「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第5章≪囚われの姫君≫・15

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 美春が辻川に狙われる。
 それは、最初から危惧されていた事だ。美春自身それを理解し覚悟もしていた。
 だが正直、ここまで追い詰められるとは思ってもいなかったのだ。

「学……、どうして分かったの……?」
 学の声が聞けたのは嬉しい。彼だって大変な仕事をしているのに、美春を案じて気を回してくれたのももちろん嬉しい。
 けれど、何故学は美春の危機を知る事が出来たのだろう……。
『美春。涼香さんに感謝しろ』
「涼香?」
『涼香さんが田島を動かした。俺に連絡をよこした後、あいつは総帥に直訴したんだ』
 美春は涙も止まる思いだった。
 学に美春の危機を知らせたのが信だという事は分かった。
 それも信は、美春を助ける為に総帥と対峙したというのだ。
 まだ司法修習生でしかない彼。とてもではないが総帥に意見出来る立場ではない。それこそこれは直訴というよりは越訴だ。
 しかし、信にそれを決断させたのは、涼香なのだ。

 ――美春の為に……。

「涼香が……」
 信が大仕事をしてくれたのであろう事実は、もちろん感謝に値する。だが美春は、理由を話さなくとも親友の危険を悟り、それを信に伝えてくれた涼香の決断が嬉しい。
 勘の良い彼女の事だ。これがただ事ではないという事が分かっただろう。
 とても大きな出来事に巻き込まれているのだという事を、悟る事が出来ただろう。
 それが、危険を伴う出来事であるという事も……。
 そこへ、信を向かわせる口添えをしてくれたのだ。
 黙っていれば、信を危険に晒す事は無かったのに。学に対する信の忠誠心を立て、信の行動力を信じて、美春を助けてくれと頼んだのだ。

 活躍したのは、表側で動いた櫻井や須賀だけではない。
 裏側でも、さまざまな思惑が動いたのだ。

 美春は改めて、自分はとても大きな物に守られているのだと痛感した。

『須賀さんと櫻井さんは、そこにいるんだろ? 無事か?』
 かなり痛め付けられたと言ってやりたかったが、美春は学からの連絡を気にしている二人をチラリチラリと見比べ、苦笑いで「無事よ」と答える。
「でも、帰ってきたら、思いっきり労ってあげてね。休養の為に、一週間くらいお休みをあげて欲しいくらいよ」
 少々歯切れの悪いその台詞で、二人がなかなか体力的に厳しい活躍をしたのだと悟った学は、「特別手当で勘弁してくれ」と笑った。

 学と話している美春に笑顔が戻ったのを見て安心した神藤は、彼女から須賀に目を向けた。
 須賀は左手で床を支え、何とか上半身を起こして座っているといった感じだ。神藤は傍らに屈み、須賀の右腕を取る。
「須賀さん、ちょっと失礼」
「はい?」
 すると、ゴキッ……という酷く良い音を立て、神藤は須賀の右肩を押さえて腕を上げさせた。
「うあああっっ! しっ、しんどーさんっ、何するんっすか!!」
 音と叫び声に驚いた美春が、一瞬スマホを耳から離す。
 しかし一番驚いているのは須賀だ。彼は慌てて神藤の手を振り払い、愕然として彼を見詰める。
「あれ?」
 だがすぐに、動かなかった腕が動く事に気付いた。
 肩と手に痛みは多少なりと残ってはいるが、確かに動く。どうやら骨折した訳ではなかったようだ。
 訝しげな須賀に、神藤は自分の肩の付け根をポンポンっと叩き、説明を施した。
「ここがね、外れていただけですよ。戻しておいたので、もう大丈夫です」
「もっ……戻し……っって」
「須賀君は、肩を外した経験など無いでしょう? ですから骨折したと違えるほど痛かったのですよ。慣れると自分で戻す事も出来るようになります」
「慣れたくないですっ」

 神藤と須賀の会話が聞こえたのだろう。学が声を上げて笑っている。
 笑い声を聞きながら、彼も外れた間接を自分で治せる男である事を、美春は思い出した。
 確かに須賀辺りには無縁の世界だろう。

 笑い上戸のツボを一歩手前で止めた学は、少々声をひそめて美春へ訊ねた。
『そこに、神藤さんもいるのか?』
「え? ええ……」
 思えば、椿と共に神藤が現れた事も美春には不思議だった。神藤を従えて現れるべきは、本来紗月姫ではないのだろうか。
 しかしその疑問は、すぐに学が解いてくれたのだ。
『紗月姫ちゃんと神藤さんは、今引き離されているらしい。二人が通じ合った事実が、総司叔父さんに知れたらしくてね』
 驚きに漏れそうだった声を、美春は下唇を噛む事で抑える。
 須賀と楽しそうに話をしている神藤を横目で窺い、この笑顔の裏に隠された彼の心中を思って、胸を詰まらせた。

『美春の件で叔父さんと話をした時に聞いた。正式にお世話役としての任を解かれるまで、二人は近付く事も禁じられているらしい』

 神藤に重ねて紗月姫の気持ちを思い、美春は更に胸が痛い。
 紗月姫は今、どんなにか悲しみに暮れている事だろう。

『でも、安心しろ美春。俺はすぐに帰る。あの二人もお前も、いつまでも悲しませたりしない』
「すぐ……?」
『ああ。すぐだ。明後日には帰る』
「そんなに早く?」
 美春は予想外に驚いた。そんなに早く解決するとは思ってもいなかったのだ。

