「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第5章≪囚われの姫君≫・12

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「流石は大財閥様だ。警備員もなかなかの粒揃いじゃないか。結構楽しめたぜ」
 一応は褒め言葉に聞こえなくもない。だが櫻井は汗ひとつ掻いていなければ、スーツに乱れも無いのだ。
 警備員六人を相手にした彼ではあったが、その結果は言うまでもなく一人勝ちだ。動けなくなった六人をエレベーターに押し込め、急いで駆け付けた。
 そして彼が見たのは、動けない須賀の手を踏み潰そうとしている章太郎の姿だった。

「葉山製薬秘書課、櫻井陸都係長。葉山グループ会長の第三秘書」

 一瞬櫻井を悪鬼の如き形相で睨み付けた章太郎ではあったが、その表情はすぐに機械的な物に変わった。

「そして、専務のお傍付きとして、美春様の教育指導役。――昔取った杵柄のお陰で、随分と見込まれたものだ」

 櫻井と章太郎が睨みあう中、美春は落ちないようにシーツを身体に巻き付け、須賀の傍らに膝を着いた。
「須賀さん……大丈夫? ごめんね……、ごめんなさい……」
 捻られた右腕に負担をかけぬよう、美春は須賀の左肩を支え、上半身を起こそうとする彼を手伝う。
 その間何度も謝る美春に、須賀は苦笑いを漏らした。
「どうして光野さんが謝るんです? 謝んなきゃなんないの……オレですよ……」
「だって……、ごめんなさい……私を助けに来たから……」
 彼女を助けに来たせいで痛め付けられたのだ。美春が言いたい事は分かったが、須賀はその気持ちを否定した。

「オレの仕事なんですよ。……それも専務が、オレを信頼して任せてくれた……。やるのは当たり前だし、最善を尽くすのも、当然でしょう? ……まぁ、スッゴクカッコ悪い最善ですけど」
 
 章太郎に出された選択通り、須賀が「ここで見た事を忘れてこのまま帰る」と言えば、彼は解放されたのかもしれない。
 けれどそれは、学に任された“仕事”を放棄する事。信じてくれた上司を裏切る事だ。
 須賀は、それだけは避けたかった。

「須賀さん……、有難う……」
 美春は泣きそうになりながら、須賀の左肩を抱いて額を付ける。
 彼女を守ろうとしてくれたという気持ちより、須賀が学を慕って最善を尽くしてくれるその姿が、嬉しかったのだ。

 だが二人で感動の再会をしている暇はない。美春を須賀から引き離そうと、章太郎が近寄って来たのだ。
 しかしながら二人の前には櫻井が立ちはだかっている。普通ならば彼を警戒して迂闊に近寄ってなど来ないだろう。
 だが章太郎は、そんな事お構い無しだ。美春に向かって伸ばした腕を、櫻井が強く掴む。互いに威嚇し合い睨み合うと、先に章太郎が重い声を発した。
「……私は……、あまり他人に力任せに掴まれる事を、好まない……」

 言葉を言い終わらないうちに、章太郎は掴まれた腕を思い切り振り上げる。振り解かれまいと力任せに掴んでいた櫻井は不意にバランスを崩すが、彼は倒れそうになる体勢を利用し、章太郎の足を払った。
 そのまま章太郎を道連れに転倒し、無理矢理床を転がる。それによって彼を美春と須賀の元から離したのだ。
「須賀! 起きろ!」
 櫻井としては、章太郎を引き離しているうちに美春を連れてここから脱出して欲しかった。今ならまだ、エレベーターに閉じ込めた男達に捕まる事もないだろう。
 しかし、今の須賀にそれが難しい事も分かっていた。

「はい!」
 櫻井の意図は、もちろん須賀にもすぐに分かった。美春に支えられながら須賀は身体を動かそうとする。しかしそのたびに、右肩から腕に激痛が走るのだ。
「須賀さん、動かないで……。駄目よ」
 捻られた時に右肩が外れただけかと思ったが、この激痛と冷や汗の出方は尋常ではない。
 もしかしたら骨折しているのかもしれない。捻られた他に、腕自体もかなりの力で踏み付けられていたではないか。
「須賀さん……」
 美春を心配させまいと、苦痛を耐えているのが一目で分かる。美春は半泣き状態だ。
 彼女だけの力では、須賀を支えて逃げる事など出来ない。少なくとも櫻井の力を借りなければ。
 その為には、意地でも章太郎を何とかしなくてはならないだろう。

