
「紗月姫は今日、学校を休んだそうだな」
「はい。お加減が優れないと聞いております」
「――紗月姫の部屋の鍵を、持って来なさい」
 軽く振り向き視線を流した総司の瞳は、相変わらず冷たかった。


*****


 学には強い態度で接したが、やはり紗月姫のショックは大きい。
 袴田の事故には気丈に振る舞えたが、学の件に関してはそうもいかなかった。
 そんな彼女を元気付ける為、学が帰ってからというもの、神藤はソファで紗月姫を膝に乗せてずっと膝に抱いているのだ。
「御気分は如何です?」
「最悪よ」
 さっきから、何度この台詞が繰り返されただろう。彼の腕の中にいるというのに、紗月姫の気持ちは一向に晴れない。
「学様には、何かお考えがあるのですよ。学様の性格は、お嬢様だってよく分かっていらっしゃるではありませんか」
「でも……神藤にもあんな酷い態度をとって……」
「私は、何ひとつ気にはしておりません。かえって学様がどんな悪巧みをなさっているのか楽しみです。あの方の悪巧みは、いつも一味違った楽しみがある」
 神藤のちょっと楽しげな口調は、紗月姫の御機嫌をくすぐる。
 クスリと笑った彼女の笑顔を更に誘い出す様に、神藤は顎を掬って紗月姫に軽いキスを落とした。
「神藤っ、これで私の機嫌が良くなるとでも思っているでしょう……」
 彼を仰いだまま唇をすぼめる。神藤はニコリと笑って、もう一度鳥の様なキスを落とす。
「なりませんか?」
 彼の言葉に応えるように、紗月姫は両腕を彼の首に回し唇を近付けた。
「……なるわ」

 唇が重なり、今度は少々濃厚な唇付けが施される。
 顔の角度を変えて紗月姫の唇を愛撫しながら、神藤は彼女をソファに倒した。
「……神藤……」
 甘い声が紗月姫の口から漏れる。彼女の唇を解放した神藤は、左耳をなぞり甘噛みした。
「ン……んっ、やっ……」
 神藤の手が紗月姫の身体をなぞる。焦れるように伸び上りながら、紗月姫は神藤の腰に手を当てた。
「……神藤、ベッドに行きましょう……」
「まだ午前中ですよ? それに今日は学校をお休みしたのですから、病人らしくしていて下さい」
「学校をお休みした病人は、ベッドに入っていた方が良いのではないの?」
 正論だ。しかしこの場合は、それが正しいと言っても良いものだろうか。
 遠回しに彼を強請る紗月姫に、神藤はちょっと意地悪をする。
「では、ベッドに入って大人しくお休み下さい。退屈なら、御本でも読んで差し上げますか?」
「もうっ、神藤も一緒じゃなくちゃ嫌よっ」
 拗ねる紗月姫にキスをして、神藤は彼女を抱き締める。
「神藤……」
 紗月姫が幸せそうな声を発し、二人の間に穏やかな空気が流れる。
 しかしその空気は、ナイフのような冷たい声に切り裂かれた。

「これは驚いた。まさか娘が男を誘うとは」

 咄嗟に神藤が身体を起こす。続いて紗月姫も起き上がった。
 ――しかし……。

「そんなに慌てなくても良い。二人とも、今更何も言い訳など出来まい?」

 音もなく開いていたドア。背でドアを押さえ、総司が腕を組んで立っている。
 彼が何処から見ていたのかは分からない。しかし、紗月姫が神藤を誘うところや、二人が重なり合って唇を重ねるところは見られてしまったらしい。

「そういえば、パーティーの夜も、二人仲良く寄り添ってベッドで眠っていたな。あまりにも気持ちよさそうに眠っていたので、私も声をかけそびれてしまったが……」

 嘲笑する総司を目の前に、紗月姫は言葉が出なかった。






人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 ああっ、総司さんがまた悪巧みをっ。
 “例の”女性。……誰の事でしょうねぇ……。(恐らくバレバレ)(^^ゞ

 さてさて、べたべたするのは良いのですが、事もあろうに総司さんに見つかってしまいました。
 このまま、嫌味だけで終わる訳が無いんです。

 では、次回!!





 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第4章≪辻川の刃≫・11】へ  【第4章≪辻川の刃≫・13】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第4章≪辻川の刃≫・11】へ
  • 【第4章≪辻川の刃≫・13】へ