「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・3『着ても良いですか?』

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 その返事にまたもや言葉を失うも、逸らした視線を戻す隙も与えられないままに、私は一さんに抱き締められた。
「パーティーなどで大人が話しかけて来てもこんな気持ちにはならんが、どうも同年代の男がさくらに近付く事を考えると虫唾が走る。イライラして嫌な気分だ」
「……だって、あの、近付かれるとは限らないでしょう? 特別編入、って言っていたし、かえって珍しがられて敬遠されるんじゃ……」
「さくらみたいな可愛い女の子が近くにいて近付かない十代男子は、同性趣向か性癖異常だ」

 そっ、そこまで言いますかっ。はじめさんっっ。

 でも……。
 一さんの思考に戸惑いつつも、それが嬉しいのは確かなのだ。
 だって、嫉妬してくれているのよ。この一さんが。
 完全完璧主義で、確固たる自信家の彼が。
 私に、大人ではない男子が近付くのは嫌だ、って。 

 私は手に握っていた制服を床に落として、一さんの背中に腕を回し、彼のシャツを握り締めた。
「じゃぁ、行かない。学校なんて行かないわ」
「さくら……」
「今だって充分過ぎるくらいお勉強させてもらっているもの。私は満足よ」
 一さんの背中にしがみ付いたまま、ちょっと足を浮かせて彼にぶら下がりふざけて見せる。身長差が有るからこそ出来る悪戯だけど、最近ちょっとお気に入り。
 これをすると、一さんも私が甘えている様な気がするのか、凄く嬉しそうに笑ってくれる。今も素敵な笑顔で私の腰を両腕で掴み、更に脚を宙に浮かせて遊び出した。
「よし、学びたい物があったら何でも言え。最高の人間を集めてやるぞ」
「んふふ、今でも充分よ。あ、でも、お父様が言ってらした、“西海学園の図書館”は行ってみたいわ。そんなに素晴らしい書物が揃っているの? 私、葉山家の書庫だけでも宝箱だと思っているくらいなのに」
「それならば、西海学園大学の図書館か、辻川財閥の私設図書館へ連れて行ってやる。本が好きなさくらなら、感激で目を回すぞ」
「嬉しい! 一さんっ!」

 大好きな本の話になったので、私は少々興奮気味だ。
 でも、はしゃいでばかりもいられない。学校の件をお父様とお母様にきちんとお断りしたうえで、せっかく作って頂いた制服だけれども、これも戻して来なきゃ……。
 私は一さんから離れると、床に落としてしまっていた制服を拾い上げた。

 ちょっとだけ……、着てみたかった気もするけど……。

「これ、お返ししなくちゃね……」
 特に埃が付いていた訳ではないけれど、制服の表面をポンポンっとはらってから、片腕にかけて一さんに返してくる旨を伝える。踵を返し部屋のドアに手をかけようとしたのだけれど、それよりも早く彼の手が伸びて来て、ドアの鍵をかけてしまった。
「……一さん?」
 肩越しに振り返り、私を見詰める瞳と目が合う。
「まぁ、すぐ返す事もないさ」
「え? でも……」
「どうせだ。こんな機会ももう無いだろう。着てみないか?」
「っ……え?」
「着てみなさい。私も見てみたい」
「こ、この、制服を?」
「他に何が有るのだ?」
 それはそうだけど……。

 でも……。
 良いのかしら。どうせお断りするのに。着てしまっても……。
「あのだな、さくら。何を迷っているのか見当はつくが、この制服は“さくら用にオーダーされたものだ”それも本当に着るかどうかも分かっていないうちから、父上と母上が用意してしまったものだろう。ここで、着ないまま返そうと、着てから返そうと、さほど何の異常もない」
「……本当?」
「着てみたいのだろう?」

 ……お見通しな訳ね。
 確かに着てみたいけど……。でもちょっと恥ずかしい様な気も……。
 けれど、私の恥ずかしさは一さんの一言で吹き飛ぶ。
「着なさい。私が見たい。さくらなら何を着ても可愛いから、きっと似合うぞ」
 あ……そんな事言われちゃうと、顔が凄くニヤついちゃうんですけど……。
 でも、好きな人に「似合う」とか「見たい」とか言われるのは嬉しいよね。

 私が制服を抱き締めたままコクリと頷くと、一さんは部屋の中央へと私を促した。
「あ、じゃぁ、バスルームで着替えて来るわ。待ってて」
「……ここで着替えても良いぞ。別に」
「嫌っ」
 一さんの手から離れ、私はバスルームへと向かう。少々ムキになって返事をしてしまったせいか、背後からクスクス笑う一さんの気配を感じた。
 わっ、分かってるわよっ。「今更隠す事もないだろう」とか意味深な事を言いたいんでしょうっ。
 そ、そりゃぁ、“そういうこと”をしてしまっている間柄ではあるけれど、恥ずかしい事は恥ずかしい事として、存在してるんだからね。

 バスルームに入ると、私は制服を洗面台に置き、着ていたワンピースを脱ぎ始めた。
 何だろう。凄くドキドキする。新しいお洋服を着る時の高揚感、……と言うよりは、新しい物にチャレンジする時の不安と期待の高まり、とでもいうのかしら。
 だって、“制服”なんて……。
 私には無縁の物だと思っていたから、まさかこうして袖を通せる日が来るなんて……。

 上衣に袖を通し、胸当てを留める。脇ファスナーを上げると、制服は心地が良いくらい身体に馴染んだ。
 スカートを穿いてから、上衣のスカーフタイを結ぶ。胸で結ばれた柔らかな布は、とても可愛らしくリボンの形を作ってくれた。
 バスルームの脱衣所にある大きな鏡に自分の姿を映して、私はしばし自分の姿に見惚れてしまった。
 別に、自意識過剰で見惚れているんじゃない。袖を通され、本来の役割を与えられて誇らしげに映る制服に見惚れてしまったの。

 なんだろう……。変な気分。
 制服自体は可愛らしくて、本当に普通のお洋服だといっても通るかもしれないけれど、それでもどこか静粛な雰囲気が身体も心も引き締めてくれる様な、そんな不思議な感覚。
 ――これが、制服っていう物なんだ……。







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