「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・4『似合いますか?』

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 なんだか胸がドキドキしてきた。
 一生着る機会なんて無かっただろう物を着られた緊張感と、恥ずかしさ。
 まるで、生まれて初めてお洋服を着た時の様な……。そう、これは、初めて一さんに会った時、彼に選んでもらったお洋服を着た時と同じような感覚。
 そう思うと私は、早く一さんに見て欲しくて堪らなくなった。
 急いでバスルームのドアを開け、彼の前へ飛び出していこうとした私は、ドアを開けた形のまま身体が固まる。

 ドアの前で、一さんが腕を組んで待っていたのだ。

 「はっ、一さっ……」
 正直、びっくりした……。
 だって、まさか目の前に居るとは思わなかったんだもの。

「あっ、あのね、着てみたんだけど……」
 気を取り直して、彼に見てもらおうと背筋を伸ばす。「きっと似合う」、って言ってくれてはいたけど、実際に見て本当に似合うと思ってくれるだろうか。着慣れない物を着ているから、「借りものみたいで似合わない」とか思われないだろうか。
 不安と期待が入り混じり、ドキドキと高まる鼓動。照れ臭かったけど、後ろ姿も見て欲しくてくるっと回ってもみた。
「どうかなぁ? 似合わないかもしれないけど、何だか着られて嬉しいわ。そうだ、どうせだから、お父様とお母様にも見せてこようかしら。あと、椿さんにも……」
 恥ずかしさでつい饒舌になる。だって、見てすぐに何か言ってくれるかと期待した一さんは、腕を組んで顎に手を当てて、いつもの“考える一さん”のスタイルで私をジッと眺めているだけなんだもの。

「さくら」
「はい?」
 やっと口を開いてくれた。感想を貰えるかと期待に膨らんだ胸は、いきなり一さんに腰を掴まれ持ち上げられた事で、驚きに高鳴った。
「はははっ、はじめさんっ!?」

 私を持ち上げたまま、一さんはスタスタと移動する。部屋の中央で立ち止まり、その場に下ろすと一歩下がって再び腕を組み、私を眺めた。
「さくら」
「はい?」
「回ってくれ」
「……はぃ?」
 回る? 回るって、何?
 一さんの回りを回るって事? ……それは違うわよね。
 何も出来ずに戸惑っていると、一さんはクスッと小さく笑った。
「さっきみたいに回ってみてくれという意味だ。あまり見ない仕草だったので可愛かった」
「あ、……はい……」
 やった時は恥ずかしかったけど、可愛いなんて言ってもらえると嬉しくなる。少々緊張しながら、私はくるりと回って見せた。

「もう一度」
 再度リクエストされ、くるりと回る。
「もう一度」
 再度……。何かしら? 後ろ姿が良く見えないとか? 
 私の髪は腰まであるストレートだ。もちろん下げたままなので、制服の後ろ姿が良く見えないのかもしれない。
 後ろ髪を左右から前に下げて、後ろ姿が良く見える様にもう一度回った。しかしここで一さんのチェックが入る。
「髪は寄せなくていい。不自然だ。それと、もう少し思い切り回ってみてくれ」
 何が何だか分からないけど、一さんには何か目的があるらしい。私は髪を後ろへ戻し、勢いを付けてくるりと回った。

「きゃぁっ!」
 回った瞬間、私はスカートを両手で押さえ肩を竦める。
 思い切り回った勢いで、プリーツスカートが捲れ上がる様に広がってしまい、凄く恥ずかしかったのだ。
 だけど一さんはニコニコ笑って、満足そうに頷いた。
「そうそう、そういったヒダのスカートは広がりやすいから気を付けねばな」
 そっ、それは良いけど、どうしてそんなに楽しそうなのっ。
「あの……、一さん? もしかして、これが見たかったから、『回れ』なんて言ったの?」
「本当は、風にあおられた瞬間スカートが広がって慌てる姿、が見たかったのだが……」
 ちょっと待ってっ。それって、制服を着たところを見たい、っていうより、そういったシチュエーションを見たいっていう事で……。な、なんだか、こういった制服が好きなマニアと呼ばれる方々の様な意見の様よ!
 似合うか似合わないかは二の次ですかぁ?

 ちょっと拗ねた表情を作ってしまう。
「ふーん、一さんって、高校生の頃そういう目で女の子見てたんだ」
 おまけに言わなくても良い憎まれ口まできいてしまった。
 けれど一さんは特に怒る訳でも無く、真面目な顔で答える。
「高校の頃か……。んー、興味は無かったな」
 そういえば、昔は人間自体に興味が持てない人だったのだという話を思い出し、私は思わず口元を指先で押さえた。勢いだったとはいえ、人の古傷を掘り起こす様な事をしてはいけないのに。
 すると一さんは、悪い事を言ってしまったと口をつぐむ私の頭を撫でてくれた。
「大介がな、よくそう言っていたのだが、昔からどうにも理解不能だった。その意味がやっと分かったぞ。確かに好きな女の子がやると可愛いな」

 拗ねた表情も気まずい思いも、今のひと言でとんでいく。
 似合う似合わないより、“好きな女の子がやると可愛い”に私の心は引き付けられた。
「あの、……私、お父様とお母様に見せて来ますね」
 別の意味だけど、可愛い、って言ってもらったし、もう満足。
 私が踵を返そうとすると、一さんは腕を掴んで引きとめた。

「……見せなくて良い」
「え……? 誰に……」
「父上にも母上にも椿にも、見せなくて良い」
「ぇと……。そんなに、似合わない?」
 ちょっと笑いが引きつる。見せたくないほど似合ってないのだろうか。結構身体に馴染んで良い感じだと思ったのだけれど……。
 沈みかける気持ち。でも、そんな気持ちを一さんは釣り上げた。

「さくらの、そんな可愛い姿を見るのは私だけでいい。他になぞ見せる必要はない」

 一瞬、口を開けてぽかんっとしてしまったけれど、ふつふつと湧き上がって来た嬉しさのせいで、私は一さんに飛び付いてしまった。
「嬉しいっ、一さん!」
 首に腕を回して膝を曲げ、彼にぶら下がる。一さんは素敵な笑顔を浮かべて私を縦抱っこした。
「本当? 本当に似合う?」
「ああ。当然だ。最初から似合うと言っただろう? 凄く可愛いぞ。こんな可愛いさくらは、誰にも見せてやらん」
 一さんは、片腕で私を抱き上げたまま髪を撫でる。撫でられる心地良さとくすぐったさに、私は肩を竦めた。
 似合う、可愛いって言ってもらえた嬉しさと、誰にも見せない、なんて言ってもらえた照れ臭さ。両方が合わさって私の心拍数は上がる一方。

「この制服が、こんなに可愛いと思ったのは初めてだ」
 一さんはゆっくりと絨毯の上に腰を下ろし、胡坐の中央に私を座らせた。長い後ろ髪を左肩から前へ回し、制服の襟を撫でる。時々うなじに指が当たってくすぐったい。
「さくらが着ていると思うと、もっと可愛い……」









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