「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第6章≪嵐の夜≫・7

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 思えば美春は、素肌にシーツを巻き、神藤のスーツを肩から掛けてもらっているだけの姿だ。
 これから別室へ案内されるとしても、この恰好で社員達が居るビルの中を歩くのは恥ずかしい。
「はい、分かりました。すぐに御用意を……。ですが、この部屋では失礼かと存じますので、これから御案内する別室で御着替えになっては?」
「あ……、でも、この恰好で移動は……」
 章太郎の提案に、美春は戸惑いを見せる。見るに見兼ねたのか、神藤が進み出て来た。
「失礼致します。美春様」
「はい?」
 ふわりっ……と、とても心地良く身体が浮き上がる。
 気が付くと、美春は神藤に横抱きで抱えられていた。

「学様に殴られてしまいそうですが、移動の間しばらく御辛抱を」
「はっ……、はい……」
 学ではなく、美春の方が紗月姫に睨まれてしまいそうで胸が痛む。
 しかし抱き慣れているせいなのか、神藤のお姫様抱っこはとても心地が良く、安心して身を委ねていられる。何か有っても無くても、神藤に「抱っこ」と甘える紗月姫の気持ちが分かったような気がした。
(……学より、上手いかも……)

 一瞬そんな事を考えてしまい、その思考の危うさに冷や汗が出る。
(神藤さんに抱っこしてもらったなんてバレたら、やきもち妬くかなぁ……)
 確実に学の嫉妬心を煽りそうな状況だ。「上手で気持ち良かった」などと言おうものなら、間違いなく“お仕置き”が我が身に降りかかって来るだろう事を考え、“もしかしたら学より上手いかもしれないお姫様抱っこ”の件は、心に封印する事にした。

 美春が神藤に抱き上げられ、白いシーツが長く床に垂れる。
 その姿を見上げ、ボーっと見惚れてしまったのは、傍らに座り込む須賀だ。
(うっわぁっ……、何だか、花嫁さん抱っこしてる絵でも見てるみたいだ……)
 光沢ある真白なシーツがドレスに見えたのかもしれないが、美春を抱えているのは神藤だ。確かに絵になる光景だが、想像の内容に問題がある。
(……専務の前では、絶対に言わないようにしよう……)
 言おうものなら、今回以上に恐ろしい事態が我が身に降りかかって来そうな緊張感。須賀はゴクリと乾いた空気を呑んだ。

「須賀様、立てますか?」
 しかし、その緊張感を更に増長させるかのよう、章太郎が須賀の顔を覗き込んだのだ。
「ストレッチャーか車椅子を御用意致しましょうか」
「けっ、けけっ、結構ですよ! オレ、病人じゃないしっ! 肩も戻してもらったし、歩ける、歩けるっ!」
「そうですか? では、一緒に別室へ」
 慌てる須賀の気持ちは、章太郎には良く分かる。彼はクスリと笑ってから、須賀に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」

 今の章太郎からは、須賀に手をかけた時の殺気など微塵も感じられない。
 椿の話を一緒に聞いていた須賀は、やはり彼を責める気にはなれなかった。
 だが、つい数分前に受けた恐怖をすぐには忘れる事が出来ず、複雑な心境にはなってしまうのだ。
 須賀に頭を下げ、今度は櫻井の元へ向かった章太郎を目で追いながら、須賀はゆっくりと立ち上がる。
 痛みが残っているのは肩と腕なので、脱力感を覗けば自力での移動に支障はない。かえってストレッチャーや車椅子が必要なのは、櫻井の方なのではないのだろうか。
 目で追った視界に、手を差し出して何かを問いかけた章太郎に対し、苦笑いを浮かべ首を横に振り、自力で立ち上がる櫻井が映った。
 どうやら彼も、自力での移動を選択したらしい。

「申し訳ありませんでした」
 櫻井が立ち上がり大きく吐息すると、章太郎が頭を下げた。
 動き回るうちに、乱れ緩まってしまったネクタイを締め直し、櫻井は満足げに声を弾ませる。
「久し振りに良い運動をした。辻川の精鋭とやりあえるなんて、一生かかったって縁が無かった事かもしれないからな。“チンピラ上がり”の相手をしてもらえて、感謝してるよ」
 少々皮肉を込めて櫻井が右手を出すと、章太郎は明朗快活な笑みを見せ、その手を握った。
「いいえ。流石は学様の“お傍付き”です。正直貴方に痛みを与えられた時は、本気で殺意が湧きました。上司の神藤以外、闘技で私を押さえ付けられた者はいませんでしたから」
「殺されなくて良かったよ。結婚したばかりなんでね」
「存じております」
 それを知っていて「殺意が湧く」などと笑顔で言われると、かえって薄ら寒い。
「もう二度と、アンタとはやり合いたくないよ」
 櫻井はそう言って軽快に笑い、仕返しとばかりに章太郎の手を力いっぱい握った。


*****


 辻川邸の使用人達、特に紗月姫専属のお付き達は困っていた。
 お付き達が困る事といえば、ほとんどの原因は紗月姫の我儘だ。“辻川の精鋭”と謳われる彼らも、御機嫌斜めの紗月姫お嬢様には手を焼いてしまう。
 だが、今回の我儘は質が違った。
 紗月姫は総司が仕事から帰って来るまでここで待つと言い張り、リビングのソファに座ったまま動かないのだ。
 「お父様をお迎えしたいの。今日は遅くはならないと聞いているわ。お食事も邸で摂るとおっしゃっていたのでしょう? お父様がお帰りになるまで、私も食事は摂りません」
 
 こういっては何だが、これは少々珍しい事なのだ。

 紗月姫が総司の帰りを待ちわび、食事も一緒にしたいと言い張る。
 いつもは神藤が上手く紗月姫を扱ってくれるので、“親に会えなくて寂しい”という態度を取る事も無い。
 だが今日は神藤もいない。おまけに椿も夕方に出かけたまま帰って来ていないのだ。
 それら全てが原因なのかと考えると、無理に食事をするように勧める事も、せめて部屋で寛いでいてくれと頼む事も、お付き達には出来ない。

 しかし……。

 総司を待っている、というのは、実は紗月姫の虚言。
 本当に彼女が待っているのは、総司と共に帰って来るであろう神藤だ。

(おかえりなさい、くらい……、言いに出たって良いわよね……)

 身近で神藤を感じて言葉を交わしたいばかりに、紗月姫はここで、二人が帰って来るのをずっと待っている。

「お嬢様。失礼致します」
 リビングのドアが開き、章太郎が入って来た……。






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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 仲直り、仲直り。(笑)
 よく考えると、神藤と櫻井は30歳で同い年なんですよね。で、章太郎が5つ年上、っと。
 今更ですが、主人公二人の年齢が上がれば、周囲の年齢も上がりますね。(30代キャラ常設)(///∇///)←どうしたっ

 それは良いけど、美春っ。
「学より上手かも」は、マズイっ!
 いやはや、ばれない事を祈りましょうか。……無理かも。(こらこら)

 美春側が落ち着いてきた頃、紗月姫の前に現れた章太郎。
 彼の、“罪滅ぼし”が始まりますよ。

 では、次回!!





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思えば美春は、素肌にシーツを巻き、神藤のスーツを肩から掛けてもらっているだけの姿だ。これから別室へ案内されるとしても、この恰好で社員達が居るビルの中を歩くのは恥ずかしい。「はい、分かりました。すぐに御用意を……。ですが、この部屋では失礼かと存じますので...
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