「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第8章≪永遠の約束≫・6

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 学は身体を横にして神藤に道を開ける。
 彼が「どうぞ」と促す手の先には、美春と椿に見守られた紗月姫が、椅子から動けないまま彼を見詰めている。
「……お戯れを……」
 いきなりの事態が呑み込めないまま、神藤は学に意見した。
「学様……、御冗談が過ぎます。五人目の御方は、どこにいらっしゃるのですか」
「ここにいるよ。俺の目の前に」
「学様……! 私は、そのような身分では……」
 反抗を見せる神藤の腕を掴むと、学は無理矢理彼を部屋の中へ引き込み、ドアを閉める。
「貴方は、生後一ヶ月の頃、王宮から連れ出された。国の政権争いに巻き込まれた御両親が、命懸けで貴方を逃がしたんだ」

 衝撃の事実に、神藤は口をつぐむ。息を呑む彼に、学は真実を告げた。
「日本に連れて来られた貴方は、不遇にも劣悪な環境下で育った。自分が何者であるかも知らないまま、けれど、決して貴方は卑しい生まれの人間などでは無い」
「ですが……」
「貴方の内面から滲み出る品位は、その血筋ゆえの物だ。誰に貴方の出生をお披露目しようと、納得しない者などいないでしょう」

 学の正眼が、まだ微かな戸惑いを見せるグレーの瞳を射抜く。
 彼の切望は、神藤の頑なな心を動かした。

「認めて下さい、神藤さん。――紗月姫ちゃんの為にも」

 学と話す神藤を見詰めたまま、紗月姫がゆっくりと椅子から立ち上がる。
 ぐらつく身体を前に出し、足が地に着いてはいない感覚を堪え、紗月姫は数歩だけ彼に近付く。
 まだこの状況が信じられない。その気持ちが、紗月姫を神藤の元へ駆け寄れなくさせている。しかし、そんな彼女の背を叩き、言葉をかけたのは総司だった。
「どうした紗月姫。五人目は紹介されたのだぞ? 不満か?」
「……いえ……、そんな……」
「私は神藤を、五人目として認めた。その決定に、異存は?」
「……お父様? 本当に?」
「身分も出生もさる事ながら、神藤は仕事も出来る。辻川の内情にも精通している。候補として、何か問題があるかな?」

 紗月姫は神藤を見詰め、視線を絡めた。
 神藤も紗月姫を見詰めている。紗月姫だけを、グレーの瞳の中に閉じ込めている。
 総司は二人を交互に見て、ふっと苦笑いを漏らした。
「私は、言っておいた筈だぞ、紗月姫。五人目を紹介した時点で決めてしまえるのならば、その場で婚約者を決めてしまえと」
 視線を流し神藤を見た総司は、少々意地の悪い表情を見せる。
「まさかとは思うが、辞退をするなどという愚かな事は考えていないだろうね? 今断れば、“次”は無い。そうなれば、君の出生を暴く為に奔走した学君の苦労も水の泡だ」
 軽く笑い声を上げる総司の姿に苦笑して、学は神藤の横に並び、紗月姫に笑いかけた。
「すまなかったね、紗月姫ちゃん。色々と君を煽って、随分と悲しませてしまった事だろう。最初に神藤さんをお世話役から解放してもらったのも、“お世話役”という従者のままでは、君の婚約者候補にはなれないからなんだ」
 チラリと横目で神藤を一瞥するが、彼は紗月姫しか見てはいない。学は後押しをする意味で、彼の背をポンッと叩いた。
「候補になる事を、了解して頂けますね? 神藤さん」

 一連の話を、神藤はまだ信じる事が出来ない。
 まるで夢の様な話ではないか。
 不遇の生い立ちを背負っていたはずの自分が、実は一国の王族だったというのだ。
 もしかしてこれは学が仕組んだ冗談で、暇潰しの余興であるのではないのだろうか。
 そんな疑いさえ持ってしまうのだ。

 ――――だが……。
 これが冗談か余興でも良い。
 紗月姫を愛せる、きっかけを与えてもらえるのならば。

 神藤の心は決まった。

「紗月姫お嬢様の、婚約者候補としてご指名頂きました事、光栄に存じます」

 神藤の決断に調子付いた学は、不敵な笑みを浮かべ、紗月姫を煽った。
「さて、紗月姫ちゃん。二択だ。俺と神藤さん、どちらを選んでくれる?」

 総司が紗月姫の肩を押す。
 弾かれるように二人の前へ進み出た紗月姫は、神藤だけを見詰めて瞳を潤ませた。
「……私は……」
 
 これは、夢ではないのだろうか……。
 愛してはいけなかった筈の人が、婚約者候補として目の前に立っている。正しく、夢のような光景だ。
 だが紗月姫は、夢でも良いとさえ思う。
 これが夢なら、もう二度と目を覚ます事無く眠り続けよう。
 愛しい人を心のままに愛する事を許された幸せを、夢のまま感じ続けよう。

「神藤煌を、婚約者として選びます」

 夢の中ででも、口にした事など無い言葉。
 自然と幸せな笑みが漏れると、ずっと彼女を見詰めていた神藤の顔もほころんだ。

「神藤……!」
 紗月姫が両腕を伸ばす。恐らく彼女は、その喜びのまま神藤に抱き付こうとしたのだろう。
 しかし紗月姫が抱きつく前に、神藤が彼女をさらい上げるように抱き締めたのだ。

「……お嬢様」
「神藤……、神藤……」
 力強い腕に抱き締められたまま、紗月姫は心のままに彼を呼び、抱かれ慣れた身体にしがみ付いた。
「神藤……」

 紗月姫が神藤に寄り添う姿は、傍にいる者なら見慣れた姿だ。
 しかしどう見てもこの抱擁は、いつもとは雰囲気が違う。
 そのせいか、総司は父親として少々照れ臭くなってしまったのだろう。気まずそうに、二人から視線を逸らしてしまった。
 すると、小さな笑みを漏らし、椿が近寄って来た。
「どうしたのですか? ご覧下さいな。紗月姫の幸せそうな顔」
「あ、ああ……、さっき見たよ……」
 気まずそうにしながらも、総司の口元には笑みが浮かんでいる。
 椿は彼に微笑みかけ、褒美を口にした。

「父親として、とても素晴らしい意志を見せて頂きました。これで、紗月姫は幸せになれますわ。――有難う、総司さん」

 総司は希望を込めて、チラリと椿へ視線を預ける。
「私は、君に、許して貰えたのかな?」

 椿はにこりと麗笑した。
「はい」

 ――――ここにも、幸せはやって来たようだ。








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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 これが例え夢であっても構わない。
 そんな気持ちで手を取り合った二人。
 その瞬間、長かった悲恋は、終わりを告げました。

 総司も今回の一件を許して貰ったようです。

 ホッと一安心ですね。^^
 今回の功労者である学が、大切な“約束”の話をしてくれますよ。

 では、次回!!




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 学は身体を横にして神藤に道を開ける。 彼が「どうぞ」と促す手の先には、美春と椿に見守られた紗月姫が、椅子から動けないまま彼を見詰めている。「……お戯れを……」 いきなりの事態が呑み込めないまま、神藤は学に意見した。「学様……、御冗談が過ぎます。五人目...
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