「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・8

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 風が騒ぎ 光が躍った。
 悪戯に吹き抜けた風は、神藤の柔らかな癖毛を揺らす。木漏れ陽に躍る光は、彼の黒髪を銀色に輝かせ供に舞う。
 舞う光はプラチナ色。時折彼の深い瞳を照らし、グレーの双眸を露わにした。

 ――そんな彼の姿を、目の前の女性が涙を堪えて見詰めていた事に、誰が気付けただろうか。

 話しかけたが、女性からの返答は無い。ただ黙って神藤を見詰めているだけだ。
 何故か初めに、D王国の公用語を口にしてしまった神藤。国籍不明の人物ならば、まずは英語で話しかけてみるべきだったのではないのだろうか。
 しかし神藤は、言い直そうとはしなかった。
 これで良いのだ、と……。
 彼の血が、そう言っている様な気がした。

 女性は神藤を見詰めたまま、ゆっくりと彼に近付いた。そして、手にはめられた白いレースの手袋を脱ぐと、指先で神藤の目の横に触れたのだ。

『綺麗な目をしているのね……』

 聞こえて来たのはD王国の公用語だ。神藤は、自分が使った言葉が間違いではなかった事を悟る。

『エレンと……、同じ目……』

 優しく、穏やかで、そして言葉にしつくせないほどの物懐かしさを感じさせる、声と雰囲気。

 親の顔も、産まれた場所も知らない神藤の血が、ノスタルジーに沸き立ち、彼の胸を詰まらせた。

 女性の指先は、こめかみから彼の髪へ移動する。銀糸をゆっくりと梳き、頭を撫でた。
『あなたは……、幸せでしたか……?』

 女性の声が、微かに震えた。まるで、訊いてはいけない事を訊いてしまった後悔に震えているよう……。
 見知らぬ人間に訊かれて、疑心もせずに答えられる質問ではない。神藤の様な男ならば尚更だ。

 その筈なのに……。
 今の神藤には、警戒心のひとかけらも無かった。

 不思議になるほど。感じた事の無い、深いノスタルジアの中に彼はいたのだ。

『はい……』
 神藤は、優しい視線を向けて来る女性を見詰め返しながら、口角を和ませ、ひと言だけ口にした。
『幸せでした……』

 幸せを口にして、心に舞い降りるは、彼の天使。

 彼を助け、彼に生きる事の意味を与え、守る物がある幸せをもたらした。
 藤棚の下で、運命の迷宮を彷徨っていた彼を、その翼で包み込んだ天使。

(――紗月姫……)

 ――――“神藤煌”として生きて来た彼の人生は、決して、不幸ではなかった。


 女性の手が離れる。
 ふわりと吹いた風の中で和んだ目元が、木漏れ陽の悪戯と共に煌めいて見える。
 そのきらめきを頬へ流す前に、女性は踵を返し、神藤に背を向けた。

 女性の背を目で追っていた神藤は、歩いていく方向に初老の男性が立っている事に気付いた。
 彼もまた異国の人間だ。外見的に初老であろうという見当はつくが、背筋はピンっと伸び、雰囲気的には神藤と同じ警護を務める人間が持つ隙の無さを窺わせる。
 もしかして夫婦なのだろうかと考えもするが、女性が目の前を通るまで頭を下げ、“主人”を迎える姿勢を取った事から、二人が主従関係である事が分かる。
 男性は、通り過ぎた女性の背後に立つと、一度神藤へ向き直り、深く頭を下げた。

『……申し訳ありません……』
 彼が苦し気に出した言葉は、風に散らされ、誰の耳にも届かない。


*****


 公園の入り口とは反対側に当たる場所に、黒いBMWが停められていた。
 神藤の元を去った女性がボディガードらしき男を伴って車に近付くと、運転席からひとりの青年が降りて来る。彼の姿を見て足を止めた女性は、右手を差し出した。
『認知書に、サインをさせて頂きましょう……。ミスター・ハヤマ』

 女性の前へ進み出て、学は差し出された手を取る。両手で握り自分の胸に当てると、彼はそのまま跪いた。

『感謝致します。――女王陛下』

 女王は宙を仰ぎ、木漏れ陽に目を細める。
 脳裏にはまだ、この清らかな光に照らされ輝いた柔らかな銀色の髪と、懐かしさを感じさせるグレーの瞳が残っていた。

『私の……大切な妹の忘れ形見を……、我が国の王子を、確認させて頂きましたわ……』

 微かに涙を溜めたグレーの瞳が和む。学はハンカチを取り出すと「僭越ですが」とひと言加え、女王の手に握らせて立ち上がった。
『ミスター・ハヤマ』
 女王が目元を押さえるその間、ボディガードが学に声をかける。強固な人間である事を窺わせる相貌からは想像もつきにくいほど震えた声ではあったが、彼が深く感動をする気持ちを抑えられず声を震わせているのであろう事は、すぐに分かった。
『証言書を、書かせて頂きます。――三十年前、王子は生きて王宮を連れ出されたのだと。……生き延びる為に、逃がされたのだと……』

『……有難うございます』
 学は深く頭を下げ、大きな仕事が成就する寸前の興奮に、全身を奮い立たせる。

『これで、ひとつの運命を、変える事が出来ます』

 ――運命は変えられる。
 彼はそれを、証明する。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 今日はちょっと短めでごめんなさい。
 昨日出て来た時点で「女王だ」と分かった方が多かったようです。有難うございます。^^
 一緒に出てきたボディガードは、プロローグにも出て来ました、裏切り者でありながらエレンに命を救われた側近です。
 『迷宮~』側にこのシーンはありません。
 
 本人が知らない所で、どんどん神藤の運命が変わっていきます。
 神藤の運命が変わるという事は、もちろん紗月姫にも影響がある訳ですね。

 公園デート(?)は続きます。
 ただ、パートナーは変わります。(笑)

 では、次回!!



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まとめtyaiました【第7章≪北欧の王子≫・8】

 風が騒ぎ 光が躍った。 悪戯に吹き抜けた風は、神藤の柔らかな癖毛を揺らす。木漏れ陽に躍る光は、彼の黒髪を銀色に輝かせ供に舞う。 舞う光はプラチナ色。時折彼の深い瞳を照らし、グレーの双眸を露わにした。 ――そんな彼の姿を、目の前の女性が涙を堪えて見詰め...
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