「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第8章≪永遠の約束≫・7

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 紗月姫も神藤も、自分達が置かれたこの状況を夢のように感じていた。
 閉じ込め続けた心。
 決して伝える事を許され無かった愛。
 禁戒を冒し、重ね続けた逢瀬の先に有ったのは、互いに寄り添えなくなるのなら、この命を絶ってでも寄り添い合おう。――そんな、愚かしくも哀しい、美しい結末だったというのに……。

 それなのに、長年禁じられた想いを抱き続けた相手が目の前にいる。
 愛し合う事を許された人間として……。

「お嬢様……、有難うございます。私を選んで下さって……」
 強く紗月姫を抱き締めたまま、神藤が囁く。彼の声は感嘆に震えていた。
「何を言うの……。あなた以外、誰を選ぶの……?」
 そして同じように、紗月姫の声も震えていたのだ。
 それが、嬉しさであるのか、感動であるのか、達成感であるのか。
 二人は強烈な興奮の中で、抑え切れないほど精神の解放を感じていた。

 神藤の瞳が、いつも以上に愛しさを湛えて紗月姫を見詰める。
 その視線を至福の中で受け取り、紗月姫は神藤の髪に指を絡め握り締めた。
 冷たい彼の雰囲気を和らげる、柔らかな癖毛。まるで藤の花びらを握り締めているかのような心地良さは、紗月姫に安息をもたらす。
「神藤……、ずっと、一緒にいてね……」

 紗月姫は繰り返す。
 藤棚でかわした約束を。

「はい……。お嬢様」

 もしもここに二人きりであったなら、二人は間違いなく唇付けをかわし、この感動が冷めるまで抱き合って離れなかったに違いない。
 だが、今はそんな訳にもいかない。分かってはいても離れられない紗月姫の肩を抱き、神藤は学へと向き直った。
「学様、有難うございます」
 神藤に続き、紗月姫も学への礼を口にする。
「有難う、学さん。……こんな、凄い調査をしてくれていたなんて……。私、全然気が付かなくて……。学さんに、随分と酷い事を……」
 彼女らしくない程に恐縮するその姿を見て、学は口角を上げる。腕を組み、斜に構えると、ひとつ溜息をついた。
「何ていうか、俺はさ、約束を反故されるのが嫌いなんだよ」
 紗月姫は小首を傾げる。すると学は、神藤を鋭い視線の中で見据えた。
「神藤さん、覚えていますか? 俺とした“約束”を」
「約束……」
「四年前にした約束です。よもや、忘れたとは言わせませんよ」
 学が何の話をしているのか分からない紗月姫は、不安な瞳で神藤を見上げる。彼女の肩を優しく叩き、神藤は答えた。
「……一生、お嬢様を守ると、お約束した件ですね?」

 満足な答えに、学が微笑む。
「覚えていてくれただけで、俺の苦労も報われるよ」

 四年前、二人は約束を交わした。
 妹のように愛しんだ愛従妹。しかし学は、どんなに可愛がっても、総司が望んでいたように彼女を見守り続ける事は出来ない。
 紗月姫と神藤の間に流れる想いに気付いていた学は、神藤と約束を交わしたのだ。「紗月姫ちゃんを、一生守ってやってくれ」と。
 学にとっての“世界”が美春なら、神藤もまた、紗月姫は彼にとっての全てだ。
 その時の神藤は、もちろん“従者として”という意味に取っていただろうが、学としては違う意味合いでの希望を持っていた。

 一生守り続けると、神藤が学に誓い、約束は成立した。

「あの時の約束を守ってもらう為には、神藤さんに紗月姫ちゃんの傍を離れてもらう訳にはいかない。だったらいっそ、一生離れられなくしてしまえば良い。そう思い、約束を守ってもらう為に頑張ってみました。これで、約束を反故されずに済む。ホッとしたよ」

