「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・2『制服ですか?』

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 正に鶴の一声。
 それと共に、ずっと黙っていたお母様が足元に置いていた大き目の箱をテーブルの上へ置いた。
 真っ白な箱は、よくオーダーでお洋服を作って頂いた時に入って来る箱によく似ている。するとお母様はそのものズバリの中身を口にした。
「良かったわぁ。一さんなら分かって下さると思っていましたのよ? せっかく制服まで作ったのですもの。無駄にならなくて本当に良かった」
「ええっ!」
 思わず驚きの声を上げつつ立ち上がるという、お行儀の悪い事をしてしまったのは私。だって、制服、って……もう作った、って……。これは断らせない為の先手必勝ってやつなのかしら。
 よっぽど私が驚いたのだろうと気を遣ったお母様が、早々に白い箱のふたを開けて下さった。
「ほら、さくらちゃん。手にとってみて。西海の制服はね、可愛らしくて人気が有るのよ」
 そう言われても私は反応に困ってしまう。一さんを見ると、彼は用意周到なお母様に苦笑いを漏らして楽し気だ。この状況に不快な物は感じてはいないみたい。すると、後押しをするように椿さんも立ち上がった。
「良いわねぇ。私にも見せて下さいな、さくらさん」
 私だって興味が無い訳じゃない。胸を高鳴らせながら、白いたとう紙を開いてくれるお母様の手元を見詰めていた。
 ――そして……。

「わぁっ」
 はしたないけれど、思わず上がってしまった声。

「……かわいい……」

 きっと私は、目を丸くしてそれを見詰めてしまったのだと思う。
 そこに入っていたのは、想像していたような濃紺のセーラー服やブレザーではなかった。
 セーラー服、ではあると思う。ただ、色は品の良いダークグレー。スカートはプリーツ。さり気なく濃いグレーでギンガムチェックになっている。そして上衣に付属したリボンタイが、とても綺麗な桜色。
 何となく、普通のお洋服みたい。

「可愛らしいでしょう? 西海の制服はね、幼稚園から高校まで、デザインが逸脱していて定評があるのよ。ほら、手にとって、合わせて見せて頂戴な。さくらちゃんのサイズで誂えたからピッタリだとは思うけれど」
 私の反応が良かったせいか、お母様はご機嫌だ。隣で見ているお父様もご満悦でニコニコしている。
 けれど、恐る恐る制服を手に取った私の手元を覗き込んだ椿さんが、首を傾げた。
「……お母様? 私が着ていた西海女子の制服とは少々違う様な……。というより、この制服は……」

「あら? 誰が『西海女子』と言いました? お話を頂いたのは『西海学園高校』ですよ。一さんが通ってらした」

 その学校の違いは、私には当然解らない。
 けれど、お母様が笑顔でそう言い放った瞬間、椿さんの笑顔は固まり、私の隣に座っていた一さんは勢い良く立ち上がった。

「父上、母上、このお話は、お断り下さい!」

 ……一さん?
 いきなりどうしたの……?

「さくらを、学校になぞやる必要はありません!」
 そう断言すると、いきなり私の腕を掴み、猛然と歩き出した。
「はははははっっ、はじめさんっっっ!!」
 私はただ訳も分からず、一さんに引きずられる様にリビングを出てしまったのだけれど、腕を引かれながらハッと気付いた。丁度制服を手に取っていた時だったので、それを一緒に持って来てしまっていた。
「一さんっ、せっ、制服っっ……」
 取り敢えずこれを戻さなくちゃと思うけれど、一さんの勢いは止まらない。そのまま階段を上り、自分のお部屋へ入ってしまったのだ。

「はじめさぁぁん……」
 ただでさえ背が高くて脚も長い一さんのペースで猛然と引っ張られては、彼より三十センチ近く小さな私としては、堪らない訳なのよ。だけど息切れが治まらなくて、文句も口から出てこない。
 そんな私に気付いたのか、彼は私の前に屈みこんで下から覗き込んで来た。
「すまなかったな。……大丈夫か?」
 何だか、一さんの綺麗な顔でこんな心配そうな目をされてしまうと、それだけで「大丈夫、大丈夫! 問題無し!!」なんて強がってあげたくなっちゃうんだけど、流石に今はそういう訳にもいかない。
 だいたい、どうして怒ってリビングを出ちゃったりしたの? お父様もお母様も、椿さんだって、きっと驚いていらっしゃったわ。

「一さん……どうした、の……?」
 私はハァと大きく息を吐いて、手に持って来てしまった制服を見詰めた。
「驚いて持って来てしまったわ……。一さんったら『同じ歳の子と交流を持つのは良い事だ』なんて言うから、てっきり賛成なのだと思ったのよ?」
「“西海女子学園”なら賛成だ。椿も通っていた」
「でも、お父様とお母様が薦めて下さったのは、一さんが通っていらした学校なのでしょう? 一さんは素晴らしい進学校をお出になられたと聞いていますから、それでしたらそんなおかしな学校ではないと……」
「いいや! 駄目だっ!」
 一さんは頑なに否定を繰り返し、スッと立ち上がった。
 どうして? 何故そんなにムキになるの?

「いいか、さくら、私が通った西海学園高校は、“共学”だ」
「……はい」

「“共学”という事は、椿の様に周囲は似たり寄ったりのお嬢様ばかりではないのだ」
「……はい……」

「同年代の“男”がウジャウジャ居るところに、大事なさくらを入れられる訳が無いだろうっ」

 はいぃぃ?

「思春期の高校生男子の中にさくらを放り込むなど、腹を空かせた狼の群れに子羊を放り込む様なものだ。断じて承諾は出来ん!」

 ……あのぉ……。はじめさん……。

 熱弁をふるう一さんを見上げ、私は言葉を失う。
 失う、というか、この後の言葉を言っても良いものか迷ってしまうのだ。今口から出そうになった言葉って、言われるのを嫌がる男性も多いと聞くし。一さんはどうかしら? と思っても、そんな場面に遭遇した事は滅多にない。
 滅多に……。ううん、今まで一度だって無かったわね。
 口から出そうになりつつも抑え込み、物言いたげに瞳だけをきょろきょろと動かす私。だが当然、一さんはその様子に気付いてしまう。
 「なんだ?」と問いたげな瞳が私を見降ろし、私は口を割らざるを得なくなった。

「一さん……、嫉妬してるの?」

 口に出してしまってから視線だけを徐々に逸らしていく。だって、一さんがムッとした目なんかしたらきっと怖いもの。
 そんな儚い努力をした私ではあったけれど、そんな物必要が無いくらいハッキリと、一さんの答えは返って来た。

「当たり前だ」








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