「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第8章≪永遠の約束≫・4

 ←第8章≪永遠の約束≫・3 →第8章≪永遠の約束≫・5

「ようこそいらっしゃいました。学さん、美春さん」
 極上の笑顔で、紗月姫自らの出迎え。
 まさかそんな場面に遭遇すると思っていなかった美春は、学の後ろで目を丸くした。
「ごきげんよう。紗月姫ちゃん」
 問題無く挨拶を返したと見える学も、ほんの一瞬躊躇したようだ。微笑む紗月姫に麗笑を返し、後ろに控える神藤と章太郎にも「ごきげんよう」と声をかける。

 辻川邸にやって来た二人は、エントランスで出迎えを受けた。
 執事やメイド達が出迎えの準備をし始めた頃から、紗月姫も一緒に待っていたらしい。
「紗月姫ちゃん、気分は? 大丈夫?」
 まだ何を明かされるか分かっていない紗月姫の事、不安のあまり憔悴し切っているのではないだろうか。美春は彼女の気持ちを考え、ずっと胸が痛む思いだった。
 しかし、当の紗月姫に憔悴した気配は無い。
「ええ、今朝はとても気分が良いのですよ。きっと、美味しい紅茶を頂いたせいです」
「紅茶……?」
 美春は小首を傾げるが、すぐにその理由に気付いた。
 紗月姫がチラリと視線を配した場所には、神藤の姿がある。学と言葉を交わした彼は、微かな視線を感じて紗月姫へと視線を移し微笑したのだ。

「……良かった」
 二人がかわす視線の邪魔にならぬよう笑みを浮かべ、美春は小脇に抱えていた書類ケースを胸に抱いた。
(大丈夫……。うまくいく……)
 希望も共に、胸に抱いて。


*****


「早速、始めようか」
 遅れて総司が客間へ入り、開始を宣言する。しかしその言葉に、紗月姫は驚いて美春との会話を中断させた。
 話し合いの場に集まっているのは、紗月姫の他に学と美春、椿、そして、今入室した総司。
 使用人などの人払いは済んでいるが、主人である紗月姫の大切な決め事だからという理由から、神藤と章太郎のみが入室を許可され、入口に近い壁側で待機をしている。
 しかし、この状態で始めるには、一人足りなくはないか。

「お父様、五人目の方がまだいらっしゃっていませんわ」

 今日は五人目を紹介すると言われている。だが本人は見当たらない。これでは無駄ではないのか。疑問を投げる紗月姫に、学が応えた。
「大丈夫だよ。五人目は、これから俺が紹介するんだ」
「……五人目の方は……学さんの御紹介なのですか?」
「ある意味ね」
 紗月姫にニヤリと笑い掛けてから、学は総司に視線を移す。
「五人目を紹介する前に、やって頂きたい事があります」
「何だい?」
ある程度の予想はついているだろう。それを踏まえ、学は壁側で待機をする神藤に目を向けた。

「神藤さんの“お世話役”としての任を、今すぐに解いて頂きたい」

 その言葉は紗月姫を驚かせた。咄嗟に言葉を発しようとした唇は震え、膝で握り合わせた手には汗が滲む。
 突き刺すような学の視線を受け止め、神藤も神妙な表情で彼を見据えている。

「神藤、こっちへ」
 総司は学の要求を呑んだようだ。神藤を呼び寄せる総司に、紗月姫はもちろん反抗した。
「待って下さい、お父様……。私は、本日婚約者を明確にすると言った訳ではありません。……まずは、五人目の方を紹介して頂いてから……」
「その五人目を紹介する為に、彼が“お世話役”のままでは困るんだ」
 すかさず口出しして来た学を凝視し、紗月姫は彼女らしくないくらいの動揺を隠す事が出来ない。
「……意味が……、分からないわ……」
 蒼白になる彼女を間近で見ながら、美春は膝の上に置いた書類ケースを握り締めた。

 紗月姫の考えとしては、選択期間として与えられている一カ月間を、全て使い切りたかった。
 学を選ぶか、不明の五人目を選ぶか、決定を下すにはまだ三週間ほどの時間があった筈だ。
 期間内、許される限り、お世話役としての神藤と繋がりを持っていたかった。だが、今、彼の任を解かれては、彼はただの“お付き”となり、状況的に今以上関わりを持てなくなってしまう。

 総司が腰を下ろす椅子の横に立った神藤にも、蒼白になってしまった紗月姫の姿は目に入った。
 以前ならば、すぐに抱き上げて「御気分が優れない様ですので、退室の御許可を」と総司に願い出ていたところだ。だが、その権利を彼は失っている。紗月姫の為に特別な行動を起こす事は、許されないのだ。
 何も出来ない自分など、今すぐにでも心臓を握り潰して果ててしまいたい。胸の痛みに耐えながら、神藤は切望する。

 傍らに立った神藤を見上げ、総司は型通りの言葉を口にした。
「お前の、“お世話役”としての任を解く。十八年間、御苦労だった。紗月姫に付き添い、常に守り続けたお前の働きは素晴らしいものだった」

 神藤は、ゆっくりと頭を下げる。
「……有難うございます。……旦那様……」
 それ以上の言葉が出てこない。続いて彼は、身を乗り出した椅子から崩れ落ちそうになっている紗月姫へ身体を向け、再度深く頭を下げた。
「お傍に付かせて頂きました十八年間、光栄で御座いました」

「……しんど……っ!」
 声を震わせ、紗月姫は立ち上がろうとする。それを止めたのは美春だった。素早くソファから立ち上がり、抱きすくめる様に紗月姫を抑えたのだ。
 押さえられても、紗月姫は美春を見ない。悲しみに潤んだ瞳は、踵を返し立ち位置へ戻る彼の姿を追い、身体は小刻みに震え続けた。
「しっかりして。紗月姫ちゃん」
 耳元で紗月姫を叱責し、美春は立ち上がり掛けた彼女を椅子へ戻した。
「これから学がする話を、シッカリと聞いて」

 美春は紗月姫から離れると、ずっと握り締めていた書類ケースを開く。

 そしてそれに合わせる様に、学が運命の扉を開いた。

「俺が紹介する五人目は、D王国の王族である青年です」







人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 心を決めてはいても、今すぐ離されるとは思っていなかった分、ショックは大きいですよね。
 絶望に苛まれる二人ではありますが……。
 
 大丈夫。

 学に話を進めてもらいましょうね。

 では、次回!





 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第8章≪永遠の約束≫・3】へ  【第8章≪永遠の約束≫・5】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第8章≪永遠の約束≫・3】へ
  • 【第8章≪永遠の約束≫・5】へ