「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第6章≪嵐の夜≫・1

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 ――それは、数時間前……。

 菱崎家を飛び出した信は、車に乗り込み、エンジンをかけるより先に学へ連絡を入れようとしていた。
「繋がれよ……。繋がってくれよ……」
 眉を寄せ、厳しい表情で呟く様は、まるで呪文だ。
 学は既にD王国入りしている。時差的に向こうは正午を迎えたところだが、学の計画通りに運んでいれば、午前中には女王への謁見が済んでいるはずだ。

 しかし、もしも、予定通りに運んでいなかったら……。

 謁見に必要な根回しは、学や信悟が抜け目無く行ったが、事情が事情だ、必ずしも根回し通りに旨くいくとは限らない。
 思ったよりも順調に進んでいなかったら、今頃電話に出るどころではないだろう。
 今回は慎重に慎重を重ねなくてはならない事態だ。おのずと心配も大きくなる。

 だが、信の不安はすぐに解消された。呼び出し音が三回鳴らないうちに、いつものバリトンが彼の耳に響いたのだ。
 軽快な、自信に満ちた声で。
『そろそろ、お前から連絡が来ると思ったぞ』
 こんな場合ではあるが、学の声を耳にして信は笑い出してしまいそうな自分を嘲る。
 何の心配をしていたのだろう。
 学の計画が旨く行っていないかもしれないなどと、杞憂にも程がある。
 そんな事は、“右腕”である彼が良く知っているはずではないか。

「葉山……、実はな」
『美春の事だろう?』
 美春が辻川の者に連れて行かれたという恐れていた事態。それを既に知っているかのような口ぶりに、信はしばし言葉を失う。

『少し前から、美春のスマホがおかしな場所に有るようだ。――総帥が動いた事はすぐに察しがついた』

 悠々と当たり前の様に現状を口にするが、信には疑問だらけだ。
「待て、『おかしな場所に有る』って……、何でお前そんな……」
『美春のスマホには、特別機能としてGPSが取り付けてある。だが隠し機能なので本人も知らない。他の者にも分からない。つまり、ペアで特注した俺のスマホでしか感知出来ない。だから俺は、いつでも美春の居場所が分かるって訳だ』

「こっ、このっ、ストーカーがぁぁっ!!」

 怒って良いのか呆れて良いのか、信は訳が分からないまま声を張り上げた。
 昔から学は、美春の行動や周囲を監視していたような男だが、ますますレベルアップし過ぎてはいないか。

『まぁ、俺は一生、美春だけのストーカーだからな』

 罵倒されても、かえって光栄と言わんばかりの自信に満ちた口調。葉山学健在を思い知らされ、信は含み笑いで鼻を鳴らす。
「まぁ、分かってるなら話は早いさ。その場所が、例の統括本部だって事も分かってるんだな?」
『ああ。お前から連絡が来るだろうとは思っていたが、先に、この件に関して最高の助っ人になり得る人に連絡を入れてある。様子を見に行くと言ってくれた。間に合うと良いが……』
「最高の助っ人?」
 信は首を傾げた。学の留守中、美春を任されたのは信の他にお傍付きの二人。その他に、助っ人になり得る人物といえば……。
「まさか、会長か?」
 一ならば、身内である事を差し引いても、総司と渡り合えるだけの発言力がある。
 しかし学は、楽し気に小さな笑い声を漏らした。
「総帥夫人だよ」

 学が協力を要請したのは椿だ。
 彼女は娘の紗月姫を想い、学を信頼してくれている。幼馴染である大介の娘だという事で、美春にも目をかけてくれている。
 総司の暴挙に一石を投じるには、最高の支援者ではないか。

「おい……、それ、もしかしたら、ちょっとした夫婦喧嘩になりそうじゃね?」
 信の心配も、ごもっとも。
 もしかしてどころではなく、間違いなく家庭争議の元だ。
『そうだなぁ、椿叔母さん、家庭内別居とかするかもしれないなぁ。あの人、おっかないからなぁ』
 別の家庭の事だから、という訳ではないが、学の楽しそうな笑い声を聞いて、信は少々呆れた。

 しかし笑ってふざけている場合ではない。学の笑いはすぐに止み、代わりに不敵な声が信を挑発した。
『で? お前はどうしようと思っていたんだ?』
「総帥の所へ、行こうと思ってた」
『分かっているだろうが、お前が一人で対峙出来る相手じゃないぞ』
「ああ。もちろんだ。けど、涼ちゃんに頼まれたんだ。――『私の、親友を助けて』って」
 信は、彼を信じて美春を託した涼香の姿を思い浮かべながら、スーツの襟に手を当て、グッと握り締めた。
 そこに付けられているのは、司法修習生バッチだ。
 どんなに優秀でも、信はまだ弁護士ではない。ましてや総司の様な人物に、美春を監禁している件で法的な罪を説き、解放を求めるなど、無理に等しい。
 しかし彼は、やらなければならないのだ。
 ――それが、涼香の願いなのだから。

 心に決めた人の為に奮起する気持ちが、学には良く分かる。
 危険な事ではあるが、彼は敢えて信の背中を押した。
『総帥にすぐ面会出来るよう、手を回しておく』
「ああ頼む。オレも、知り合いの警部やら検事やらに手を貸してもらうよ。父さんと縁故にしている上松警部の知人が、辻川財閥専属弁護士の一人なんだ。使えるコネは、全部利用してやる。……それにオレには、“葉山学の代理だ”っていう切り札もあるしな」
 強気を口にしているうちに、信はどんどん自信が漲って来るのを感じた。
 それと共に湧き上がってくる高揚感。
 大きな仕事をする前の気持ちの高まりは、信に武者震いを起こさせる。

「葉山、この賭けはお前の勝ちだ。総帥は今回、賭けを実行する際の契約において大きなミスを犯した」
 信は車のキーに指をかける。必要以上に捻られ大音量を上げたエンジンは、まるで信の意気込みを示しているよう。
「オレはそれを、証明しに行く」

 美春の件は、椿の援助があれば旨くいくだろう。
 だがこれだけは、誰にも出来ない、信にだけ課せられた仕事だ。

『頼んだぞ、田島。後から俺も連絡を入れる』

「お前の“右腕”だぞ。信用しろ」

 学の通話が切れる。
 しかし、信頼し合う心は繋いだまま。

 信は、勝負に出た。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第6章≪嵐の夜≫
 スタートです。

 お話は、第5章のラストから少し戻ります。
 信が菱崎家を出た所から、裏でどんな交渉が有ったか。そして、学が総司を撃破したエピソードなど。
 もちろん、その後は5章ラストからの話を繋ぎますね。

 この賭けは総帥の負け。
 信は何故、そんな事を口に出来たのでしょう。
 それは、婚約破棄に関する書類を一手に引き受けて作成した彼だからこそ出来た、からくりが有ったんです。
 
 では、次回!!




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