「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第5章≪囚われの姫君≫・3

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「しょうがない事です。ここのところ、色々な出来事が立て続けにあり過ぎましたから。心の御機嫌が良くなるまで、しばらく学校はお休みになったらいい。授業なんか受けなくても、紗月姫さんに留年の心配なんて無いでしょうしね」
 相変わらず和やかな笑みを見せる久我山だが、今の台詞の意味をどう取ろう。
 紗月姫の頭脳を持ってすれば、留年など有り得ない話だと取るのが普通だが、捻た考え方をするのなら、「辻川財閥の令嬢を留年させるなど、そんな命知らずな処置を学園側が取る筈もない」とも取れるのだ。
 そして、心が疲れたままの紗月姫は、後者の考え方をしてしまった。


 事故死した二人に少々遅れを取っていた久我山だが、ライバルがいなくなったせいか、それとも謎だった四人目の婚約者候補が紗月姫に目通り済だという話を聞いたせいか、二日続けて御機嫌伺いにやって来た。
 昨日と同じ客間で彼を迎えた紗月姫だが、お付きやメイドは部屋から出している。これは久我山の希望だ。「大切な話があるので、人払いを願えませんか」と。

 お付きも付けず、他人と二人きりになる事は禁じられている。それが男性ならば尚更だ。
 それでも久我山の希望を利いてしまったのは、彼の穏やかな人柄ゆえだろう。
 お付きもメイドも、紗月姫に「出なさい」と言われて素直に出てしまったが、これが神藤だったなら「お嬢様をお守りする意味でも、その命令を耳に入れる事は出来ません」と断った事だろう。

(神藤……)

 ほんの少しのきっかけで、紗月姫の心は神藤で満たされる。
 彼の事ばかり、考えずにはいられなくなっている弱い自分。それを思うと、これが“辻川の宝刀”と謳われている人間かと、卑下せずにはいられない。

「辛いですか? 彼がいなくて……」
 久我山は椅子から立ち上がると、ゆっくりと紗月姫に近付いた。
 いきなり替えられた話題に、紗月姫は小首を傾げる。彼とは誰の事を言っているのだろう。不思議そうな紗月姫を見詰め、久我山は紗月姫の許可も無く、同じソファへ腰を下ろした。
「神藤君ですよ。――どうやら、監視付きで離されたようだ。昨日も今日も姿が見えない。おかしな噂が立ってしまうほどベッタリと離れなかった二人が離れているっていうのは、どう考えてもおかしい」
「久我山様。おかしな詮索は……」
「“おかしな噂”は、“噂通りなのだ”という事実でも、総帥に付き止められてしまった、……っていうところでしょうか」

 紗月姫の眉がピクリと動く。
 彼の口調が、苛立ちを誘うほど不快なものだったのだ。久我山がこんな話し方をするのは初めてだ。

「男女の関係なのでしょう? 神藤君とは」

 どうやら久我山が人払いを頼んだのは、この真実を紗月姫に確認する為らしい。
 紗月姫は久我山を見据えたまま、勢い良く立ち上がった。例え真実でも、こんな質問を恥ずかし気も無く女性にして来るなど、酷い侮辱だ。
 憤りを表し、無言で席を外そうとした紗月姫だが、久我山に腕を掴まれ引き寄せられてしまった。再びソファに腰が落ち、上半身は久我山に抱き止められる。

「図星でしょう?」
「失礼ですよ、久我山様! 御放しなさい!」
 紗月姫は身体を離そうとしたが、久我山の腕は離れなかった。身体を捩って首を振り、彼から離れようとする紗月姫の耳に、
ズルイ誘惑が吹き込まれる。
「神藤君を、貴女の傍に戻してあげようか?」

 紗月姫の抵抗が止まる。彼からは見た事も無い卑劣な笑みが、至近距離で紗月姫の視界に飛び込んだ。
「婚約者には、僕を選んで下さい。そうしたら僕は、貴女から神藤君を取り上げたりはしない。一生、貴女の傍に付かせてあげますよ。今まで通り、二十四時間」
「……どうして……」
「正直、貴女と神藤君がどういう関係であろうと、僕は興味が無い。医者としての僕が欲しいのは、辻川の名とバックアップだ。僕達が結婚すれば、貴女にも僕にも有益な事ばかり。――良い話だと思いますよ?」

