「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・2

 ←第7章≪北欧の王子≫・1 →第7章≪北欧の王子≫・3


「お姉ちゃん、……大丈夫?」
 頭上で聞こえたのが一真の声だという事は分かったが、美春は顔を上げる元気も無かった。
 光野家のリビングに置かれている少々大き目のソファにうつ伏せで寝転がり、長い手足を思い切り伸ばす姿は、真夏のリゾートならばサマになったのかもしれないが、お風呂上がりを思わせるタオルポンチョとホットパンツでは「そんな格好でウロウロして、みっともない」と注意を受けるのが関の山だ。
「でも珍しいね。お姉ちゃんが、そんなに疲労困憊して仕事から帰って来るなんて」

 疲労困憊している時は、大抵葉山家で学にまったりと甘やかしてもらっているので、一真はあまり美春がのびた姿を見た事が無い。
 珍しさのあまり、彼は真夏の縁側でだらりと伸びた猫のように脱力する姉の全身を、くまなく眺めた。
 白くスラリと伸びた脚線美は、我が姉ながら撫で回してしまいたい衝動に駆られる。しかし、いくら超が付くシスコンでも、残念ながら彼の中で姉は欲情の対象にはなっていない。
 これが学なら、間違いなく撫で回すどころか舐め回しているだろう両脚を、一真はひょいっと膝から曲げて、空いたスペースにちゃっかりと座った。
 これだけなら、疲れた姉から安らぎのスペースを取り上げるとは何たる事かと、文句のひとつも言えようものだが、そこは流石に“気遣いの一真”だ。彼は膝から上がった美春の脚を、今度は自分の膝に乗せ、ほわりと笑う。

「こうやって脚を少し上げておいた方が、疲れが取れるんだよ。足の裏、揉んであげようか?」
「かずまぁぁぁっ、あんた、イイ子ねぇぇぇっ」

 いつもは疲れた身体を癒してくれる学が居ない分、一真の気遣いは、弟としてのポイントと美春のブラコン熱を上げる。
 美春に喜んでもらえると一真も嬉しい。彼は嬉々として足裏マッサージを始めた。
「お姉ちゃん、明日は? 仕事行くの?」
「んー、今日終わらなかった分もあるし。……行くと思ぅ……っ、痛い痛いっ、……んんっ……ンッ、でもぉ、きもちいぃ……」
「気持ちイイのは嬉しいけど、変な声出さないでよ?」
「出さないわよっ」

 深く息を吐き、美春はゆったりとソファに頭を預ける。
 今日は本当に忙しかった。週末というせいもあっただろうが、櫻井と柵矢室長が丸一日補助に入ってくれていなければ、残業一時間以内では済まなかっただろう。
(学はぁ、仕事持ち過ぎなんだよ……)
 口には出さない、ちょっとした愚痴。
 だが、それをこなしてしまうのが学という男なのだ。
 学が忙しければ美春も忙しい。秘書としての仕事も休まる暇が無いから愚痴を言っているのでは無く、タフだからと頑張り過ぎて、そのうち身体を壊してしまうのではないか。それが心配なのだ。
 彼がどんなに人並み外れた体力の持ち主か、それは美春が一番良く知っている。だが、限度はあるのだ。入社した当初は、どんどんと先へ進んで行く学を止められず、秘書としてボスの体調管理に気を配ってあげる事も出来ないまま、気が付けば随分と無理をさせてしまっていた時期もある。
 抑えさせるべき所は抑え、意見し、スケジュールも上手く回せるようになった自分の仕事に、段々と満足出来るようになってはいたが、学が数日いないだけでこんなにも追い詰められる。
(まだまだなんだなぁ……)
 自分の未熟な部分を思い知らされ、学の存在がまた大きくなるのだ。

(学は、やっぱり凄いなぁ)
 そんな凄い男性が、彼女の最愛の人なのだ。
 美春はうっとりと、優越感に酔う。
 心も良い気持ちだが、一真のマッサージが効いてきて身体も気持ちが良い。
 陶酔感が全身を包み、美春はそのまま蕩けてしまいそう……。

