「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第6章≪嵐の夜≫・10

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「美春さんに、お礼を言わなくちゃ」
 至福を含む、うっとりとした声が、ほのかな街燈だけが薄明りをくれる車内で漂い流れた。
 肩を抱く神藤の力強い腕に、身体が痺れる。
 全身に微弱な電流を流されている錯覚を起こすほどに、紗月姫はこの再会にゾクリとした高揚感を覚えた。

「あなたにこうして触れられて、嬉しいわ……。神藤……」
「私もです……、お嬢様」
 高揚感を得ているのは紗月姫だけではない。神藤とて同じだ。
 彼は両腕を紗月姫の身体に回し、強く彼女を抱き締めた。
「……苦しいわ。神藤……」
「御辛抱を。これでも、手加減しております」
「じゃぁ、……手加減しないで……。もっと、強く……」
 神藤の腕は、より強く紗月姫を掻き抱き、胸の中へ取り込んだ。

 並木道の脇路に、ひっそりと停められた神藤の私用車。
 その後部座席で、二人は抱き合ったまま離れられない。
 何度も唇付けを交わし見詰め合い、それに時間を費やし、神藤がこの場所で待っていた理由や紗月姫が連れて来られた理由など、最初に話さねばならない話をしたのは、再会して三十分以上経ってからだ。

 総司と学の間で何かが話し合われ、その流れで美春が辻川の刃にかかったのだという最低限の情報を、神藤は紗月姫に伝えた。
 彼も詳しい事は分からないし、知らされてはいない。だが学が婚約者候補になっているという事実から、総司が何らかの交渉を美春に持ちかけたのだという事は、紗月姫にも想像出来た様だ。
 総司が昔から、学を欲しがっていた事は知っている。今回の婚約者候補に名を連ねている事にも、何か大きな理由があるのだろう。

 学を信じよう。
 そう決めた気持ちを、紗月姫は再確認した。
 そして、今回の件に対して美春が特に憔悴している訳ではなく、学を信じて行動をしているようだと聞き、大きく安堵したのだ。

「ねぇ、神藤、ちょっと訊くけど……」
「何ですか?」
「美春さんに会ったのよね?」
「はい。先ほど」
「何かあった?」
「はい?」
 紗月姫が何故そんな質問をするのかが分からず、思わず腕の力も緩む。紗月姫はといえば、彼のネクタイとスーツの襟を掴み、交互に鼻を近付けていた。
「――美春さんの匂いがするのよ。……柔らかくて優しい、とても良い香り……」

 少々拗ねた口調に、神藤はハッとする。そういえば彼はシーツ一枚の美春を抱き上げ、別室まで移動するという仕事をしてきたのだ。
 地下から客室が有る十階まではエレベーターで移動した。特別に良い意味での客人が使用する階なので、社員などとすれ違う事も無く、美春が言っていたように「見られると恥ずかしい」という事態にもならなかったのだが、それでも部屋へ着くまで、彼女は神藤の腕の中に居たのだ。
 おのずと“美春の匂い”が、スーツに移ってしまったのだろう。

「訳有って、美春様を抱いて移動させて頂きました。学様に知られたら、腕の骨を折られそうです」
 神藤は特に気にもせずクスリと笑うが、紗月姫は何かを気にしたらしい。薄明りの中で、白い頬をピンク色に染め、上目遣いで神藤を見た。
「……どうだった? 気持ち好かった?」
「……は? どういった意味合いでですか?」
「学さんがよく、『俺と美春は体格的にも相性が良いから、抱き締めただけでも気持ちイイ』って感じの事を言うのよ。神藤って、ほら、学さんと身長も体格も似ているから、……美春さんの抱き心地、良かったのではないのかしら、って……」
 紗月姫にしては珍しいくらい歯切れの悪い台詞だ。本当はストレートに「私と美春さん、どっちが抱き心地良い?」と訊きたいところだが、何故か恥ずかしさが先に立って訊けない。

 女性として彼を意識する感情が、悔しいくらいに一途な恥じらいを彼女に与えてしまう。

 紗月姫の顎を掬い、視線を固定させて、神藤は紗月姫を見詰める。
「私が、抱いて一番気持ちが良いと感じる方は、ここにいらっしゃいますが?」
 紗月姫の胸がドキリと跳ね上がる。「抱く」という言葉の意味が、ふたつ思い付くからだ。
 
 話の流れから、今の「抱く」は、“抱き締める・抱き上げる”の方ではあるが、紗月姫は違う意味合いを想像してしまった。

「抱いて良いですか? お嬢様」
 男性の艶やかさを感じさせる瞳で見詰められ、紗月姫は身体の芯が潤むのを感じた。神藤はそんな意味で言っているのではないのにと思うと、自分の考えがふしだらな物に感じられ、更に恥じらいは増す。
「良いけれど……。じゃぁ、車の外に出なくては……」
「ここで良いですよ。夜の木陰はレベルが高い。章太郎辺りは得意そうですが……」
「え? なにが……」
 どうも話が噛み合わない。不思議そうに眉を寄せた紗月姫は、顎を固定されたまま唇付けられ、そのままシートに倒された。

「しっ……、神藤?」
「はい?」
「あのね……、何……」
「お嬢様が、『抱いても良い』とおっしゃいましたので」
 紗月姫の左耳を悪戯する唇が、嬉し気に囁く。神藤の手はワンピースの上から彼女の腰を弄り、お尻の下から腕を入れ、紗月姫の両脚をシートに上げさせた。

「神藤……、こっ、ここで……?」
 解釈の違いを上手く利用された気はするが、特別腹も立たない。かえって紗月姫は、おかしな期待感で身体が熱くなっていくのを感じた。
「ここ、車の中……」
 戸惑うのは言葉だけ。紗月姫の手は、唇付けを求めて来た彼の髪に絡まり、しっとりと撫でる。

 ワンピースの後ろファスナーにかかった神藤の手を助ける為に、上半身をわずかに浮かせ、唇付けを交わしながら紗月姫は彼のネクタイを緩めた。
「車の中など、初めての試みですので、少々配慮に欠けてしまうかもしれません。……御容赦頂けますか?」
「車の中でこんな事するのが慣れてる素振りなんか見せたら、このままネクタイで首を絞め上げるわ」
 ネクタイを持ったまま拗ねた声を出す紗月姫だが、その声はすぐに恥じらいを帯びた可愛らしいものに変わる。神藤がワンピースを胸の下までさげ、キャミソールの上から胸の膨らみをやんわりと大きく握ったのだ。

「あっ……ン……」
 その可愛らしさに、自然と神藤の表情も和む。
 和むのは表情だけではない。何より今、彼の天使が腕の中に居るのだ。
 その事実が、限りなく神藤に幸福感を与えた。

「お嬢様は、私の天使です……」

 例えそれが、今この瞬間だけの幸福だとしても……。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 車の中でひとときの逢瀬。
 短い時間でも、今の二人には貴重です。
 学がよく「美春から他の男の臭いがするのは耐えられない」と言ってやきもちを妬きますが、さすが親族。紗月姫も同じみたいです。(笑)

 しばし天使と戯れてもらいましょう。
 その間に、もう一人、大切な人の元に戻ったのは……。

 では、次回!!





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「美春さんに、お礼を言わなくちゃ」 至福を含む、うっとりとした声が、ほのかな街燈だけが薄明りをくれる車内で漂い流れた。 肩を抱く神藤の力強い腕に、身体が痺れる。 全身に微弱な電流を流されている錯覚を起こすほどに、紗月姫はこの再会にゾクリとした高揚感を覚...
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