 正式に婚約者が決められた時点で、神藤のお世話役としての任は解かれる。
 お付きとしての立場は変わらずとも、これからは統括本部の仕事がメインとなり、いつでも紗月姫の傍に居られる事はほぼ無くなるのだ。
 しかし、婚約者として久我山を選べば、彼の権限として神藤を一生紗月姫の傍に付けてくれるという。
 おまけに、二人が男女の仲でも構わないと……。

「まぁ、僕も男ですから、“妻の役目”くらいには付き合って下さい。貴女だって立場的に、後継者を儲けなければならない人だし。取り敢えず最初に生まれる後継者だけは“間違った血”が混じらないようにしてほしい。その後は、“間違った血”が混じった子を何人孕もうと構いませんが」
 大分心が動いたのだろう。紗月姫は抵抗をやめ、伏し目がちに久我山から視線を逸らした。
 それを良い事に両腕で紗月姫を抱き締め、勝利を確信するかのように天使の柔らかさを堪能する。久我山は“良い人過ぎる”仮面を外し、次々に正体を晒した。

「どこの誰だか分からないが、四人目が会いに来たそうですね。候補が五人になるかもしれないという話は、どうせ候補達を奮起させる為の嘘だったのでしょう? 僕のライバルはその四人目だけの様ですが、これだけの好条件を、その人は出してくれそうですか?」
 
 久我山は四人目が“葉山の御曹司”である事を知らない。
 知っていたなら、もう少し用心に用心を重ねて、こんなに早く正体を見せる事は無かったのではないだろうか。
 公の場には現れず、こっそりと紗月姫にだけ会いに来た四人目を軽く見ているのだ。
 他の候補達と並ぶには、あまりにもお粗末な身分の人間であるから、パーティーには顔を出せなかったのだろうと。
 だからこそ、早々に交渉を持ちかけても不利な事は無いと、久我山は読んだのだ。

「――確かに、四人目の方は、間違った事の嫌いな方ですわ。久我山様の様な条件は。出してはくれないでしょうね……」
 快諾したとも取れそうな紗月姫の言葉を聞き、久我山は腕を放して、まだ俯いている彼女を見詰めた。
「紗月姫さん、やはり貴女は、頭の良い女性だ」
「久我山様は、人の心を察するのがお上手だわ。お仕事柄なのかしら?」
「紗月姫さんほどではありませんよ。貴女は本当に人の心が読めるかの如く、全てを察する事が出来る人だ。だからこそ、僕の提案も分かってもらえると思っていたんです」
 久我山は紗月姫の顎を掬い、俯いた顔を上げさせる。婚約者レースの圧勝を確信した彼は、そのまま唇を近付けた。

「……待って下さい……」
 紗月姫は顔を逸らし、久我山を拒む。両手で彼の胸を押し、逃れるように立ち上がった。
「もう少し、……四人目の方を知る時間が欲しいわ。――あの人が、何を考えているのか……」
 久我山の口元が、皮肉に歪む。「今更」と言いたげに嘲笑する表情は、それでも紗月姫の言い分を認めた。
「結構ですよ。時間を置いたからといって、僕が不利になるとも、貴女の考えが変わるとも、思ってはいませんから」
 紗月姫に合わせ、久我山も立ち上がる。
 そして、表情をコロリと変えた。

「では紗月姫さん。また来ますよ」

 人の良い、優しい仮面をかぶって……。






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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 ……うわぁ……、嫌な奴~~~~。
 自分で書いといて何ですが、久我山は三人の候補者の中で一番嫌な奴です。(^_^;)
 『迷宮~』でも、ちょっと違う感じではありましたが、凄く嫌な奴だったんですよね。
 でも、彼が出した条件に、紗月姫は本当に乗るつもりなのでしょうか……。

 色々な事があり過ぎて、自分を見失うほど迷走していた彼女。
 やっと、何かに気付いてくれそうです。
 でもその陰で危険に晒されそうなのは……。

 では、次回!!




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