「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・6

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 ――――美春は怒っていた。
「居るんなら出なさいよぉ!」
 応答の無いスマホに向かって文句を叫び、ひとつ間違えば壁に叩き付けるのではないかという勢いでポケットへ押し込む。
 眉を逆立てたまま目の前を見ると、主の居ない専務用のデスク。
 学の物だと思うと、それさえも腹立たしい。美春は思いっきり蹴って八つ当たりをしてやろうかとも思うのだが、爪先でコンッと蹴って、フンッと鼻を鳴らすのが精一杯だった。

「本当に帰って来てるのか? 気のせいだろう、早過ぎる。夢でも見たんじゃないの? お前」
 珍しく学に対して憤慨していると見られる美春を見るに見兼ねた櫻井は、手にしていた薄いファイルで彼女の頭をポコポコポコポコ連打する。いつもならば「やめて下さいよぉっ、馬鹿になるぅ」と逃げる彼女なのだが、今日の美春は一味違う。振り下ろされるファイルを力任せに奪い取り、櫻井に歯向かった。
「居るんです! 帰って来てるんですっ! 昨日のうちなのか夜中なのか分からないですけど、帰って来ているんですよ!!」
「昨日? でも、俺の所にも須賀君の所にも連絡は来ていないぞ。さくらさんも帰って来てないって言っているんだろ?」
「でも、帰って来ている筈なんです! 私の部屋に来たんだから!」
「部屋? ハハァン、夜這いでもされたのか? だからそんなに怒ってるんだろう?」
 櫻井は冗談のつもりだったのだが、怒りを露わにしていた美春の表情が困惑し、彼の台詞は肯定される。
「お前……、正直だなぁ……。怒るなよそんな事で。専務の事だ、イイ思いさせてもらったんだろ?」
 それは間違いではない。確かにイイ思いはした。いや、し過ぎた。そのお陰で、とんでもなく恥ずかしい思いもした。
 ――今も恥ずかしい……。

「いやぁっ! 櫻井係長の馬鹿ぁっ! エッチぃっ! セクハラよぉぉ!!」

 実に都合が良い事に、恥ずかしさのあまり大きな声を出した瞬間ドアが大きく開き、須賀が秘書課室長と共に現れた。そして更に、滅多に社員は通りかかる事も無い専務室の前を、会議帰りの面々が通りかかったのだ。
 “夜這い”だの“イイ思い”だの、いつもならば少し拗ねる程度で済むが、今日はそんな気分ではない。

 帰って来た事も知らされず、寝ぼけているところへ更にアルコール分を投入され、夜這い宜しくいい感じに抱かれてしまった。
 途中で現実だと確信させてくれるか、もしくは素直に寝かせてくれたのならともかく、乱れるだけ乱れさせ、好きなように嬌声を上げさせられ、トドメには学が来ていた事など知らない一真に“お姉ちゃんが欲求不満でひとりエッチしてました”疑惑まで掛けられてしまった。
 寝ていた一真の目を覚まさせてしまうほどだ。どれだけ美春が無我夢中になっていたのかが窺えるというもの。
 「違う! お姉ちゃんはそんな事してない!」と言うも、「僕はお姉ちゃんで幻聴を聞くほどサカってない! 晶香ちゃんならともかく!」と返されては繋ぐ言葉が無い。

(帰って来たんなら、帰って来たって言ってよ! 夢じゃないって、ひっぱたいてでも認識させてよ! あんな状態の時にスルなんて、ずるいっ!)

「係長なんて、嫌いです!!」
 学への不満は櫻井に向けられ、美春は八つ当たりを叫ぶと、ドアを開けたまま呆然としている須賀の前をすり抜け。廊下へと飛び出してしまった。
 廊下で立ち止まる社員達の視線を背に美春が角を曲がり視界から消えると、全員の視線はいっせいに一人残された櫻井へ注がれる。叫んだ言葉が尋常ではない。あれではまるで、櫻井が二人きりである事を利用して、美春にセクハラ行為を仕掛けたと取られてもしょうがない。
 彼は苦々しく、無実を訴えた。
「言っておきますが、冤罪ですから」

 あそこまでムキになったのだ。よほど恥ずかしかったのだろうと悟る櫻井は、からかって悪かったとの後悔も無く、ただ笑顔だ。
 昨日冴子が病院へ行き妊娠が確定した。
 年末には三人家族になる大黒柱は、非常に機嫌が良いのだ。


*****


 専務室を飛び出し、フロア休憩所まで来た美春は、大きな窓辺へと歩きながら学に電話をかける。
 だが結果は同じ。繋がらないのだ。いや、その前に、電源自体が入ってはいないのだろう。
 さっきから何度かけても同じなのだ。おまけに今朝、櫻井に確認しても葉山家の警備員に確認しても、昨夜学は戻って来ていないという。
「もぅ、どこへ行ってるのよ……」
 学は絶対に帰って来ている。
 昨夜の彼は、夢ではない。

 起きた時に感じた、けだるさと爽やかな疲労感。
 冷め切らない身体の火照りと、下半身に残る、愛された余韻。

 今ならば、あれは現実だったのだとハッキリ分かる。

(帰って来てるなら、連絡のひとつくらい寄こしなさいよ……)

 美春の心が拗ねる。何も彼女は、夢と誤魔化され抱かれてしまった事ばかりを怒っているのではない。
 帰って来るなら連絡して欲しかった。「夜中になるけど帰れそうだ」と、美春にだけでも知らせて欲しかった。
 何て事は無い。帰国を知らせてもらえなくて拗ねているのだ。

 夢の中と信じた学を思い出す。
 夢でも良かった。夢でも良いから学に触れたかった。それだけ美春は、学が恋しかった。
 今だって恋しいのに……。
「……学……、声聞かせてよ……」
 心が切なくなった時、スマホが着信を告げる。
 まるで美春の呼びかけを聞いていたかのよう、それは学からの電話だった。

「学!?」
 ワンコールで応答した美春は、切なくなりかけた気分も忘れ、すぐに怒鳴りつけてやろうと思った。「どうして連絡してくれないの!」と。――しかし……。

『美春、愛してるよ』
 
 いきなり深いバリトンが鼓膜を貫く。躊躇した脳に、更なる解毒剤が流し込まれる。

『夢の美春は、とても素敵だった……。夢中になって壊れそうだったのは、俺の方だよ』

(学は……ズルイ……)

 美春は口をつぐみ、下唇を噛む。
 まるで彼女が怒っていたのを知っているかのように、学はいつもタイミングが良過ぎるのだ。

 でも、そんな彼が堪らなく愛しいのも確かで……。
『ただいま。美春』
 学の声が沁み渡る。深く深く、美春の身体と心に。

「お帰り……。学……」

 怒鳴り声でも、拗ねた声でもない。はにかんだ可愛らしい声が、彼女の口から漏れた。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 文句のひとつも言ってやりたくて、待ちかまえていた美春でしたが、そんな文句はどこかへ行ってしまいそうです。
 学はいつもタイミングが良過ぎて、美春が怒る隙を与えてくれません。(笑)

 さて、帰国して来た彼。
 最後の仕上げをすべく、美春にとある人物を連れ出してくれるよう頼みます。
 学は、何をしようとしているのでしょう。

 それは、次回!!





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