「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第5章≪囚われの姫君≫・8

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 最初に浮かんだイメージは、雲の上。
 ふわりとして温かい感触。幼い頃夢に見て想像した、“雲の上にいるみたい”な気分だったのだ。
 身体の感覚が戻って来ると、そんな気分になってしまった理由が分かって来た。
 どうやらソファに掛けられていたムートンの上に寝かされているようだ。全身が柔らかな長い毛足に包まれ、ふわりふわりとした肌触りを感じる。
 肌の上にもサラリとした感触。軽いのに、空気を含んでとても温かい。

(学の部屋で……、ラグの上でエッチしちゃう時ってこんな感じだよね……。シルクのブランケット引っ張って来てさ、その中に埋まって……)

 夢心地の陶酔感は、幸せで淫らな日常を思い起こさせる。
 しかし美春は、そこでおかしな事に気付き始めた。

(どうして……裸なんだろう……)

 その瞬間、夢の中へ誘いこまれる直前の出来事が、頭の中でフラッシュバックした。
 口に入れられたカプセル。どんなに暴れても放れなかった章太郎の手。抵抗を奪われ、途切れた意識。

「お気付きになられましたか?」

 章太郎の声が上から降り注ぎ、美春は驚きに息を止めて飛び起きた。
 大きく見開いた目が純白のシーツを捉える。シーツは起き上がる事によって上半身から肌を滑り落ち、自分が裸なのだと再認識する前に反応した身体がシーツを胸で掻き抱いた。
 夢ではない。確かに美春は裸だ。感覚的には下着も身に付けてはいない様だ。
(何で……。どうして私……)
 理解不能なこの状況に、美春の思考は解決を求める。
 しかし、どう考えても意識を失っている間に行われた出来事である為、彼女には理解が出来ない。
 当然、美春の視線は説明を求め、傍らに立つ章太郎へと注がれた。

「そんなに焦らないで下さい」
 章太郎は微笑んだまま美春を見下ろす。気が付かないうちに裸で寝ていたとなれば、傍に居る男性に何らかの疑いをかけたくなるのは当然の事だ。しかし、彼に衣服の乱れなどは確認出来ない。
 美春は胸で押さえたシーツを強く握った。
「……これは……、あなたが?」
「美春様のお洋服は、こちらで預からせて頂いております。快いお返事を頂けました後で間違いなくお返し致しますので、ご心配はなさらないで下さい」 
「し……、失礼でしょう!? 眠らせて女性の服を脱がせるなんて!」
「申し訳ございません。ですが、美春様がこの部屋から出ようなどという愚かしいお気持ちを持たれませんようにと考え、衣服をお預かりさせて頂きました。男性はともかく、シーツ一枚のみを身体に巻いて逃げ出そうという女性も、なかなか居ませんので」
 美春は章太郎を睨み上げるが、その表情には羞恥と疑念の片鱗が窺える。章太郎は少々困った笑みを浮かべ、我が身にかかった疑いを晴らした。
「御安心下さい。私はお洋服をお預かりさせて頂いただけです。それ以外の目的で、美春様のお身体に触れてはおりません」
 軟禁されるという仕打ちを受けてはいるが、彼の言葉に嘘は無い。それは信じられる様な気がした。
 だが安心する美春に、彼は恥辱を与える。
「正直、美春様があまりにも魅力的で、お洋服を頂いている間は鼓動が高鳴り続けました。ですが、間違いなく学様であろう痕跡があまりにも情熱的で、とてもではありませんが私が触れる事など恐れ多く感じ、愚かしい気持ちも抑制されてしまったのが本当の所で御座います」
 その意味に心当たりを感じた美春は、胸で押さえていたシーツを首まで上げて身を竦めた。

 胸に、腹部に、内腿に。学が散らした花びらの痕跡が、まだ消えずに残っている。
 「俺のものだから。その証拠」と言って付けられたキスマークは、冗談か本気か不明ではあるが、確かに章太郎の劣情を止めたようだ。
 あまりにも沢山付けられてしまった愛情の証。それは嬉しいがとても花恥ずかしく、ここのところ母親の前でさえバスタオル一枚の姿を見せる事が出来なかったほどだ。

