「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・1『学校ですか?』

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「さくらちゃん、学校へ通ってみる気はないかい?」

 それは、葉山のお父様が発した一言から始まった。

「はい? “学校”ですか?」
 失礼ながら、私は少々キョトンッとした顔で言葉を返してしまった気がする。
 学校へ通うなんて、昔から考えた事も無かったし、第一、通った事もない。
 村にいた頃も。この、葉山家へ来てからも……。

 
 安定した老舗大企業と名高い、葉山製薬の跡取りである葉山一さんと婚約し、生まれ育った桜花村から葉山家へやって来て一年。私は十五歳になった。
 村の借金を肩代わりしてもらう為に売られる、だの、ホームシックになって村に帰される、だの、当初は色々と有ったのだけれど、流石に今ではそんな騒ぎも無く、平穏な毎日を過ごしている。
 葉山家の人達は皆優しくて、使用人までいい人達ばかり。
 それに、何と言っても一さんが優しくて素敵で、心から私を大切にしてくれる……。
 これで幸せではないはずもない。

 村で大切にされていた私は、“義務教育”という期間を数名の家庭教師から学ぶ事で埋めて行った。
 葉山家へ来てからも、一度「学校へ行ってみるかい?」と葉山のお父様に訊かれたけれど、私は今まで通り自由に勉強がしたくてそれをお断りした。
 こちらへ来てから付けて頂いた先生方は大学の教授ばかりで、知りたい事覚えたい事を惜しみなく与えてくれる。知識の幅が広がって私はとても満足しているのだけれど……。
 何故、また学校の話なんてなさるのかしら……。


「それで、父上。何故今更“学校”なのです?」
 私が不思議に思っていた事を代わりに訊いてくれたのは、横に座る一さんだった。
 今ここ、葉山邸のリビングには、家族が一堂に揃っている。テーブルを挟んで向かい側に、葉山のお父様とお母様。私の左斜め横には一さんの妹、椿さん。そしてソファに腰を降ろす私の隣には、寄り添う様な至近距離で一さん。
「さくら自身の意向は、この家へ来た時に訊いているでしょう。今彼女は更に薬学と秘書の勉強を重ねて行っている。今更普通に学校へ行かせるというのもどうかと思いますがね。まぁ、時間の無駄。……かと」

「そうですわ、お父様。さくらさんはとてもIQの高い女性ですよ? 既に大学院レベルの知識も有りますし、勉学をご教授下さる教授達とも対等にお話が出来ますわ。時々同席させて頂く私の方がお話に着いて行けないくらい。そんな彼女を学校へ通わせるというのも……。さくらさんは早生まれですから、どこの高校を進めるおつもりでしたの?」
 一さんに続いて意見を口にしたのは椿さん。小首を傾げ、長く綺麗な黒髪を肩から流し、優美な微笑みを作る口元から発せられる凛とした声は、正に“葉山の椿姫”と呼ばれるに値するほど綺麗な女性。
 でも、残念ながら、彼女はもうすぐ“葉山の椿姫”ではなくなる。
 この春短大を卒業し、六月には結婚が決まっているからだ。
 葉山家へ来た時から私を気遣ってくれて、とても優しくしてくれた。籍を入れれば、六つ年下の義姉になる私を疎みもせず。
 凛としていて気丈で。でも優しくて女性らしくて。
 私が初めて憧れを持った女性かもしれない。

 当の私ではなく、息子と娘、二人揃っての追及にお父様は少々怯んだようだ。
 確かにこの迫力ある二人に揃って問い詰められたら言葉に詰まるわよね。
 「一も椿も、どうしてあんなに迫力満点なんだろうなぁ……」と、お父様は時々溜息交じりに愚痴を零す事が有る。そのせいもあって私は「さくらちゃんは本当に可愛くていい子じゃなぁ」なんて、まるで子猫か何かの様にお父様とお母様に愛でられたりもする……。まぁ……、お二人の癒しになれているならそれに越した事は無いのだけれど、正直、ちょっと、微妙な立場よね。

「お父様、私もお聞きしたいです。何故“学校”なのですか?」
 助け舟の様に私が口を出すと、お父様は少しホッとしたようだ。笑顔を作り、私に向かって話し出した。
「実は先日な、西海学園グループの学園長のひとりと話をしていてな。さくらちゃんが実に優秀な子だという話をしたのだよ。そうしたところ、彼がとても興味を持ってくれてね。数ヶ月でも良いから特別編入という形で預からせてくれないかという話をもらったんじゃ」
「まぁ、西海の学園長様がですか?」
 反応を見せたのは椿さんだった。
 椿さんは、生粋のお嬢様学校として名高く、教育面でも厳しいと言われる、名門私立西海女子学園の幼等部から短大までエスカレーター式で通い続けた人なので、学校やずっとお世話になった学園長には思い入れがあるのだろう。
 反応が心配だった椿さんが好感触を見せたので、お父様はホッとしたのかもしれない。少々喋り口調に軽快さが出てきた。
「そうなんじゃよ。毎日の通学じゃなくても良いというし、西海の私設図書館は素晴らしい書物が揃っているから、さくらちゃんも気に入るのではないかと思うのじゃ。例え数回の通学でも、同年代の子達と話も出来るし、友達になる事も出来るだろう。人づきあい……の、勉強にはなると思うのじゃよ……、なぁ? ……はじめ……」
 お父様は徐々に語尾を弱め、最後は探る様に一さんを盗み見た。
 恐らく、椿さんが歓迎しようと、仮に私が首を縦に振ろうと、一さんが「よし」と言わなくてはこの話は成立しない。それをお父様が一番良くご存じだからなのだろう。

 一さんは腕を組み、右手を顎の辺りに当てて考え込んでいる。このポーズは彼が考え事をする時の癖だ。
「さくらは……充分に人付き合いは出来ている……。客人の前に出そうと、取り引き先のパーティーやレセプションに同伴させようと、接し方を違えた事など一度もない」
 一さんの呟きに一瞬テンションが落ちたお父様だったけれど、その後の言葉には恐ろしいほど素早く反応した。
「だが、……同年代の子達と交流するのは良い事かもしれないですね……」
「そうだろう?! そう思うだろう?! はじめっっ!!」







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chieさんへお返事です4/8

chie さん、こんにちは!

 『恋桜』読んで頂き有難うございます!

 亀更新ですが、ほんわりして頂ければ嬉しいです。(*´艸`*)

 んふふ。実は新一さん(お父様)けっこうツボだったりします。(笑)

 有難うございました!!

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