 だがその矢先、起き上がりかけていた櫻井の首に、後ろから章太郎の腕が巻き付いた。更に膝で腰を押さえ付けられ、身体を後ろへ反らされたのだ。
「あっ……くぅっ!」
 櫻井の首を絞め上げ、背を引き反らしながら章太郎は溜息をつく。
「まったく。これだからチンピラ上がりは……。力にばかり頼って判断能力に欠ける。どう考えても自分達が不利だと、考え付かないものか?」
 このまま絞め続ければ、間違いなく櫻井は堕ちる。彼が動けなくなれば、この騒ぎも終わりだ。
 章太郎は自信があった。しかし、これでもかとばかりに絞め上げていた彼の腕を両手で掴み、そこから勢いを付けた櫻井の頭部が、章太郎の顔面を直撃したのだ。

「……くっ……」
 顎を引いていたお陰で広範囲への衝撃は免れた。
 しかし額と目に打撃を受け、流石の章太郎も腕の力が緩む。その隙を逃さず櫻井は章太郎の腕を掴んだまま横へ倒れ込み、身体ごと彼を床に叩き付けた。同時に脇腹へ肘を入れ、苦し気に呻く章太郎の声を耳で確認して飛び起きる。
「須賀! 女史!」
 章太郎はしばらく動けないだろう。そう察しを付け二人の元へ駆け寄ろうとした櫻井だったが、いきなり後ろから腰に衝撃を感じ、物凄い勢いで開いていたドアの片側へ激突した。
 片側とはいえ重厚なドアだ。ぶつかった衝撃でゆっくりと閉まるのと同時に、全身で激突した櫻井は、声を上げる事も出来ないままうつ伏せに倒れた。

「……さっきの、お返しだ」
 すぐには立ち上がれないだろうと思われた章太郎だが、彼はすぐに跳ね起き、背中を向けた櫻井を蹴り飛ばしたのだ。
 少し緩んでしまったネクタイを締め直し、章太郎は吐息する。
「ったく……。往生際の悪い……」
 櫻井の傍へ歩み寄り、爪先で倒れた身体を仰向けに返した。

「はっ、……くっ!」
 身体を返された瞬間、櫻井の上半身、特に胸部に痛みが走る。ドアに激突したせいだろう。もちろん、蹴り入れられた腰にも激痛が走った。

「でも、褒めてあげるよ、櫻井陸都君。辻川の精鋭相手に、ここまで健闘した事を」
 章太郎は前屈みになり、寄りかかる様に櫻井の胸部中央に指を五本立てた。

「その功績を称えて、私も君には、中途半端な扱いをしない事を約束しよう」
 章太郎の指に力が入る。
 肋骨を砕かれるような痛みに、櫻井は喉を反り上げ息を呑んだ。


*****


 家に一人帰って来た冴子は、ずっと落ち着かない時間を過ごしていた。
 ソワソワする気持ちを落ちつけようと、ローテーブルの上に置いてある携帯を覗く。
 覗いても着信がある訳ではないのだが、何となく何かをしていないと不安で堪らないのだ。

「何時に帰って来るのかしら……」
 読んでいた雑誌を膝で閉じて、ラヴソファの隣に視線を移す。いつものこの時間なら、大抵ここで櫻井が新聞を見ているか、冴子にちょっかいをかけている。今日はそんな日常が奪われていて、少し寂しい。

 “特殊任務”に出掛けた彼を、冴子は待つ事しか出来ない。
 不安で堪らない。少し情緒不安定になっている自分を感じるせいか、尚更だ。

 ――それでも冴子は、信じて待つしかない……。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第5章2のお話で、冴子が持っていた紙袋の中身を随分沢山の方に予想して頂きました。
 で、皆さん大正解だったという……。(笑)
 そうなんです。そうなんですよ~~~~。(*´艸`*)
 次回、ちゃんと出て来ますからね。こんな場合ですが……。;;

 櫻井大健闘です。……が、ここまででしょうか。
 いやいや、それだと困るのですよ。
 学が居ない今回、実戦で頼りになるのは彼だけです。
 他に助けに来てくれる人は居ないんです。

 ……あれ?
 そうだっけ?

 では、次回!!





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