「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第5章≪囚われの姫君≫・7

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「芍薬(しゃくやく)……」
 視界に入る大輪のピンク。その鮮やかさで視界を塞ぎ、涼香は“仕事”に向かう信の足音を聞いていた。
 きっと信は、牡丹の花に似ているからという理由で芍薬を選んだのだろうと察しを付け、フッと口元が和む。

「私に心配かけないようにって……。何かあっても、いつも仲間外れにするんだから……」
 小さく笑って芍薬の花びらを摘まむ。まるで意地悪をして美春の頬を摘まむ時の様に。
「人の事ばっかり考えて……。自分の事は二の次。……ホントに、馬鹿みたいにお人好しで優しいの……」
 いきなり見知らぬ場所へ連れて行かれ、美春に会わされて、その後すぐに家へ戻された。
 意味不明なこの出来事を考え合わせれば、涼香は美春をあの場所へ引き寄せる為に使われたのだと考えるのが妥当だ。
 涼香の為にと、美春はあの場所へやって来たのだろう。

 涼香は芍薬の花束を両腕で優しく抱き締めた。
「美春……」
 昔から、その優美な容姿に絶佳なる評価を受けてきた美春は、よく薔薇の花に例えられた。
 しかし涼香は、今手にしている様な大輪の芍薬を見ると美春を思い出してしまう。ピンクならば尚更だ。
 芍薬は、名前から感じるイメージほど地味な花ではない。
 可憐で艶やかで優美。それでも出しゃばったところが無く、趣ある優しい花だ。
 薬にもなり、その効果は人の痛みを取り去る事。そんなところも、美春をイメージせずにはいられない。

「だって、芍薬は、“花の宰相”っていわれるくらい、大きな存在なんだから……」

 ピンクの花を見詰め、親友を想う。
 いつも美春を守って来た学はいない。けれど涼香は、何よりも信を信じた。
 花束を抱いた手が下腹部に触れる。考え事が続き、気が張ってしまったせいだろうか。少し重い痛みが籠っている様な気がする。
「……大丈夫よ……」
 涼香は声に出して、自分と“もう一人”に言い聞かせた。

「あなたの“お父様”は、最強の弁護士になる人だもの」

 今、涼香に出来るのは、信じる事。


*****


「広いなぁ……。流石は辻川財閥統括本部っ」
 溜息とも取れる大きな吐息が須賀の口から漏れるが、それが溜息ではない事はすぐに分かった。
「探し甲斐があって、たのしーぃぃっ!」
 尻上がりに跳ね上がる声。まるで少々素行の悪い少年達が浮かれ上がっている時の咆哮にも似ている。ついその声を懐かしく聞いてしまった櫻井は、口を付けていた缶コーヒーを噴き出しそうになった。
「須賀君……、似合わないよ、それ……」
「あ、やっぱり? 悠里ちゃんにはウケたんだけどなぁ。櫻井さんに言われるんなら本当に似合わないんだなぁ。……試しに、もう一回聞きます?」
「十代の頃、一生分聞いたから結構だ」
 運転席で親指を立て、櫻井は須賀の膝に乗ったノートブックを覗き込む。
 相棒の武勇伝を冷やかして、須賀は持っていた缶コーヒーをドリンクホルダーへと戻し、再びキーボードに指を走らせた。

 会社を出た二人は、直接統括本部へと乗り込んだ訳ではない。
 乗り込んだところで「そういう来客はありません」と受付で断られるだけだ。仮に美春が来ている事を認めても、素直に返してもらえる可能性などは無い。
 携帯電話をわざわざ破壊してしまうところを見ても、状況は穏やかではないだろう。
 それならばいっそ予め美春の居場所を特定し、そこを目指して攻め入り、彼女を奪い返して来た方が早いではないか。
 まるで学の様なストレートな方法だ。提案したのは櫻井かと思いきや、発案者は須賀なのだ。

