「恋桜~さくら・シリーズ」
恋桜~さくら~・3

桜・9『気にしても良いですか?』

 ←第1話・それはキスの話題から始まった →第7章≪北欧の王子≫・15


「さくら」
 いきなり一さんの声が耳に入って、私はピクリと身体を震わせた。
「どうした? 何を見ているのだ?」
 背後から一さんの顔が覗く。いつの間に部屋へ入って来ていたのだろう。写真に気を取られて全く気付けなかった。
 一さんは、私の手元にあるのが本ではなく、アルバムであった事に眉を寄せる。
 彼が口を開く前に、私は慌てて事情を口にした。
「あ、あの……、今日連れて行ってもらったお店の女性が、大学の同期って言っていたから……。何となく写真が見たくなって……」

 言い訳に聞こえるのではないだろうか。アルバムを見る事自体は悪い事ではないと思うのだけれど、目的が目的であった為、どうにも後ろめたい気持ちが大きい。

 一さんは私の手からアルバムを取り上げ、開いてあったページを眺める。
「こうして見ると、あの二人も随分と気丈な顔付きになったものだ。この頃は、親に甘えて遊び歩いているだけの娘だったが……」
 ……一さん、何かそれ、親戚のおじさんが身内の若い子を語っているみたいなんですけど。
「でも、一さんも、この頃とは顔つきが違う様な気がするわ」
「そうか?」
「うん。だって、この頃は“鉄仮面”とか言われていたんでしょう? 本当に写真の一さんは無表情だけれど、今の一さんはとても素敵な表情をしてくれるもの」
 すると一さんは、私の肩を抱き寄せポンポンっと叩いた。
「さくらのお陰だ」

 ……わぁ……。
 嬉しいんですけど……。

 一さんの言葉に気持ちがふわりと浮き立ってしまいそうだったけれど、私は閉じかかったアルバムのページを押さえて、彼を仰いだ。
「は、一さんっ、この女性も、同期の方ですか?」
 指をさしたのは、私が見ていた写真。一さんの肩に、今日の二人ではない女性が寄りかかっている物。
「ん? ああ……」

 少し、一さんの声のトーンが変わった気がした。
 どこか戸惑っている雰囲気。

「そうだな……、あの二人と仲は良かったな。意外に、大学時代から私とも話は合った……」
 一さんはそこで言葉を切る。何故だろう。それは、彼にしてはとても珍しい話し方。しばし無言になってから、無感情に言葉を繋ぐ。
「半年ほど、私の秘書をしていた事がある」
「秘書? 一さんの、ですか?」
「去年の三月までだ。今は、取引会社の重役秘書だが」
「――祥子さん、……という方ですか?」
 心のどこかで、違っていて欲しいと思っていたように感じる。けれど私の質問に、一さんの言葉は止まってしまった。
 何故その名を知っている? 私を見る彼の双眸が、無言で問いかけて来るよう。

「あの……お店の二人が、話していたんです。……一さんは、とても優秀な方だったから、なかなか話について行ける人がいなくて……。大介さんと、……祥子さんくらいなものだったって……」
「ああ、そういう事か」

 ――どういう事だと、思ったの?

 どうも、話というか、訊きたい事と話したい事が噛み合わない。
 というより、私が聞きたい事なんて訊ける筈が無いの。この祥子さんという女性が、周囲からは一さんのお相手になるだろうと言われていたのか、なんて。

「彼女は頭の良い女性だったし、行動力もあった。私の秘書としても、女性で半年続いたのは彼女くらいだったな」
 話ながらアルバムを閉じた一さんは、それを踏み台の上に置き、本棚に戻さないまま私をソファへと促した。
 写真の話題から離れたいのだろうか。そう考えてしまった私は、考え過ぎ?

「まぁでも、頭が良くて行動力があるのは、さくらの方が上だけどな」
 私をソファへ座らせ、一さんも隣に腰を下ろす。俯いていた顎を掬い、私が固まってしまう様な素敵な笑みを見せた。
「何と言っても、私の目の前でいきなり服を脱いだ怖いもの知らずだ。当時十四歳とは思えない度胸良しだな」
「はっ、はじめさんっ、そんな昔の事っ!」

 言われると恥ずかしくなってしまう。
 出会ったばかりの日にしてしまった事ではあるけれど、あれはあれで事情が有ったし、思い悩みもした。
 でも……、今考えると、凄い事したなぁ、とは思うのよ……。

 動揺した私に、一さんは顎を支えたまま唇付けた。
 唇を啄み、触れたまま静かな声で問いかけてくる。
「何か、気にしたのか……?」
 私は返事が出来なかった。正直に気にしたっていった方が良い?
 私なんかよりもずっと大人で、一さんに見合う年齢の女性が、周囲に認められていた時期が有るという事実に、ショックを受けました、って……。

 ――言える訳が無い。

「……てっきり、洋服を出しているものだと思っていたのに……」
 唇が触れたまま零れる声は、吐息が唇をくすぐって、少し歯痒い。
「ごめんなさい……」
「さくらは、余計な事は考えなくて良い。分かるな?」
「……はい」
 身体を押されるままに、私はソファに横たわった。唇付けたまま、一さんはブラウスのボタンを外し始める。
「あの、一さん……」
「ん?」
「あの……、自分で、脱げます……」
「良い、脱がしてやる」
「でも、これから何着も着るし……」
 改めて、買ってもらったお洋服を思い出す。
 今日中に全部着て見せるのは、無理だろうなぁ。

 ブラウスを肌蹴ると、一さんの唇は耳から首筋を辿り始めた。肩を竦めてその刺激に耐えると、さっきまでとは違う、ちょっと熱っぽい一さんの囁き声が耳朶に響く。
「着なくて良い……。今夜は、もぅ、何か着る事は許さない……」








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たいままさんへお返事です6/3

たいままさん、こんにちは!

 一さんのひと言にキュンして頂けて嬉しいです❤
 女性の噂は息子より華やかではありませんが(笑)、もしかしたら息子より女心を掴むのは上手いかもしれないと、書きながら思います。(≧▽≦)
 ……いや、贔屓の賜物かもしれません……。(おい)

 またキュンしてもらえるような一さんをお届けできればと思います。(*´艸`*)

 有難うございました!

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