「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・11

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 何か薬物を使用しているのではないか……。
 美春は咲月の様子を観察し、そんな疑いを持った。
 ふらつく身体と、朦朧とした表情。時々焦点が合わない目。
「あの女に言い寄る馬鹿な男は……、皆、死ぬんだから……」

 美春はその時、連続して亡くなった紗月姫の婚約者候補達を思い出した。成澤咲月は、その事を言っているのだろうか。
「……全部、死ぬのよ……。今、残ってる男も……、全部……」
「待って、それは、どういう……」
 薄笑いの中で発せられる声を不気味に感じながらも、美春は言葉の真意を問おうと、咲月の腕を軽く掴んだ。すると、その腕は物凄い勢いで振り払われたのだ。
「触らないでよ……」

 地を這う様な声だった。手を振り払われた勢いで数歩下がってしまった美春を見て、咲月は鼻を鳴らし、不思議になるくらい唇の両端をニヤリと上げる。
「幸せなんて……壊してやる……」

 不吉な言葉を言い終わらないうちに、咲月はその場を走り去った。どこかおぼつか無い足取りは、彼女が正気ではない事を知らしめる。
 美春はその姿を目で追いながら、息を詰まらせた。
 一族衰亡からのショックなのか、それとも話の内容から推測出来る“大切な人”を失った事からのショックなのか。
 彼女の言動は、常軌を逸している。
 今口にしていた全てが、ショックから来る妄想上での虚言であるなら構わない。
 しかし美春には、どうしても気になった一言が有ったのだ。
 彼女は言った。「皆、死ぬの。今残っている男も」と。
 “言い寄る男”が婚約者候補の事なら、“残っている男”というのは……。

「――学?」

 ゾワッと背筋に冷たいものが走る。
 だが美春は、その悪寒を否定した。成澤咲月は、憎しみとショックのあまり有り得ない妄想を抱いているだけだ。
 第一あれでは、今までの三人が死んだのは彼女が手を下したからだと言っている様に聞こえる。
 そんな筈は無い。一人は車の事故、一人は泥酔したうえでの事故、そして一人は、爆弾を使った愉快犯の餌食になったのだと見られている。
 彼女はきっと、自分の恨みが通じたお陰だとでも思っているのだろう……。

 美春は急いでその場を離れた。歩きながらスマホを手にし、学に連絡をしようかと考えるが、恐らく彼は、最後の大切な仕上げ中。電源を落としているか、繋がっても出られる状態ではないだろう。
 動揺している自分を感じ、美春は歩きながら数回深呼吸をした。

 とにかく、学の連絡を待とう。今出来るのはそれだけだ。
 そう思いながらも、咲月の深い怨讐を感じさせる瞳が、なかなか脳裏から消えてはくれなかった。


*****


 紗月姫を呼び出したのは美春だったが、その美春の供をするようにと、神藤を一人で外出させたのは椿だ。
 その事実を神藤から聞いた紗月姫は、今日の公園での一件も、椿が関係しているのだと悟った。
 思えば先日貰った夜の逢瀬にも、椿は手を貸してくれている。礼を言おうと思いながら、昨日も久我山の件で取り乱してしまい、結局は言えていないままだ。
 今日こそは、感謝をこめて礼を言わなくては。
 邸へと戻った紗月姫は、彼女が戻って来て胸を撫で下ろすお付き達をよそに、椿の元へと向かった。

 紗月姫を連れ帰ったのが神藤だったので、“いつもの事”と誰も不思議には思わなかったが、ただひとり、章太郎だけは“見張り役”として今回の件が総司の耳には入らぬよう心中で祈った様だ。

「お母様、入っても宜しいですか?」
 部屋の前で声を掛けると、返事が聞こえる前にドアが開いた。中から出迎えてくれた人物を見て、紗月姫は少々驚く。
「……お父様……。いらっしゃったのですか?」
 ドアを開けたのは総司だった。てっきり本部が書斎だと思っていたのだ。
 驚く紗月姫を中へ促し、総司は困った声を出す。
「ここは、私の部屋でもあるからね。そんなに驚くとは思わなかったな」
「すみません。ですが、お珍しいと……」
「たまには、妻と二人で自室で寛ぎたい時もあるさ」
「まぁ……。私、お邪魔でした?」
 紗月姫は上目使いに総司を仰ぎ、クスリと笑みを漏らした。
 今日の総司は機嫌が良い様だ。最近ギスギスとした関係が続いていたせいか、穏やかな彼の口調は余計にそう感じさせる。

「余計な心配をしなくても大丈夫よ、紗月姫。お父様は、そんな素敵な理由でここにいらっしゃっていたのではないわ」
 紗月姫の機嫌を取るかのように笑顔を振りまく総司。そんな彼をからかい半分に一瞥して、椿は両手で紗月姫の頬を撫で、どことなく嬉し気に頬を染める微笑を見詰めた。
「気分はどう? 昨夜からの落ち込んだ気持ちは治まったかしら?」
「はい、すっかり。……先程お母様に頂いた素敵なサプライズのお陰で、心まで浮き立つ気分です」
 ほんの数分、神藤に会えただけで、こんなにも可愛らしい笑顔を見せてくれるのだ。公園デートはよほど楽しかったのだろう。それを察した椿は自分まで嬉しくなり、紗月姫を抱き締め頭を撫でた。
「良かったわ……」

 母娘の会話の意味が分からず、間に入って行けない総司は少々寂しい。
 椿がどんなプレゼントを使って、傷心であるはずの紗月姫を慰めたのか。その方法を是非とも訊きたいところではあったが、それよりも、先にやっておかなくてはならない事が有った。

 総司はコホンッとひとつ咳払いをして、本題に入った。
「だが、紗月姫が来て丁度良かった。椿にも話していたのだが、紗月姫にも言っておかなくてはと思っていた」
「私にですか?」
 気持ちの良かった椿の胸から、名残惜しくも顔を上げ、紗月姫は小首を傾げる。
「明日の日曜。これからの事を話し合う為、学君が来る」
「学さんが? これから、というのは……?」
「三人の婚約者候補が、あんな事になってしまったからな。残るは学君と、……五人目だけだ。――お前に、五人目を紹介するつもりだ」

 突如出された五人目の存在に、紗月姫は眉をひそめた。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 幸せを掴もうとしている二人の傍に、おかしな陰が付きまとっている事に気付いた美春。
 不安を残す一言を残した咲月ですが、美春が思う通り、これは虚言なのでしょうか。

 そしてそんな中、とうとう五人目との面会が決まります。
 五人目の存在に、不安な物を覚える紗月姫ですが……。

 では、次回!!





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 何か薬物を使用しているのではないか……。 美春は咲月の様子を観察し、そんな疑いを持った。 ふらつく身体と、朦朧とした表情。時々焦点が合わない目。「あの女に言い寄る馬鹿な男は……、皆、死ぬんだから……」 美春はその時、連続して亡くなった紗月姫の婚約者候...
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