「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・12

 ←第7章≪北欧の王子≫・11 →『そうだ、君にキスしよう』前書き・あらすじ


 存在だけを知らされ、その詳細は秘密にされていた五人目の婚約者候補。
 ここに来て、その五人目が明かされるのだ。

「お父様……、ひとつ、お聞きして宜しいですか?」
 話の内容的に放ってはおけない。紗月姫は椿から離れ、総司と向き合った。
「何故、五人目は今まで明かされなかったのですか? 学さんの件が最初から言えなかったのは分かりますが、五人目は……」
「婚約者候補として認める為の書類が揃ってはいなかった。少々、その過程で難航してね……」
 総司はチラリと視線で椿に合図を送る。我ながら歯切れの悪い説明だと感じたのだろう。
 助けを求められたのは分かったが、椿はにこりと笑ってそれをかわし、微笑んだ唇は救いの言葉を出してはくれない。

「まぁ、何だ……。もし、紗月姫が気に入ったなら、その場で決めてしまっても構わないぞ……」
「……はぁ……」
 紗月姫は生返事しか出てこない。なげやり、という訳ではないのだろうが、先日までこの件に関して総司から感じられていた気迫が、どうも感じられないのだ。
 第一、候補として認める為に時間がかかる人間というのは、どんな人物なのだろう。
 そんなに時間を掛けても、総司が候補としたい人物だったのだろうか。

 紗月姫はふと、学が彼女を怒らせてまで“五人目”を意識させようとしていた事を思い出した。
 彼は意気揚々として言っていたではないか。「必ず五人目を選べ」と。
(五人目に……、何かあるのかしら……)

「紗月姫」
 謎の五人目に思案を巡らせようとした紗月姫の両肩に、椿の手が置かれる。戸惑う娘の顔を横から覗き込んだ椿は、優しく微笑んだ。
「お父様は、五人目の青年とお会いして、もしも紗月姫の気持ちが決まったのなら、猶予として与えられた期間を使い切らなくとも、すぐに婚約者として決めても構わないとおっしゃっているのよ。けれど、これは大切な事ですもの。期限内、じっくりと考えても、もちろん良いのよ」
「はい、お母様」
 分かりやすい椿の説明に素直な反応を示した紗月姫ではあったが、今となっては、選択肢は二つしかない。

 学か。五人目か。

 どちらにしろ、決めてしまえば、その時点で神藤はお世話役ではなくなってしまう。今以上に、会えなくなってしまう。
 紗月姫は無駄な足掻きをする自分を嘲笑いながらも、ささやかな抵抗を見せた。
「……すぐには決めません……。期限いっぱい……、お時間を頂くかと……」

 例えこれが、無駄な足掻きであっても。
 紗月姫は、もう少し足掻いていたいと思う。

「お二人のお話中に失礼致しました。私は部屋へ戻ります」
 紗月姫は椿から離れ一礼すると、そのまま部屋を出た。
 静かに閉まったドアを見詰めたまま、総司は椿へ問いかける。
「――どうかな? これで、許してもらえるかな」
「何をおっしゃいます。いきなりその場で決めても良いなどと。かえって紗月姫を困らせただけですわ」
「……椿が言った通り、五人目を候補として認めたのだが?」
「紗月姫は五人目の正体を知りません。今あなたに認めると言われても、不安が増えただけでしょう」
「駄目かい?」
「駄目です」
 総司はふうっと鼻で息を抜く。紗月姫の父親として、五人目を認めるという意思を示せば、今回の事を許すと椿から告げられているのだ。総司としては示したつもりではあったのだが、奥様のお気には召さなかったらしい。
 私室は一緒のままである事から、家庭内別居状態になる事は免れたが……。
 寝室は、許してもらえるまでは別々らしい。


*****


「明日? 本当に?」
 スマホを両手で握り締め、美春は思わず大きな声を出してしまった。
 会社へ戻り、専務室にひとりでいたところへ、学から連絡が入ったのだ。
 女王側との話し合いも終わり、神藤を王族として認めるという認知書や証言書類も全て揃い、学は明日、それらを総司の元へ持ち込み早々に決着を着けるという。