 それを他人に見られてしまった。美春は耳まで熱くなるほどの羞恥を覚えたが、その様子を見て、章太郎は微笑ましげに笑った。
「学様と美春様は、本当に素晴らしい恋人同士でいらっしゃる。傍に居るだけで、お二人の幸せを分けて頂いている様な気持になります」

 美春は驚き、目を見開いたまま章太郎を仰いだ。
 そこにあるのは、意識を失う前まで見ていた機械的な彼の表情ではない。辻川邸を訪れた際、紗月姫のお付きとして歓迎してくれる章太郎の表情だ。そして、神藤と話をしている時に見せる笑顔だ。

 いったい彼は、どういう人間なのだろう。
 彼の本性は何処にあるのだろう。
 紗月姫に仕えている時の彼は、思わず全てを頼ってしまいたくなるほどの好青年であるのに、総司の命令を守っている時の彼は、まるで別人だ。
「どうぞ。美春様」
 美春の傍らに章太郎が跪く。彼の手にはティーカップが携えられていた。
 中にたゆたうのはキャラメル色のミルクティー。章太郎は控えめに差し出し、ニコリと微笑む。
「お疲れでしょう。甘めにしてございます。お口に合えば幸いですが……。とはいえ、気に入って頂ける自信は少々あるのですよ。紗月姫お嬢様が神藤以外の人間が淹れた紅茶を口にした回数は、私の物が一番多いのですから」
 例えに紗月姫を出すのだから、これは相当な自信だ。
 意識を失う前、あれほど気持ちが荒ぶりティーカップを払い落すという乱暴まで働いてしまったというのに、何故だろう、今美春はとても落ち着いた気分なのだ。

 学と美春を想い、不意に戻った章太郎の態度に安心感を覚えてしまったのが原因だろうか。
 いや、もしかしたら、意識を失う時に飲まされたカプセルには、精神を安定させる作用がある物も含まれていたのかもしれない。
 今は部屋の中にBGMが流れていない。それでも身体に何の不快感も苛立ちも覚えないのだから、恐らくそうなのだろう。
 そう思うと、目の前に居るこの章太郎は、無響状態の部屋に長時間居ても精神的な乱れを感じさせない。
 辻川の精鋭は、こんな精神的な重圧にも、平気で対応出来る訓練をされているというのだろうか。

「有難う。頂きます」
 シーツが滑り落ちないよう片側を身体にひと巻きして、美春はティーカップを受け取った。
 緊張の連続で、喉どころか身体中が渇いていたのかもしれない。キャラメルの様に甘いミルクティーは疲れた身体の栄養源となって、美春の心と体を活性化させてくれた。
 渡されたカップは、あっという間に空になってしまったのだ。

「光栄で御座います」

 章太郎は空になったカップを、嬉しそうに受け取った。
 そして美春は、彼がこの状態であるうちに、今回のこの事態について分かってもらえるよう説得は出来ないかと、考えたのだ。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 脱がされましたが、何もされて無いみたいです。
 でも、裸見ちゃってるから、誰かさんが怒るんじゃないかなぁ。(*´艸`*)

 「こんな奴だったなんて!」と、総司よりも話題を頂いておりますのが章太郎です。
 『迷宮~』の時は、完全に“いい人”でしかありませんでしたので。
 真面目でいい人であるはずの章太郎が、あそこまで豹変出来る理由も、後々書かせて頂きます。

 章太郎を説得にかかろうとする美春。
 さて、上手く行くのでしょうか?

 では、次回!!



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まとめteみた.【第5章≪囚われの姫君≫・8】

最初に浮かんだイメージは、雲の上。ふわりとして温かい感触。幼い頃夢に見て想像した、“雲の上にいるみたい”な気分だったのだ。身体の感覚が戻って来ると、そんな気分になってしまった理由が分かって来た。どうや寝かされているようだ。全身が柔らかな長い毛足に包まれ...
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