「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第5章≪囚われの姫君≫・1

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 ――その瞬間、二人の男が同時に動いた……。


「どうした? 須賀」
 会話中、いきなり立ち上がった須賀に、同僚の木村が訝しげな声をかける。
「いや、ごめん。何でも……」
 そう言いつつも、自分のデスクに置いてあったスマホを取り上げた彼の表情は神妙だ。缶コーヒー片手に油を売っていた同僚の木村が、笑いながら冷やかした。
「何だ? ゆーりちゃんから愛のメールでも入ったか? それにしても、何か音が変だぞ?」
「ああ、何か異常かな」
 冷静に応じはするが、須賀の内心は穏やかではない。
 スマホから響いてくるのは、“ピー”という切れる事無く続く警告音。決して大きな音ではないが、冷や汗が浮かぶほど緊張感を誘う音だ。

 須賀は椅子の背凭れに引っ掛けていたスーツの上着を取ると、袖を通し、ポケットにスマホを突っ込んだ。
「オレ、ちょっと出てくる。終わったら直帰するからさ。係長にも言っておいて」
「え? 何だよ、いきなり。今日は雨が降りそうだし、外出予定が無くて良かったとか言ってたんじゃなかったか?」
 木村の疑問を笑って誤魔化し、須賀は愛用のノートブックを小脇に抱える。
 落ち着いて準備をしているように見えるが、彼の喉は緊張でカラカラだ。

(こんな時は、悠里ちゃんのコーヒーでも飲みたいな……)

 しかし今はそんな場合ではない。コーヒーは“仕事”が終わってからのご褒美と割り切って、木村の缶コーヒーを奪い取り、ひと口失敬した。
「もしかして、仕事で直帰と見せかけて、夜通しデートなんじゃないのか?」
 もちろん木村は、冷やかしで冗談半分口にしたのだが、須賀は真剣な表情で口角だけを上げた。
「まぁ、デート、っていえば……、夜通しのデートになるかもなぁ……」
「おっ。あんまりゆーりちゃん啼かせるなよぉ?」
「悠里ちゃんとじゃないよ」
「ん?」
「秘書課の櫻井係長とだよ」
「はぁぁ?」

 素っ頓狂な声を上げる木村を残し、須賀は急ぎ足でオフィスを出た。
 エレベーターホールへ向かいながら、大きく深呼吸をする。ノートブックを掴む手が、緊張で汗ばんでいるのが分かった。

「やっぱり壊されたか……。光野さんに渡した携帯……」


*****


「どうしたの? 櫻井君」
 本当に僅かな変化でしか無かったはずだ。
 例えるなら、そう、呼吸が一瞬止まった程度の……。しかしその反応を見逃さなかったさくらは、すかさず櫻井に声をかけた。
「何かあった?」
「すいません。ちょっと失礼」
 仕事の打ち合わせ中ではあったが、櫻井は腰のホルダーに収められたスマホに手を伸ばした。

 聞こえるのだ。小さな警告音が。

 社長室には、さくらと櫻井の他、主である一も在室している。
 一はネット会議中の為、デスクに着いていたので二人からは離れていたが、様子が変わった事には気付いたようだ。
 チラリと視線を流しはするが、彼の目は当の櫻井ではなく、「どうしたの」と問いかけたさくらの反応を見る為に向けられていた。

 櫻井は、須賀に教えられていた順序で警告音を消し、スマホに見入った。そこにはいつもの待ち受けではなく、壁紙として設定された様に地図が映し出されている。
 地図上に表示された赤いアイコンを追って場所を拡大していく。想像通りの場所に辿り着き、櫻井は目を瞠った。

「専務の仕事?」
 さくらが小首を傾げる。櫻井が神妙な面持ちで「はい」と返事をすると、余裕を感じさせる毅然とした笑みが返って来た。

「私の“娘”を、お願いね」

 異常事態が起こったのだという状況を、すぐにさくらが悟ってくれた事に櫻井は驚きを隠せない。
 しかし考えてみれば、彼女は学の母親なのだ。おかしな話、こんな状態には慣れているのだろう。そう考えると、さくらを尊敬する気持ちが今まで以上に高くなってしまいそうだ。
 しかし、尊敬する上司が許しをくれようと、今は仕事中だ。更に確認をする意味で一へと目を向けると、さくらを見ていた一はチラリとだけ櫻井と視線を合わせ、口角を上げて一度だけ頷いた。
 こちらも、やっぱり学の父親だ、と言うところだろう。

