「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・10

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『神藤さんを、D王国の女王に会わせる』
 今朝の電話でその計画を学の口から聞かされた時、美春は心臓が停まり掛けた。
 やけに帰国が早かったと思えば、彼はD王国で女王に謁見した直後、すぐに女王と側近を日本へ連れ帰ったのだという。
 もちろんこの計画は、以前から王宮側と話し合われていたものであり、国際弁護士である田島や、同行した信悟などにも間に入ってもらって実現したものだ。

『とにかく、本物の神藤さんに会ってもらいたいんだ。それで女王が何かを感じてくれれば……。そう思う』

 DNA鑑定や彼の人物像から、三十年前に行方不明になった第二王女の子供である事は、ほぼ確定されてはいる。
 しかし王女には、いまひとつ、どうしても納得しきれない思いが有ったのだ。
 仲の良かった妹。側近達が王位継承権争いなどを起こさなければ、もしかしたら異国の青年と愛し合ったまま、子供と共にこの王宮で幸せになれたかもしれない。
 大切な妹であったからこそ、書類上での見解だけで王子だとは認めたくはなかったのだろう。
 もしも偽物ならどうする。勘違いだとしたら……。
 大切であるからこそ、心に響く確かなものが欲しかったのだ。

 だから学は、女王を連れ出した。
 ひと目で良い。本物の神藤に会ってもらう為に。
 自分の出生を知らず、苦境の中を生き抜いた、北欧の王子に。

 女王ならばきっと、彼に何かを感じてくれるはずだ。そう信じて。


「百聞は一見にしかず……かしら……」
 学の行動を思い、ポツリと呟く。少し違うかなとひとり小首を傾げ、美春は小さくクスリと笑った。
 視線を前へ向けると、視界には幸せそうなキスシーンが入り込んで来る。
(いつまでキスしてんのよぉ。もぅっ)
 心の中で冷やかし、美春は照れ臭そうに視線を外した。

 木陰から離れ、公園の脇にある小さな出入り口からこっそりと抜ける。二人に見つかる心配は無いと思うのだが、草を踏み締める小さな物音も立てては申し訳ない様な気がして、自然と足取りが忍び足になった。

「さて、どうしようか……」
 美春はポツリ呟き、腕時計を確認して左右を見渡す。
 目下の悩みは、タクシーをどこで拾おうかという事だ。
 あいにくここは周辺に大きな商業施設が有る訳ではなく、辻川邸は元より数件の高級住宅や高層マンションなどが有るだけだ。少し離れた所にホテルが有るので、そこまで歩けばタクシーなどはより取り見取りかもしれないが、そこまでは意外と距離もある。
 あらかじめ社用車を呼んでおけば良かったと小さく吐息した時、ふと人影が目に入った。
 公園にも周辺にも人影が無かったので、美春の目は人影の動きに吸い寄せられる。人影は一台の車に近付き、数歩離れた場所から車を見詰めていた。

 人影は女性だった。いや、女性というよりは、少女と言った方が良いだろうか。
 男物と見られるたっぷりとした黒いジャンパーを着ているが、その下はワンピースらしき一枚もの。美春から見ても、海外ブランドの高価なものである事がすぐに分かった。
 ワンピースにジャンパーが不釣り合いなのも気になったが、もっと気になったのは、あまりにも朦朧とした少女の表情と青白い顔。そして、一本にまとめてはあるが遅れ毛が乱れた茶髪だ。

(この人……、どこかで見た事がある……)

 記憶の片隅で、少女の姿が引っかかる。これよりもう少し覇気が有ったと記憶しているのだが、確かに彼女を見た事がある様な気がするのだ。
 少女が眺めていたのは、美春が乗ってここまでやって来た辻川家の車。気になった美春は、少女に声を掛けた。
「……あの、どうかしましたか?」
 少女はチラリと美春に顔を向け、そして再び車を見詰める。
「……綺麗なシャンパンゴールドの車。……辻川家の御令嬢が、専用のお客様を送迎する時のみ使われる車だわ……」
 口調と声で、美春の記憶が動き出す。少女を思い出した時、美春はハッと息を呑んだ。

「生まれてから死ぬまで、一生お嬢様で有り続ける人。決してそれを妨げる者はいない。必ず幸せになる事を、約束された人」

「……成澤さん?」
 美春は自分の記憶を疑いつつも、少女に声を掛ける。
 この少女は、紗月姫の誕生日パーティで、入場出来ない事を章太郎に食ってかかっていた紗月姫の同級生だ。確か章太郎が「成澤様」と呼んでいた。

 咲月は美春を怪訝そうに一瞥する。咲月にしてみれば、美春の事など全く知らないだろう。
 ただ、“葉山の御曹司の婚約者”といえば別かもしれない。

「何? アンタも笑いたいの? アレが辻川に睨まれた成澤の娘だ、って」
 美春を睨み付けた咲月の目付きは、元々鋭かったところへ恨みにも似た念が籠り、ゾワリとした悪寒を感じさせた。
 血走った目は、幸せの象徴であるかのような、美しい光沢を放つ車へと向けられ、咲月は自嘲する。
「……男共の噂は……本当だったのよね……。花のように綺麗な辻川のお嬢様に、邪な気を起こせば、殺されるぞ、って……。本当に殺されたわ……」

 美春だって、学の傍で仕事をしている身だ。
 急成長し栄華を誇っていたはずの成澤ホールディングスが、急激な衰退を見せた事実を知らない訳ではない。
 それも紗月姫が、学園で爆発事故に合った直後からだ。
 爆発事故では、伏せられてはいるが一人だけ死者が出ている。だが原因は、爆発物による事故であるはずだ。あの日、生徒会室で何が有ったのか美春には分からないが、紗月姫が手を下した訳ではないだろう。

「おかしなものだわ……。家が奈落の底に叩き落とされた事より、私……あの人を殺された事ばかり恨んでる……」
「ねぇ、……もしかして、あなた、爆発事故の事を言っているの? でも、あの事故はもう犯人が分かっているし、辻川の御令嬢は何の関係も無いのよ?」
 咲月は、特に美春に対して話しかけている訳ではないようだった。口から出る言葉はひとり言だ。まるで自分に言い聞かせる様、覚え込ませようとしているかの様に。
 美春の声は、咲月の耳には入っていない様にも感じられる。内に籠ってしまっている彼女に、外の言葉は聞こえてはいないのかもしれない。

 ただ自分の為に、彼女は恨みを口にする。

「だから絶対……あの女も、幸せになんか……させない……」







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 幸せそうな二人のキスシーンに当てられて、公園を後にしようとした美春。
 そこで彼女が出会ったのは、パーティで見かけた成澤咲月でした。
 徐々に幸せの光明を得ていく二人が居る裏に、どこまでも沈み込んで行く陰が有りました。

 ただの口だけ。彼女の妄想だけで終わるなら、それに越した事は無いのですが……。
 そうはいかないのかもしれません。

 では、次回!!





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