「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第6章≪嵐の夜≫15

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 ――さくらはご機嫌だった。

「椿さんは居るし、美春さんも居るし、エリちゃんも居るし、なんて良い日なのかしら今夜は」
 葉山家のリビングは、豪華絢爛な女性達で花盛りだ。
 さくらはもちろんの事、“里帰り”の椿。そして、美春とエリまで来ている。
 光野家へ挨拶をする為に車を降りた椿が、エリと話が盛り上がってしまい、そのままエリと美春をさらって、葉山家へ連れて来てしまったのだ。使用前、使用後、の様に良く似た母娘が並んでソファに座っている様子は、先程から椿に笑顔をもたらしていた。
「本当に、美春さんはエリさんのお若い頃にそっくりね」
 椅子から身を乗り出し、小首を傾げて美春の顔をしげしげと眺める。椿に見詰められると、年上になった紗月姫に見詰められているような錯覚に陥り、美春は妙な気分だ。
「大介さんも、可愛くて可愛くてしょうがないんでしょうね。これだけエリさんに似ていれば」
 するとエリが、横から美春の耳をグイッと引っ張り上げた。
「そーなのよ。いっつも『美春』『美春』って。私より先に『美春っ』だもんっ。たまに妬けるわ」
「おっ、おかーさんっ、痛いっ。そんな事無いよぉ、最近は私、お父さんに放置されてるしっ」
 二人の会話を聞いて、椿は驚いたようだ。
「そうなの? 昔はあれだけ『エリちゃん、エリちゃん』って、ムカッとしちゃうほど連呼していたのに?」
「そうなのよ。冷たいでしょう? 椿さんは、そんな事は無いのかしら? 紗月姫ちゃんも椿さんにそっくりだもんね?」
「あるわよ。何だかんだ言っても、紗月姫が可愛くてしょうがないのですもの。可愛いなら可愛いで、抱き締めて猫可愛がりしてあげれば良いのに、気位ばっかり高くて恰好つけちゃってね、そのうえ、ひとつの事にしつこいし……」

 素直になれない、不器用な一途さ。
 総司は若い頃とちっとも変らない。
 椿の気を引こうと、必死になっていた、あの頃と……。

「総帥は、紗月姫ちゃんが可愛すぎるから、周囲の事が見えなくなるんですね」

 美春は感じたままを口にして、ニコリと微笑んだ。
「好きで好きで堪らないのに、どうやって愛してあげるのが一番か迷っているんだわ。だから力で押さえ付けて、自分が決めてあげた道を歩ませるのが一番の幸せだと思ってしまう。それを強要してしまえば、娘が悲しむって分かってはいても、それが最善だって信じているから、なかなか自分の考えを曲げる事が出来ないんでしょうね」

 性格は全く違うが、大介だって同じだった。
 あれだけ美春を溺愛している彼だって、学への不信感から美春が不幸になる道を歩むかもしれないという不安が元で、二人を引き裂こうとした事がある。その結果、美春がどれだけ悲しむか分かっていながら。
 涼香の父、修一郎も、涼香の次期家元としての最善を考え、必ず成功する未来を授けようとしてなかなか信を認めようとはしなかった。三姉妹の中で、一番の期待と寵愛を注いだ長女が苦しむと分かっていても。
 総司だって同じだ。
 彼は、決して心から紗月姫を苦しめたい訳ではない。
 美春は、そう信じたかった。

 美春が心のまま言葉を出してしまった後、その場が静まった。
 この中で一番人生経験の浅い自分が、こんな事を言ってしまうのはちょっと生意気だっただろうか。そう感じた美春が背筋を伸ばすと、いつの間にかソファの背後に回っていたさくらにギュッと抱き締められた。 
「んもぅっ、美春ちゃんは本当に可愛いわぁ。優しいしっ。こんな娘がいて、私幸せっ」
「ちょっとぉ、さくらちゃんっ、これは私の娘っ」
 負けじと横からエリに抱き締められ、美春は嬉しいが少々妙な気分だ。

 考えてみれば、この母親三人が集まっているのに、こんなにも和やかなのはおかしくは無いだろうか……。
 例えば、さくらは、婚約破棄を持ち出した学の母親で、エリは、婚約破棄をされた美春の母親で、椿は、学を婚約者候補として横取りしてしまった紗月姫の母親だ。
 これだけの条件が揃えば、普通は険悪な雰囲気になるのではないだろうか。

「美春さんは癒し系ね。紗月姫が懐く気持ちも分かるわ」
 この場に紗月姫も連れて来てあげたかったと思う椿だが、今頃彼女は最愛の人と会っているはずだ。昨日今日と沈んだ表情しか見せてはくれていなかったが、明日は少しくらいの笑顔を見せてくれるだろうか。
 紗月姫の笑顔が見られるかと思うと、明日の朝一番で迎えに行ってしまおうかとも、椿は考えてしまうのだ。

 実家に帰ると総司に連絡を入れ、二時間以上が経った。
 もしかしたらすぐにでも連れ戻しに来るのではないかと思われた総司は、一向に現れる気配が無い。
 これは椿に構うより、紗月姫を連れて行かれないよう監視に回る方を優先させたのかもしれない。
 そう考えると、我儘な事に椿の心が少し屈折する。
(こうなったら、意地でも帰ってあげませんからね!)