「申し訳ありません。行ってまいります」
 会長の了解も取れたのだ、遠慮をする必要はない。櫻井は頭を下げ、持っていた資料をさくらに渡すと速足で社長室を出た。
 櫻井が出ていくと、笑みを保っていたさくらの唇が真一文字に結ばれる。受け取った資料をくるりと丸め、苛立ちを表す様、掌にパンっと打ち付けた。
「総司さんったら……。やっぱり手を出して来たのね」
 通信を切った一が椅子から立ち上がり、不機嫌になってしまった妻に歩み寄る。丸めた紙の凶器を彼女の手から抜き取り、真似をして掌に軽く打ちつけた。
「学が予想した通りだ。思惑通りに動いてくれている事に安心した方が良いぞ。予測不能な動きをする人間ほど、脅威になる物は無いからな」
 さくらはキョトンッと一を見詰めると、小首を傾げた。
「それって、学の事?」
「その通り。私から見れば、ウチの息子は、どこぞの大財閥総帥様より脅威に成り得る男だ」
 皮肉混じりに学の自慢話をする一を見て、さくらは小さく噴き出す。
 御機嫌は少々修復されたらしく、一の手から凶器を取り返すと、それを彼に突き付けた。
「じゃぁ、その大財閥総帥様が、大事な娘に怪我でもさせたらどうするの? また昔みたいに土下座でもさせるのかしら?」
 少々懐かしい記憶が脳裏に蘇り、一は微妙にほくそ笑む。
 妹の椿と結婚する前、その承諾の為に、総司は一の前で土下座をした事が有るのだ。

「総司君は……土下座が下手だからな……。見ていると、かえって苛々するのだが……」
 一は苦笑いを漏らし、突き付けられた凶器ごとさくらを引き寄せた。
「まぁ、私が動く必要はないだろう」
「あら? 大事な娘に何かあっても、“狂犬”さんは噛み付かないの?」
 少々不満そうなさくら。彼女的には、美春に何かあったらただじゃおかないと言いたいところなのだろう。
 しかしその不満は、一のひと言に掻き消される。

「彼女に何かあれば、どこぞの狂狼が、黙って無いさ」

 さくらの肩を抱き寄せ、一は楽し気に笑い声を上げる。
 何をされようと、学は必ず賭けに勝利する。一は確信を持っているのだと、さくらは感じた。


*****


 地下駐車場への直通エレベーターの扉が開き、中に一人だけ乗っていた人物を見て、須賀は思わず苦笑いを漏らした。
「乗ってるんじゃないかと思いました。流石、行動が早い」
 乗り込んだ早々に“閉”ボタンを押す彼に、櫻井も口角を上げる。
「須賀さんの隠し玉のお陰でね。いつ鳴るか今鳴るかって、落ち着かなかった」
「……やっぱり鳴ったか……って、思いましたよ」
「俺もだ」

 美春に渡したGSP付きの携帯電話には、彼女にも話していない機能がひとつある。
 もしも無暗に破壊行為などを受けた場合、警告信号が発信されるのだ。
 信号は須賀と櫻井へ強制的に送られ、破壊行為を受けた場所を表示する。美春が操作した場合は送られるはずの音声も、この場合は送られないので、どういった状況であるのかは掴めないが、それでも、好ましい状態ではない事は確かだ。
 この警告は、いわば最終手段。出来れば発動はして欲しくなかった機能だろう。

「それも、壊された場所を確認してみれば、“問題が起こっています”って言っているような場所だ……」
 スマホの地図を眺め、櫻井は溜息をつく。操作盤の横に背を寄り掛ける須賀も、苦々しく表情を歪めた。

「辻川財閥統括本部。……まさか、就業時間内に連れ出されるとはな……」






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第5章≪囚われの姫君≫、スタートします。

 ……って、サブタイトルのわりに、「姫」は何処なのよ、出て来てないじゃないっ。
 ……すいません、明日出ます。<(_ _)>

 スッゴク「待て!ここで終わりか!?」状態で間を開けてしまいましたが……。
 4章の最後で皆さんに気にして頂いた、携帯電話。壊されちゃったんですが、実は須賀さんは破壊行為を受けた場合の機能を話していなかったんですね。
 章太郎さんは、そこまで気付かなかった事になります。(……ホントにそうかな?)←おいおい
 とにかく、美春ちゃんに何かあったという事に気付いたお傍付きさん二人が、統括本部へと向かいます。
 まぁ、アッサリ返してくれる訳……ないんですけどね……。

 では、次回!!





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たいままさんへお返事です4/14


 たいままさん、こんにちは!

 久々の三作更新でした。(笑)
 楽しんで頂けたなら幸いです!
 まぁ、三作更新だった理由は、活報に書いた通りなのですが……。(^_^;)

 第5章も宜しくお願いします!

 有難うございました!

ツキハラコトセさんへお返事です4/14


 コトセさん、こんにちは!

 うわぁ、お返事遅れてごめんなさい!!

 うーうー、誰か総司さんを本部の屋上から突き落として下さい。(待て!)
 いや、そのくらいしないと目が覚めないような……。

 でも、同等の思いは、するかもしれませんね。(*´艸`*)

 第5章のタイトル、気に入って頂けて嬉しいです。❤
 いや、活報にも書いたんですけど、迷ったんですよ。(笑)
 「姫」でも、イイですよね!!!!???(求む・同意)(笑)

 有難うございました!!

ツキハラコトセさんへお返事です4/14


 コトセさん!

 学君にお誕生日のお祝い、ありがとうございます!!

 早く帰ってきますように!


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