「お姉ちゃん? 寝ないでよ?」
「ん~、眠い~」
「じゃぁ、部屋に行ってよ。ここで寝られても、僕一人じゃお姉ちゃんを抱えて部屋まで運んであげるなんて出来ないからね。お父さんとお母さんは居ないしさ」
 大介とエリは、大介の元部下の結婚式に出席する為に夕刻から出掛けている。遠方である為、帰って来るのは日曜日だ。
「んもぉ、いいじゃないの。ちっちゃい頃は、いっつも私があんたを抱っこしてあげたんだから。今はあんたの方が体格も良いんだし、抱っこしてよ一真くぅんっ」
「ヤダよっ。僕が抱っこするのは晶香ちゃんだけっ。大体、お姉ちゃんなんか抱っこしたら、学兄さんに睨まれるよ」
 美春はふと、昨日、神藤に抱きかかえられた事を思い出す。
 昨日は絶対に学には言わないと心に誓ったが、知ったら学はどうするだろう。いや、彼は自信家だ。おまけにプライドも高い。抱きかかえられたくらいで嫉妬心丸出しにはしないだろう。
 ――ただ、……神藤のお姫様抱っこの方が気持ち良かった……などと口を滑らせてしまえば話は別だ。

「ほら、もうベッドに入って。そのまま寝ちゃいなよ」
「あんっ……、もぅ、かずまぁ……」
「そんな色っぽい声出さないのっ。ほら、寝て寝て!」
 良い気分になっていたところを無理矢理起こされ、更にリビングから追い出されてしまった。これで部屋まで着いて来てくれれば最高だったのだが、彼にその気は無いらしい。
 頼り無い足取りで階段へ向かうと、リビングから話し声が聞こえて来た。
 美春と話すのとはまた違う種類の優しい声が耳に入り、相手が晶香である事を悟る。
「ラブコールの時間って訳だ……」
 幸せそうな一真の声を、どこかくすぐったい思いで聞きながら、美春は部屋へ戻った。


*****


「学の声、聞きたいなぁ……」
 眠りに落ちる前、そんな事を口走っていた記憶がある。
 移動で大変なのだろうから、次に彼の声が聞けるのは戻って来てからだ。

 久々の大騒動に対する緊張感と、その後の安心感。そして、濃い仕事の疲れなどが重なり、美春の眠りは安定しない。
 深く浅く、安定しない眠りが繰り返される様は、波にたゆたい翻弄される小舟……。

 ――学に会いたい……。声が聞きたい。

 そんな本能的な願望は、彼女を夢現へ引き込む。

 ベッドの中で、薄らと開いた瞳。そこに映るのは、ベール一枚に包まれる夢の世界。

 ベランダから見える外界は、まだ月夜の世界。
 レースカーテンが微かな風になびき、窓が半開きになっていた。
 その窓の前に、月光をバックにした何者かが立っている。

「――――まなぶ……?」

 逆光の中で、確かに見覚えのある、美春だけの頬笑みが揺らめき立つ。

『だたいま……。美春……』

 夢でも良い……。
 美春は、彼に手を伸ばした……――。







人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 毎度恒例、光野さん家の相思相愛姉弟。(この言い方もどうかと)
 ブラコン・シスコン卒業させなくちゃならないんですけどね。何というか、仲の良い二人が可愛くて……。(^_^;)
 でも、お互い、一番好きな人はいますから、依存属性ではないし、このままでも良いかな、とも思ったりしてます。^^

 大学三年生の辺りから、片方にどんな用事があろうと片時も離れなくなった二人ですから、数日だけでも久々に離れるのは寂しいですね。
 そりゃぁ、美春も夢のひとつも見てしまうというもの。

 夢?
 本当にそうでしょうか?

 では、次回!!




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第7章≪北欧の王子≫・1】へ  【第7章≪北欧の王子≫・3】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめtyaiました【第7章≪北欧の王子≫・2】

「お姉ちゃん、……大丈夫?」 頭上で聞こえたのが一真の声だという事は分かったが、美春は顔を上げる元気も無かった。 光野家のリビングに置かれている少々大き目のソファにうつ伏せで寝転がり、長い手足を思い切り伸ばす姿は、真夏のリゾートならばサマになったのかも...
  • 【第7章≪北欧の王子≫・1】へ
  • 【第7章≪北欧の王子≫・3】へ