「椿はいるか!?」
 その時、リビングのドアがけたたましく開き、一が飛び込んで来た。椿からの連絡でさくらは先に帰宅したのだが、一は会社に残っていたのだ。
 だが誰もが気になったのは、リビングに飛び込んで来た一の様子が、あまりにも彼らしくないという事……。
 イラついているというか、慌てているというか、困っているというか、どこか困惑した雰囲気だ。
 さくらならばこんな状態の彼も見た事が有るのかもしれないが、馴染みの無い美春は唖然とその姿を眺めてしまった。
「あら、お兄様、お帰りなさい。お仕事お疲れ様です」
 笑顔で兄を労った椿だが、そんな妹を、一は叱咤した。
「椿! 今すぐ総司君の所へ帰りなさいっ」

 一には事情を話してはいないはずなのに、“実家へ帰ります”事件を知っている事実に、椿は刹那言葉を失うが、すぐにその理由を悟った。

 総司が一に、「椿が家出をした」と言い付けたのだろうと。

(御自分で連れ戻しにいらっしゃれば良いものを、……お兄様に告げ口するなんて!)

「嫌です! 帰りません! お兄様を頼るなんて、何て姑息な事をするのかしら!」
 椿はプイッと顔を横に向ける。
「数日くらい良いではありませんか! それとも、私が居ては御迷惑ですか!?」
「お前が葉山家に居るのは大歓迎だが、総司君が会社に居座るのは大迷惑だ!」
「……は?」

 椿は訳が分からないという表情で一を見上げる。取り敢えず落ち着こうとする一は、一度大きく息を吐いた。
「総司君が、二時間ほど前から本社の社長室に居る」
「お兄様の所へ? どうして……」
「『実家に帰らせてしまうなどと、みっともない振る舞いを許して欲しい。椿を返して下さい』と、土下座をして動かん!」
「ど……土下座……」
 この話には誰もが驚いた。天下の辻川財閥総帥が、土下座をしているというのだ。
 美春などは聞いた瞬間血の気が引いた。総司の様な人間に土下座などされては、流石の一とて、慌てるだろうし困るだろう。

 しかし一からは、美春の思惑とは全く違う言葉が飛び出した。

「あの下手くそな土下座を見ていると寒気がする! あんなものはもう二度と見たくないと二十六年前に思ったのに、何て事をしてくれたんだお前は!」
「そっ……そんな、……総司さんの土下座が下手なのは私のせいではありませんわ!」
「とにかく、返してくれるまでは動かないと、社長室の床にずっと座り込んでいる。今も居る。下手をしたら本当に明日の朝まで居るぞ。目障りだ! 辻川家へ帰れ、椿!」
「おっ、お兄様っ! そこまでいわなくてもっ! ……良いですわ、私、絶対に帰りませんから!」
「椿!」
「嫌です!!」

 最強の兄妹喧嘩を目の当たりにして、美春はもちろん、エリも言葉が出ない。
 総司が土下座をしに来たと聞いて、二十六年前の土下座を知っているさくらはクスクスと一人笑いだ。

 直接迎えに行ったって、椿はきっと帰るとは言わないだろう。
 それならば、彼女に対して絶大な発言力を持つ兄に頼ろう。
 ――総司は、そう考えた。

「ここにも、ひと嵐来てるわね……」
 学が戻ったら、この話をしてやろう。
 そんな事を考え、美春は控えめに笑みを零す。


 果たして椿は辻川家へ帰るのか。
 総司の土下座に、一が苦しめられてしまうのか。
 総司の思惑は、果たして成功するのか。

 当人達にとっては、重大な問題を残したまま……。

 嵐の夜が、過ぎていく……――。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 第6章≪嵐の夜≫
 今回でラストになります。

 ……ここで終わりかいっ!!??(笑)

 さて、この夫婦喧嘩、どうなるのでしょうね。(こらこら)

 総司や学の間では賭けの顛末が見えていますが、美春はまだ知らないままです。
 学が紗月姫の婚約者候補に“なれなかった”と言った理由や、婚約破棄の真実。
 そして、神藤の運命を変える決定的な人物を連れて、全てを解決する為に学が帰ってきます。

 では次回、
 第7章≪北欧の王子≫
 に、お付き合い下さい。

 宜しくお願いいします!

*次回更新は、5月19日(土曜)からになります。





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~ Comment ~

直さん、こんにちは(*・ω・)ノ
第6章、お疲れ様&ありがとうございました(*^-^*)


いやー
椿サン、ステキ( ´艸`)椿姫の時から大好きなんですが、かわいい部分と凛とした部分があってかっこいいんですよね♪
総司サンの弱点はやはり椿サンという(みんな愛しの人が弱点か(笑))無事に仲直りできた事を祈ります。ヘタクソな土下座観てみたわぁ~

信クンもかっこよかったですね(*^-^*)メガネはかけていたのかしら←気になった(笑)
婚約破棄のからくりが早く知りたいです。


須賀サンと櫻井サンにはいちゃこらしてもらって(笑)次はヒーローの帰還。楽しみにしてます♪

みわさんへお返事です5/16


 みわさん、こんにちは!

 こちらこそ、ずっと緊張しっぱなしの第5章第6章でしたが、やっと一息ついてもらえたようでホッとしています。^^

 いやぁ、もぅ。椿さんを目立っていて誰が嬉しいって、私がむちゃくちゃ嬉しかった!(爆)
 辻川家絡みのお話にでもならない限り、彼女が前に出て来る機会はありませんから。今回は思いっきり前に出してみました。^^
 もしかして、総司さんより力が入っていたかもしれません。(笑)

 婚約破棄のからくりも、もう少し待っていて下さいね。^^
 第7章くらいで明かせるかな?

 その第7章、本日から始まりました。
 またお付き合い頂けると嬉しいです。^^

 有難うございました!!

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