『正確には、帰ってから最後のひと仕事があるんだ。それでも心配は無い。もう一息だ。叔父さんと話した美春の件も、目の前で突き付けてやる』
「何の話なの? 私の件って……。ほら、……総帥を諦めさせるほどの話なんでしょう……?」
『ん? 簡単な事だぞ』

 総司に美春への迫害をやめさせ、章太郎への命令を解かせたほどの話だ。どんな凄い事かと息を呑んだ美春ではあったが、学の言葉を聞いてすぐに瞳を潤ませた。

 たった一言の強い言葉。

 その感動が消えないうちに、学は愛すべき日常を美春にくれる。

『愛してるよ。美春』

 一度止まった涙が、再び淡く染まった頬を濡らした。

『すぐに帰るから。お前の所に』

 美春は学の声を身体全体に沁み渡らせ、「うん」と返事をする。

 囚われた心と身体が解放され、幸せな笑みが、姫に戻った瞬間だった。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第5章≪囚われの姫君≫
 今回でラストになります。
 最後の最後に、夢を見切ろうと悪足掻きを目論んだ総司。
 見切ろうとした先に、彼が見続けた希望は見出せませんでした。
 後は学が最良の結果を持ち帰れば、見続けた夢は夢と消え、新たな未来を見る事でしょう。

 さて、前の後書きでもお知らせをしていましたが、この夜はここでは終わりません。
 5章の裏で何があったか。そして、活躍した人達のその後もお見せします。
 特に、総司や章太郎の件も、皆さんが知りたいところだと思いますので。(*´艸`*)
 それと、学は総司に何を言ったのでしょうね。美春が泣いてしまったほどの事の様ですが……。それも、第6章で。

 では次回、
 第6章≪嵐の夜≫
 にお付き合い下さい。

 いつもは章替わりで、一週間から十日の長いお休みを頂きますが、今回はこのまま行きますので、是非続けてお楽しみ頂ければと思います。(や、……休みの方が良かったとか言わないでぇ……。(;▽;)←弱気)

 宜しくお願いします!




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直さん、第5章お疲れ様でした&ドキドキハラハラのお話ありがとうございました(*^-^*)


須賀サンもりっくんも信チャン、ナイト諸君も姫の救出お疲れ様でした。

それと章太郎サン!すっかり悪役でしたが(もうやめて~と何度も思いましたが)
サスガ辻川の精鋭ナンバー2(ナンバー1は神藤サンですよねー)
お仕事は完璧です。

総帥の悪足掻きの気持ちも解るんですょ。
でも椿サンを足掛け2年かけて口説き落とした総司サン。想う人と一緒になりたい気持ちも解るんだろうな~
なんて思ってみたり。

そしてそして。椿サンはやはり格好いい♪


あ、冴チャンご懐妊おめでとうございます~(*^-^*)ピントキタヨ

須賀サンもりっくんも愛するお人の元に帰りましょうねー

明日からの6章も楽しみにしてます(@^▽^@)

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Re: f^_^;)(みきちゃんさんへお返事です4/28)

メルアドが記載されていましたので、そちらへお返事をお送りさせて頂きました。
不都合などありましたらお知らせくださいね。

みわさんへお返事です4/28


 みわさん、こんにちは!

 第5章、「もうやめて~」な展開の中、読んで頂き有難うございました!
 第6章も楽しんで頂けているでしょうか?(^^ゞ

 章太郎さんはすっかり悪役でしたが、美春ちゃんが彼をどうするか、見ていてあげて下さいませ。
 本質は穏やかな人ですから……。(´・_・`)

 まぁ、総司さんはね……、ちょっと、椿さんからお仕置きがあるかな? って感じですが。(笑)

 そうそう、冴ちゃん❤
 早くりっくんにも知ってほしいので、急いで帰らせますね。(お医者さんに診てもらってから)

 6章は出来るだけ、安心できる雰囲気で頑張ります。^^

 有難うございました!!

ツキハラコトセさんへお返事です4/28


 コトセさん、こんにちは!

 第5章ラスト、興奮して頂けて嬉しいです!(^^ゞ

 第6章で裏側を書いてみると、やっぱり一番活躍したのは信君かも。
 なんだかんだで総司さんを脅してますし。(笑)
 いやいや。彼の活躍を書くのは楽しいです。

 頑張ったお傍付き二人も、早く家へ帰してあげねば。
 須賀さんも、櫻井さんも、待ってる人がいますしね。^^

 第6章、取り敢えずの問題は、総司さんと章太郎さんの処分ですね。
 さてさて、どうなるか、見ていてあげて下さい。^^

 有難うございました!!

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Re: こんにちは♪(みきちゃんさんへお返事です5/4)

みきちゃん! こんにちは!

 あらら、届いてないですか? ごめんなさい、確認のお手間掛けさせてしまいましたね。
 今、もう一度送信してみましたが、届かなかったら申し訳ないので、こちらにも同文記載しますね。(^^ゞ

*****


みきちゃん さん (……変な呼び方になるので、「みきちゃん」で(^_^;))

 こんにちは。玉紀 直です。

 サイトにコメントを頂き有難うございました!
 メルアド記載があったので、こちらにお返事を書かせて頂きましたが、不都合は有りませんでしたか?

 第5章のラストで、ホッとして頂けて私も安心しました。
 流れが流れでしたので、早くラストを書きたかったのが本音なので。(^^ゞ

 6章も続けて頑張っていきますので、お時間が空いた時にでもお付き合い頂けると嬉しいです。
 
 いつも本当に有難うございます。^^




     玉紀 直

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