「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・7『誰ですか?』

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「こっちなんてどう? こっちのほうがヒラヒラして可愛いかしらね」
 何着も目の前に出される、カラフルで可愛らしいお洋服達。
 それは、ブラウスであったり、カットソーであったり、スカートであったり。
「さくらちゃんは何色でも似合いそうよね。迷うわぁ。さくらちゃんは何色が好き?」
 沢山のお洋服を、店の中央に置かれたディスプレイ用のガラスケースの上に並べ、ショップの女性店員さんはとても素敵な笑顔を見せてくれる。
「あ、私は、あまり派手な色じゃなかったら……」
 チラリと横に立つ一さんを目で仰ぐと、彼は並べられた物の中から淡いピンクのスカートを手に取った。
「さくらは色が白くて可愛らしいから、ピンク色が似合うぞ」
「まぁっ、葉山君っ、御馳走様っ」
 店員さんは一さんを冷やかし、クスクスと笑う。私はちょっと恥ずかしくなって下を向いてしまった。

 日曜日、ドライブに連れて出てくれた一さんは、途中一件のショップに立ち寄った。
 真新しいお店は、どうやらオープンして間もない雰囲気。中には、若い女性向きの可愛らしく綺麗なお洋服が沢山並んでいる。
「大学の同期が先月オープンさせた店でな。若い子向けだというから、さくらに合う物が有れば買ってやる」
 同期、というなら二十五歳。それでお店を持つなんて凄い。
 きっと、一さんと同じくらい仕事が出来る男性なのだろう。
 そう思った私の期待は裏切られ、店内に入った一さんを見付け、嬉しそうに近付いてきたのはとても綺麗な女性だった。
「葉山君っ、来てくれたんだ? うわぁ、一番期待薄だったのに。招待状は出しておくものねぇ」
 ブラウスにタイトスカートというシンプルなスタイルでありながら、ボディラインは女性らしくて華が有る。アップにした髪は綺麗なミルクティー色。ナチュラルメイクの中に唇のグロスが際立って、とても良い感じ。
 高めのヒールで店内をテキパキと歩く姿は、カッコ良くて素敵だと思った。

「葉山君に選ばせたら、全部ピンクにしそうね。意外と単細胞なところは変わって無いんだ?」
「それは申し訳ないな」
 会社関係の人などは絶対に口に出来ない様な台詞をサラリと言ってのけ、また一さんも笑って返す。これは、大学で一緒だった者の余裕なのかしら。
 でも、ここまで言えるって事は、きっと仲の良い人だったんだろうな。

「面倒だ。どうせ何を着せても似合うのだから、お前のセンスに任せた。出して来た洋服、全部貰おう」
「きゃーっ、流石、持つべき者はお金持ちの同期っ。有難うございまーすっ」
「ちょっ、ちょっとっ、一さんっ」
 大人二人が盛り上がっている所に入り込もうとしても無理な事だった。
 店員さんはガラスケースの上に置いていた数十枚の様々なお洋服を腕いっぱいに掛け、ついでに「これも似合うと思う」とひと言告げて、ガラスケースの中段にディスプレイされていたチェックのワンピースまで腕に掛け、にっこり笑って一さんが差し出したカードを両手で受け取った。
「お預かり致します。葉山様っ」
 店員さんは両腕いっぱいにお洋服を抱えてレジへと向かう。途中でくるりと振り向いて、私を呼んだ。
「さくらちゃん、ちょっと来てみて。さくらちゃんに似合いそうな靴が有るの。合わせてみない?」
 靴ですか……?
 何となく何足か出されたら、一さんの事だから「全部包め」とか言い出しそうですが……。

 戸惑いつつ一さんを見上げると、彼は口元で微笑んだ。
「行っておいで。気に入ったら全部包んで貰っても良い。大学時代から夢だった店を出したんだ。売り上げに協力してやってくれ」

 何となく、一さんが私をこの店に連れて来た本当の理由が分かったような気がして、ちょっと心がほわりとする。
 大学で一番仲が良かったのは、幼馴染の大介さんだとは思うけれど、友達というか、仲の良かった人は沢山いて、彼女はそのうちの一人なのだろう。
 大学時代の夢。
 一さんは、それを間接的に応援する為に、私をここへ連れて来たんだ。

 一さんって……、何て優しいんだろうっ!

 心が感動に奮えたついでに思わず一さんに見惚れてしまった私は、再び店員さんに呼ばれ、我に返ってレジへと向かった。
「ここに座ってね。まずサイズを確認しますからね」
 木製の椅子に座らされ、目の前に屈んだ店員さんが、サイズを確認する為に私の靴を脱がせる。
 すると、カウンターの奥からもう一人、同じ年頃の女性が出て来た。
「この子? 噂の“可愛い葉山君の婚約者”って。ホントに可愛いわね」
「でしょう? 話には聞いていたけど、びっくりよ」
「可愛いし若いし。葉山君の“鉄仮面”が崩壊したって噂の理由も分かるわ」

 好意的な目を向けられ、私はどうも恥ずかしい。
 学生時代はポーカーフェイスが常識で、“鉄仮面”の仇名を貰っていたという一さん。その名を知っているという事は、もう一人の女性も同じ大学の人なのかもしれない。

 褒められて嬉しいのだけれど、私の鼓動はある一言にドキリと異常なまでに反応した。

 ――若いし。
 この言葉は、私が“子供だ”っていう意味なんだよね……?
 言い回しは優しい。
 けれど……。

 一さんみたいな大人の男性が、私の様な子供を連れて歩いている事に、きっと驚いている。

 少々気持ちが沈みかけたけれど、何とか笑顔を保つ。
 特に言葉の意味を勘繰ってしまった事を気付かれてしまう事は無かったけれど、私がニコニコしていたせいか、二人の気持ちに隙が出来る。そんな油断から出た失言が、私の心に影を落とした。

「てっきり、祥子さんかと思ったんだけどな。葉山君の婚約者に収まるのって」
「葉山君の行動力について行ける奇特な人なんて、あの人だけだったしね」

 ――――祥子さん、って……、誰ですか……?







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