「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・3

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「何をなさっていますの? 勝手に人の部屋に、それも女性の部屋に足を踏み入れるなんて。どこまで独善的な方なのかしら」
 これがもし、まだ結婚もしていない頃の彼女に言われたのなら、断りも無く部屋に入ってしまった非礼を詫びる気にもなるのだが……。
「……椿の部屋は、ここではない筈だ。君の部屋がここだというなら、私の部屋もここである筈だね」
 結婚して四半世紀。同じ邸どころか私室も寝室もベッドまで同じにしてきた妻に言われては、詫びる気も起きない。

 とはいえ、総司は別の件で椿に詫びねばならない立場だ。

 夫婦喧嘩の途中に入り込んだ、強烈な兄妹喧嘩の結末は「総司君が社長室で土下座を続けるのなら、私は会社へは行かない」 という、一の強硬手段によって解決をみた。
 一が会社へ行かなければ仕事にならない。学さえも留守にしているこの状況で、流石にそれはさくらでも勘弁して欲しいところだ。
 辻川に嫁いだとはいえ、椿は葉山製薬に、そして葉山の実家に格別な愛情がある。そのどれもが今の一なしでは動かせない事も、重々承知の上だ。
 悔しさを噛み締めながらも、椿は呼び寄せられた総司と共に辻川家へと戻った。
 ――のだが……。
 
 もちろんそれで済む訳も無く、今度は差し詰め家庭内別居の如く、椿は別室へ移ってしまったのだ。

 夕食が終ってから、椿は紗月姫の部屋で話をしていると聞き、留守であるのを分かっていて総司は別室の中で待っていた。
 “勝手に人の部屋に”と言われても無理の無い状況ではある。

「紗月姫は、落ち着いたのか?」
 豪奢な安楽椅子に腰かけたまま総司が訊ねると、かりそめの住まいとはいえ部屋の主である椿は、立ったまま涼しげな視線を彼に向けた。
「人に訊かないで、御自分でお確かめになれば宜しいのです。……可哀想に、紗月姫は相変わらず食事も摂れず、心を痛め、医師に薬を処方して頂く事でやっと眠れたのですよ」
 最初総司を責めていた口調は、紗月姫の様子を思い出す事で心憂いものに変わる。
 椿は小さく吐息し、頭をゆっくりと横に振った。

「当然でしょう……。久我山氏が爆発事故で……。それじゃなくとも、今週はずっとおかしな事が続いていて、婚約者候補が三人ともですよ……。どんなにか空恐ろしい心持ちでいる事か」

 久我山が爆発物の事故で亡くなった事は、夕刻前、すぐに総司や紗月姫の知るところとなった。
 本人の身体ごと、部屋の半分が吹き飛ぶ大きな爆発だったらしいが、爆発物の残骸から、犯人の目星はすぐに付きそうな雰囲気ではあるようだ。

 九条、袴田と続き、最後に久我山。
 紗月姫の婚約者候補は、この一週間で次々と命を落としたのだ。

「別に紗月姫のせいではないけれど、感受性が人の何倍も強いあの子が、傷付かない筈が無いでしょう。それなのにあなたは、様子を直接見に行く事もしないで、わざわざ私に御訊ねになるなんて……」
「紗月姫は、私への不信感で心が満ちている。そんな時に私の慰めなど、かえってあの子の神経を逆撫でするだけだろう」
 総司を責めていた椿は、娘への非情な仕打ちを苦笑いで認める彼を一瞥する。

「その不信感を……、解こうとする気はおありですの?」
「椿が私を許してくれるのなら、尽力するよ」
「当てになりませんわ。私の大切な人達を傷付けたら許さないと予め申しておりましたのに、あなたはそれを黙殺なさったではありませんか」
 総司はひとつ息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
「三人の婚約者候補を失った今、残るのは四人目と五人目。四人目については、既に学君との間で決着が着いてしまった状態だが……。――五人目が残っている」
 椿は瞠目して口をつぐむ。ゆっくりと近付いて来る総司を視線で追いながら、彼の言葉を待った。

「この私が、長い間恋い焦がれた四人目の洞察力と行動力に、間違いなどあろうはずがない。もしも、いささか納得のいかない結果を持って来られても、……。紗月姫の、……私の娘の為に、五人目を認めよう」


*****


『美春……』
 優しく深いバリトンが身体に沁みる。
 疲れも寂しさも、すべて吹き飛ばしてくれそうな声。
「学……?」
 ベッドの中から美春が伸ばした手を、学が握る。そのままベッドの傍らに膝をつき、彼は美春の額に唇を落とした。
『会いに来たよ、美春』
「……会いたかった……学……」
『俺も、……客人をホテルに置いてから、吹っ飛んで来た。……夜中だけど、お前に会いたくて……』
「まなぶ……」
 美春は両腕を彼の肩から回して抱きつく。これが幻でも夢でも良い、学を放したくなかった。
「夢でも良いよ……。傍に居て……」
『夢……?』
「凄くイイ気持……。本当に、学が居るみたい……」

 眠りから覚めきらない夢現の中、美春は愛しい人を抱き締める。
 触れた感触も、身体に沁みる声のトーンも、まるで本物の様だと、美春はこのトランス状態に酔った。

『もっと、夢心地にしてやろうか……』
 夢の学が意地悪な声を出す。彼はスーツのポケットから金色の小さな包みを取り出すと、中身を口に入れた。
 美春の頭を両手で挟み、ベッドに押し付けたまま唇同士を重ねる。重なった唇、歯間から入り込んで来た舌と共に感じたのは、甘いチョコレートの味。そして、それよりも甘苦い、アルコールシロップの味……。

「んっ……」
 静かな空間に、舌を吸い、唾液を絡める音が長く漂う。
 甘苦いシロップは、唾液と共に全て喉に流され、口の中の甘さが無くなっても尚続けられる唇付けに、美春は夢現のまま恍惚感を迎える。
「ア、ンッ……」
『キスでイくなよ……』
「きもちい……ぃ……」
 
 学がネクタイを緩める。次の瞬間、脱いだ彼の上着が顔の上にパサリと掛けられ目の前を暗闇にされても、美春に焦りや怒りは湧き上がらなかった。
『暗いほうが、夜這いっぽいだろ?』
 そんな悪ふざけをする声さえ、今は愛しい……。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 えーと……、夢ぇ?(笑)

 さてさて、美春はすっかり夢の中でトランスしちゃってますが……。
 “夢”は、アルコールシロップが入ったチョコレートをくれたりしませんよね。(*´艸`*)
 言うにことかいて、「夜這い」って。……間違いじゃないか……。

 総司が重大な事を口にしてくれました。
 本気にして大丈夫でしょうか。

 では、次回!





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