「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第8章≪永遠の約束≫・3

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 大きく大きく、藤が騒いだ。
 まるで強風にでも煽られたかのように、花びらの雨が二人の上に降り注ぐ。

「私は、お嬢様をお守りする為に生きてきました。……お嬢様は、私の生きる理由だったのですから……。貴女を守れなくなったら、私には存在価値など無い……」

 何の為に生まれて来たのかも、何の為に生きているのかも、幸せも人の価値も、何も感じられないまま生きて来た、虚無に満ちた十二年間。
 そこから神藤を掬い上げたのは、紗月姫だった。

 この藤棚の下で。慈愛の翼を広げて。

「お嬢様を守れない私に、何の意味がありましょう。貴女の傍に置いて頂ける事だけが、私の幸せだった……」
「……神藤……」

「おまけに私は、決して汚してはいけない貴女を汚した。決して愛してはいけない貴女を愛した。……私は、許されない堕罪にまみれている……。最期の決裁は、……貴女に下して頂きたい……」

 辛い言葉を口にしているというのに、神藤の口調は穏やかだった。
 それは、紗月姫を守れない自分に存在価値は無いという思いを、いつも持ち続けていたからかもしれない。
 もしも紗月姫を守れなくなった時は、この命は要らない。そんな信念は、彼の深層心理の奥底でいつも待機していたのだろう。

 衝撃的で哀しい願い。
 刹那、動揺を見せた紗月姫ではあったが、彼女は神藤の胸に顔を押し付け、幸せそうに頬ずりをした。

「分かったわ……。でも、私のお願いも利いて。――――ずっと、一緒にいる、って……」
「お嬢様……」
「もし私があなたを殺したら、……私も、命を絶ちます」

 紗月姫を抱き締める腕に力がこもる。神藤が息を詰めたのが分かったが、紗月姫は言葉を続けた。

「あなた以外の人間に守ってもらおうなんて思わない。あなた以外の腕に抱かれようとも思わない。あなた以外と藤を見たいとも思わない。……あなたが居ない場所に、私が居る価値なんて無い……。――分かる? 煌(あきら)……」

「……愚かな考えです……」
 紗月姫を咎めようとした言葉は、出切る事は無かった。
 神藤は言葉を止め、言葉に代わりに、ただ紗月姫を抱き締める。

「――紗月姫……」

 最愛の名を口にする声が、微かに震えた様に聞こえたのは、降り注ぎ舞い上がる花びらの悪戯か……。

「煌……、約束よ……」

 藤が騒ぐ。
 つられて周囲の木々も、哀しげな啼き声を上げた。

「――――ずっと……、一緒にいてね……」

 花びらが舞い、唇を近付けた二人の姿を隠す。

 運命の迷宮で、迷い続ける二人を……。


*****


 日曜の朝は、とても穏やかに訪れた。
 よく晴れた柔らかな陽射しが部屋の中へ射し込み、少々考えに耽る夜を過ごした総司でさえ、心静かな感慨を得ていたのだ。
 それは椿も同じだったようで、別々にしている寝室から私室へ戻って来た彼女の肩を抱いても、振り解かれる事は無かった。
 しかし、そんな穏やかな気持ちは、朝食をとる為に部屋を出た時、引き締まった物に変わる。

「おはようございます。お父様、お母様」
 ドアの前に紗月姫が立っていたのだ。供も付けず、一人で。
 いつ頃から待っていたのだろう。廊下で待機していた総司のお付きが、困った顔をして見ている。
 紗月姫は深く決意に満ちた瞳で総司を見詰めた。その目に強い意志を感じた総司が、総帥として口を開く。
「――心は、決まったか?」

 紗月姫はゆっくりと頭を下げた。

「総帥にご満足頂ける決断を、次期総帥として、心したいと思います」

 迷いは無かった。

 紗月姫の心は、決まっていたのだ。
 学を選ぼうと、五人目を選ぼうと、この心と身体は、神藤以外には渡さないと。

 紗月姫の意志表示を目の前に、総司の胸が痛む。
 ある程度の結果は、既に学との間で出ている。ただ紗月姫は、裏で何が行われていたかを知らない。
 それ故に、どれだけ泣いたのだろう。どれだけ心を血まみれにして、その痛みに耐えたのだろう。
 それでも、跡取りとしての答えを出すと決めた娘。

 総司はそっと、下げられた紗月姫の頭を撫でた。
「今朝は、とても温かく気持ちが良い。三人揃っているのだし、テラスで朝食を摂ろうか? 食後に、紗月姫のヴァイオリンを聴かせてはくれないか。――神藤に、紅茶を淹れさせよう」
 紗月姫は驚いて顔を上げた。頭を撫でられた事にも動揺を覚えたが、まさか総司自ら紗月姫の傍に神藤の同席を認めるとは思わなかった。

 だがこれは、心を決めた紗月姫に対する総司のささやかな褒美に違いない。そう解釈した紗月姫は、「はい」と素直に返事をした。
 椿が紗月姫の肩を抱き、微笑みかけて歩き出す。

 ――――運命の日が、幕を開けた。


*****


 書類を揃え、ドキュメントケースに入れる。ファイルもまとめて鞄へと入れようとして、美春はひとつ深呼吸をした。
「緊張してるのか?」
 ネクタイを結びながら、学が美春を覗き込む。照れ臭そうに笑みを作り、彼女は動揺を認めた。
「うん……、これで全てが決まるんだ、って思ったら、……どうしても……」

 学が数年かけた調査。その全てが、今日報われる。
 そして、愛し合っていても成就される可能性の無かったひとつの愛が結ばれるかの瀬戸際なのだ。美春としても、緊張せずにはいられないだろう。

「大丈夫だ。きっと、旨くいく」
 学は美春の頭を抱き寄せ、額に唇を付ける。美春はクスリと笑って学のネクタイを結び直した。
「学だって、緊張しているんでしょう? ちょっと、結び目がおかしいわ」

 学とて正念場だ。
 しかし彼に訪れているのは、清々しい緊張感。それでいて心が奮え立つ感覚。
 
 テーブルの上から車のキーを取り、学は美春が結んでくれたネクタイごと胸を叩いて口角を上げた。

「よし、美春。運命を変えに行くぞ」







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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 おいおい、早まるな~~。
 と、言いたくなるのですが。まぁ、こんな感じになってしまう二人の気持ちも分からなくはない様な。
 二人がここでかわした約束は、一見意味が無いようにも感じますが、これが後々、大きな意味を持って行きます。

 話し合いが始まります。
 ですがその前に、学が神藤の件で総司に頼みごとをしますよ。
 それは、紗月姫が蒼白になる頼み事でした。

 では、次回!!






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 大きく大きく、藤が騒いだ。 まるで強風にでも煽られたかのように、花びらの雨が二人の上に降り注ぐ。「私は、お嬢様をお守りする為に生きてきました。……お嬢様は、私の生きる理由だったのですから……。貴女を守れなくなったら、私には存在価値など無い……」 何の...
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