『総司叔父さんには連絡をしてある。紗月姫ちゃんはもちろん、神藤さんにも話を聞いてもらう。叔父さんの事だ、揃えた書類を見れば、その場で納得してくれるさ』
 聞こえて来る学の声も、やはり嬉しそうだ。大きな仕事を終えた後の充実感。普段仕事をしている時、途中にどんな困難や壁が有っても、この声を聞くと、やり遂げた満足感を美春も一緒に感じる事が出来る。
「おめでとう。大成功ね」
『いや、まだだ。もう少しその言葉は待ってくれ。明日、全てを明かして、紗月姫ちゃんが五人目を選ぶ、そこでやっと大成功なんだ』
「何言ってるの。選ばない訳が無いでしょう?」
 湧き上がる喜びは感染する。美春の心も学に刺激を受けて歓喜した。

 伏せられていた五人目が神藤だと知ったら、紗月姫はどんな顔をするだろう。それも彼は「家柄が」だの「身分が」だの言う必要はない人間なのだ。
 小国ではあるが、王族の血を引いた人間だ。これ以上の身分が有るものか。

 二人の恋は、もう、許されない物ではないのだ。

『もうすぐ会社に着く。明日の打ち合わせもしたいから、ホテルにでも行って“色んな事”しながら話をしようか』
「もぅっ、またそういう事を言う。 今はそんな事は出来ない期間なんだからね!」
 本当は「うん」と言いたいところだが、今は婚約破棄期間だ。学は美春に触れてはいけないという約束事が有る。残念だが、話に乗る訳にはいかない。

(でも……、何となく、学、あまり守る気が無い様な……)

 昨夜の事といい、どうも腑に落ちない物を学の行動から多々感じる。
 電話を終えた美春は腕を組んで考え込むが、それも一瞬だけ。すぐに学を迎えに行こうと専務室を出た。


*****


 地下駐車場から直接三十四階まで上がって来る事も出来るが、その日最初の出社時は必ず正面玄関から入る。
 それは、休日出勤の日も同じだ。
 なので学は、ビルの前で車を降りて正面玄関から入って来るだろう。当然の様にそう考えた美春は、急いで一階まで降りた。
 エレベーターを飛び出してエントランスへ向かうと、外出から戻った同僚の柳原詩織が入口を入って来るのが見えた。

「あー、美春ちゃーん、今ね、専務のレクサスくん、会社の前に入ってきたよ」

 美春に気付いた詩織が、笑顔で手を振る。車に“くん”を付ける辺りが、何とも彼女らしい。
 そんな同僚に笑顔を浮かべた美春。しかしその表情は、次の瞬間固まった。

 二重になった自動ドアの向こうに停まった黒いレクサス。
 
 ――いきなり、爆音が響いた。







人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 なにげなーく頑張った総司ではありますが、どうも頑張りどころを間違えている様です。
 これではまだ椿に許してはもらえませんね。(笑)
 それでも、紗月姫が気付かない所で、状況は間違いなく好転を見せています。

 決着の日を明日に決め、学と共に心が奮い立つ美春ですが、突然のアクシデントが襲います。
 いきなりの爆発。
 そして思い出すのは、咲月の言葉。

 では、次回!!





 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第7章≪北欧の王子≫・11】へ  【『そうだ、君にキスしよう』前書き・あらすじ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめtyaiました【第7章≪北欧の王子≫・12】

 存在だけを知らされ、その詳細は秘密にされていた五人目の婚約者候補。 ここに来て、その五人目が明かされるのだ。「お父様……、ひとつ、お聞きして宜しいですか?」 話の内容的に放ってはおけない。紗月姫は椿から離れ、総司と向き合った。「何故、五人目は今まで明...
  • 【第7章≪北欧の王子≫・11】へ
  • 【『そうだ、君にキスしよう』前書き・あらすじ】へ