「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第7章≪北欧の王子≫・13

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 葉山製薬本社ビルの正面入り口横には、二台の自動販売機がある。
 どちらも飲料系だが、外に設置されているので、社員のみならず会社を訪れた関係各社の人間や、見学や薬局にやってきた一般の者でも利用する事が出来るのだ。
 なので、社員ではない男が一人、自販機の横でコーヒーを飲んでいたとしても、警備員の柳原仁志は特に気に掛けてはいなかった。

「警備員さん、お先にぃー」
「土曜出勤お疲れさまでした! 良い週末を!」
「警備員さんもねー」
 仕事を終えた若いOLが、一階エントランスで見回りをしていた柳原に声を掛ける。声を掛けていくのはOLだけではない。疲れた中間管理職も、いつもは口をへの字に曲げた重役も、彼を見ればついつい声をかけずにはいられなくなる。
 葉山製薬のエントランスに立つ元気印の警備員さんは、人当たりの良さと真面目さで会社の人気者なのだ。
 
 夕方になり、彼は少々気忙しさを感じ始めていた。
 今日はもうすぐ勤務が終わる。妻の詩織も出勤しているので、帰る時間を合わせて今夜は外食をしようという約束になっていた。
 だが、上司の使いで外出している詩織はまだ戻って来ない。見送った時はそんなに時間はかからないと言っていたはずなのに、既に二時間近くが経っている。外出先で何かあったのだろうか。それとも事故にでも……。

(いやいや。詩織ちゃんの事だ。きっと、お天気が良くてボーっと歩いていたらバスに乗るのを忘れちゃった、とか、そういう理由に違いないっ)

 新婚一ヶ月。
 夫は妻の性格をよく把握している。

 とはいえ、心配である事に変わりは無い。柳原は詩織の姿を求め、外の様子を見ようと正面入り口のドアを出た。
 左右前方ぐるりと見回すが、愛しの妻は見当たらない。広い前庭の向こうにある歩道にも、それらしき姿は見当たらなかった。
 しかし彼は、妻では無く違う物を見付けたのだ。
「……あ、専務の車だ」
 ビル前の四車線道路に、黒いレクサスが見える。
「帰って来たんだ、専務」

 カランッ……と、缶が転がる音が耳に入り、柳原は何気なく振り返った。
 自販機の横に立っている男と目が合うが、男はすぐに視線を逸らす。どうやら今の缶は、男が落とした物らしい。
 柳原は眉をひそめた。
 この男は、二時間ほど前に詩織を見送った時もこの場所で見た。同じように疲れた顔で自販機の横に立ち、コーヒーの缶を口にしていたはずだ。
 よれたシャツにくたびれたスーツを着た、無精髭の男。
 一般の人間がコーヒーを買いに来たというだけ、それだけではない気がする。
 柳原は表情を引き締め、男へと近付いた。
「すいません、ちょっとお訊ねしたいんですけど……」

 警備員に声を掛けられ、男は見るからに青白い顔色を更に青く変えて立ち竦んだ。しかし、すぐに足元に有った白い紙袋を抱えると、道路へと視線を移したのだ。

 男が視線で追ったのは、黒いレクサス。――学の車だ。

 車はビルの横から正面へ入って来るだろう。男は柳原の脇を抜けて通路へ走り出ようとした。
「待て! どこへ行く!」
 柳原は慌てて男の腕を掴む。こんな挙動不審な男を目の前に、放っておける筈も無い。しかし腕を掴まれ問い詰められているのにも拘らず、男の目はビルへ向かって来る車の動きを追っていた。
(こいつ……、専務の車を見てるのか?)
 警備員としての直感が彼に危険を告げた。男が大切そうに抱えた紙袋。そこに目が引き付けられる。
「これは何だ?」
 ここのところ、彼は連続爆弾魔事件の愉快犯を警戒した、小包や荷物のチェックに当たっていた。なので余計に不審な荷物が気になったのだ。
 紙袋を掴まれ、男は焦った。柳原の手を振り払おうとするが、がっしりとした体格の彼に比べると男は少々貧相だ。力で対抗出来る筈が無い。
 男は金切り声で叫んだ。
「放せぇっ! 爆発するぞ!!」

 爆弾発言そのままの言葉に、柳原の力が緩んだ。男は紙袋を振り回し無理矢理離れると、奇声を上げてその袋を通路へと投げ込んだのだ。

 滑る様に走り込んで来た、レクサスの前へ……。

「専務!!」


*****


「あーっ、専務だぁ」
 詩織が学の車に気付いたのは、大きくて綺麗な車が信号待ちをしてるなぁと、何気なく目で追っていた時だった。何となく流れでフロントガラスにまで視線が行き着くと、運転席にいた学と目が合ったのだ。
 詩織は慌てて頭を下げる。視界の端に微笑んだ学の顔が入り込み、ちょっと照れ臭くなってしまった。
(ぅわぁ、ジロジロ見ちゃった、恥ずかしー。どうりで見た事がある車だと思ったんだぁ)
 お使いで外出したのは良いが、外の空気の気持ち良さを感じながら歩いているうちに、帰りのバスに乗るのを忘れてしまった。目が合ったという事は、呆けてノロノロ歩いていた姿を見られてしまったのではないだろうか。
(美春ちゃん、専務が帰って来てるって知ってるのかな。知ってるよね。喜ぶだろうなぁ)

 美春の喜ぶ姿を想像しながら、詩織はビル前の通路を歩き始めた。
 正面入り口の横で愛しの夫を見かけるが、仕事中であるうえ、どうも何か揉めているようだ。
 心配ではあったが邪魔をしてはいけない。あまり深刻な様子なら、警備室へ連絡をしよう。そう考え、早々にビル内へ入った。
 すると、すぐにエレベーターホールから出て来た美春を見付けたのだ。
 詩織は笑顔で手を振った。
「あー、美春ちゃん、今ね、専務のレクサスくん、会社の前に入って来たよ」


*****


 ビル正面に車を着ける為に通路へ入った学は、すぐおかしな事に気付いた。
 正面入り口の辺りで、柳原が誰かと揉めている。しかも学は、柳原に腕を掴まれながらも学の車を凝視している男の顔に見覚えがあった。
「……あれは……」
 男が柳原から離れると、持っていた白い紙袋を放る。丁度車が入る通路に投げ出されたのを見て、学はブレーキを掛けた。
「専務!!」
 
 柳原の声が響くと同時に学は助手席側から飛び降り、タイヤが踏み付ける一歩手前だった紙袋を拾い上げる。すぐにそれを、前庭の中央へ向かって放り投げた。

 ――――そして、大きな爆音が響いたのだ。







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 爆発が起こるまでの経緯です。
 会社でのアクシデントとなれば、やっぱり柳原に出て来てもらわなくちゃ。^^

「またレクサス爆破!?」……って、思ったでしょう?
 爆音は車からでは無く、学が紙袋を放り投げてから起こったんですね。
 って訳で、3代目のレクサスくんはまだ無事です。(^^ゞ

 学を爆弾で狙った男。
 彼もまた、運命の悪戯に弄ばれたうちの一人でした……。
 その正体と結末を明かします。

 では、次回!!




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