 そこでもちろん須賀の出番だ。
 彼得意のハッキング技術で四方八方からデーターを集め、間違いなく美春が統括本部に居る事を突き止めた後、須賀は本部内の防犯カメラや記録用カメラなど、全ての映像をハッキングし始めた。
 もちろんセキュリティはかかっている。それも辻川独自で開発された、鉄壁と誉れの高いセキュリティだ。普通に考えるなら、例え須賀でもそこを掻い潜るには時間を要した事だろう。
 しかし、何とも都合が良い事に、須賀は去年、神藤のサポート役として仕事をした事があり、辻川のラインを全て把握しているのだ。
 簡単だったとは決して言わない。だが彼は見事侵入に成功した。そして今、時間を戻した所から各所のカメラ映像を確認し、美春の行き先を追っているのだ。

「だけどな、須賀君がそんな専務張りの事を言うとは思わなかった。『突破しましょう』なんて」
 次々に切り替わるウィンドウを目で追ってから、櫻井はフロントガラスから見える高層ビルを見上げた。
 辻川財閥統括本部ビル。五十階建てのビルは地上二百メートルの高さがある。
 二人は、五百メートルほど手前にある公園の駐車場に居るのだ。
「地上二百メートルか……。また五十階まで階段を上り下りする事にならなきゃいいが……。エレベーターは使えそうかい?」
 地上二百メートルの高層ビルと聞くと、去年の思い出が頭を過る。櫻井がハァっと溜息をつくと、須賀は真剣に答えた。
「もちろん使わせてもらいますよ。第一オレ、五階以上階段を駆け上がる体力なんて無いですよ。櫻井さんと違って」
「……まぁ、俺は、体力担当だしな……」
 頭脳派らしい言い分だが、最後のひと言が引っかからなくも無い。
 間違ってはいないので櫻井は納得しようとしだが、やはり釈然としない彼は、前屈みになりながら必死で美春の姿を追っている、須賀の背をポンッと叩いた。
「鍛えてやろうか? 須賀君」
「オレ、一生、五十階まで階段上る気は無いから遠慮しますよ」

 ふざけているようで、実は本音を吐いていた須賀の手が止まる。
「……櫻井さん、エレベーター、使わなくても良さそうですよ……」
「ん? 五階より下に居るのか?」
「ええ、下です。光野さんは、地下にある部屋にいますよ」

 映し出された映像ファイルは、約四時間前。
 地下一階でエレベーターを降り、重厚な両開きのドアの中へ消えていく美春の姿が、通路に取りつけられた監視カメラの映像から確認出来る。

「上っていくよりは簡単そうだ。須賀君の“正面突破案”は、意外と正解かもな」
「もちろんですよ。わざわざ、罠にかかってやる必要なんてありませんから」
「罠?」
 櫻井が眉をひそめると、須賀は彼らしくない皮肉を口にした。
「携帯を壊したのは、オレ達をおびき寄せる為です。ひとまとめにしておけば邪魔もされないだろうって腹ですよ。誰がそんなもんに乗ってやるか」







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 今回救出に向かった三人には、皆、“待っている人”がいます。
 その人の為にも、早く帰る為に頑張ってもらいましょう。
 ……と、いうことは、カップルだらけなのね。(笑)

 早くも須賀が本領発揮。
 櫻井さえ気付かなかった、章太郎の罠を見抜いていました。
 携帯電話の件では両者裏をかき合っていますが……、お傍付きコンビの勝ちでしょうか?
 ……そうかな?←おい

 とにかく、正面突破が決まったのですから、早いところ行ってもらいましょう。
 だって、意識を失った美春が心配ですから……。

 では、次回!!





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ツキハラコトセさんへお返事です4/20


 コトセさん、こんにちは!

 いえいえ、良いんですよ! 須賀さん、地味に冴えてるでしょう!?(爆)
 彼は頭脳担当ですので、こういうところでじゃないと目立てません故。(* ̄m ̄)プッ

 おっさん……。 (o_ _)ノ彡☆ポムポム
 いや、もぅ、コトセさんの御立腹ぶりが目に浮かぶようです。
 章太郎さんも、取り敢えず美春ちゃんを傷付ける気はない様です。……美春ちゃんは、ね……。(←おい)

 これから二人が攻め入ります。
 楽しんで頂けますように。(どきどき)

 有難うございました!

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