 何処か軽い口調は、学がおどけている事を知らしめる。勿論彼の心根に気付いている紗月姫は、小さく笑って悪戯な瞳で学を睨み付けた。
「学さん、気障過ぎますよ」
 すると学は、斜に構えた肩を竦め、紗月姫を指差したのだ。
「ふふんっ、でも、俺がやるとカッコいいだろ? おしいなぁ、紗月姫ちゃん、やっぱり俺の方がカッコイイとか後悔してない?」
 紗月姫は笑いながら、向けられた指をパンっと払った。
「人に指を向ける礼儀知らずは嫌いです」

 叩かれた手を横に振り、“痛かった”と大袈裟なリアクション。一通りおどけて見せてから、学はフッと真顔に戻りその手を紗月姫の頭に乗せた。
「――今まで、紗月姫ちゃんには随分と世話になった。昨年、ウチの会長が事故に遭った時も、力を貸してもらったしな。俺は、沢山の借りを君に作っていた。……少しでも、それを返したかったんだよ。……少しは、返せたかな?」
 大きな手がスルリと頭を撫で、その動きが数回繰り返されると、紗月姫は幼い日の思いが込み上げ胸が熱くなる。
 幼い頃、よくこうして頭を撫でてもらった。
 紗月姫が成長する事で、学も子供扱いが出来なくなり頭を撫でる事も無くなっていたが、このくすぐったい行為が紗月姫は大好きだったのだ。
 優しくて、快活で、大好きだった従兄。
 その利発さに尊敬さえ覚え、彼に近付きたい、一緒に並んでも引けを取らない人間になりたいというライバル心さえ、幼い紗月姫に起こさせた。
 神藤と同じように紗月姫を想い、身内としての愛情を惜しみなく与えてくれていた男性。

「充分すぎます……。私が、借りを作ってしまいました……」
 頭を撫でていた学の手が頬を撫でる。紗月姫はくすぐったそうに肩を竦め、彼の手を挟んだまま泣きそうな笑みを浮かべた。
「……大好きです……学お兄様」

 幼い頃の呼び方を口にして、紗月姫は瞳を閉じ、涙の流出を防いだ。


 至福に満ちた神藤と紗月姫。そして、大仕事を終えようとしている学を見詰め、美春は静かに彼の傍らへと近付いた。
 学の手は紗月姫の頬から解放され、もう一度頭を撫でようとするところで止まる。
「おっと、あんまり“婚約者”の前で紗月姫ちゃんにベタベタ触ったら睨まれるな。それじゃなくても、俺は良く触るんで睨まれているしな」
 言葉無く苦笑する神藤を見てニヤリと笑い、学は彼に顔を近付けた。
「まぁ、神藤さんも、俺の“婚約者”を抱っこした事だし。おあいこ、という事で」

「ちょっとっ、学っ」
 例の“お姫様抱っこ”事件の事を言っているのだろう。美春が慌てると、学は素早くその肩を抱いて笑い声を上げる。
「もぅっ、こんな時に言う事じゃないでしょうっ」
「いいだろ、俺だって大事な女の身体に俺以外の男が触ったら、文句も言うさ」
「なっ、何だかいやらしいわよ、その言い方っ」

 じゃれる二人を見て緊張が解けたのだろうか。紗月姫はクスリと笑って美春へ問いかけた。
「美春さん、お聞きしたい事があります」
「何?」
「不安では無かったのですか? 例え学さんがやっている事に自信があったとはいえ、私の婚約者候補になるなどというお話をされたのでしょう?」

 すると美春は艶やかな笑みを浮かべ、惑い無く気持ちを口にしたのだ。

「私の学は完璧よ。彼のやる事に、間違いなんて無いの」

 紗月姫は目を瞠る。だがすぐに、心高鳴るほどの笑みを見せた。

「素敵です、美春さん」

 瞼を閉じても、今度は感動の流出を止める事は叶わなかった。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 学と神藤の“約束”は、第2部でかわされたものです。
 ここに来て、やっとそれが果たされた事になりますね。
 名実ともに、神藤は、一生紗月姫を守る権利を得たのですから。

 「ウチの会長が事故に……」というのは第7部の話ですね。
 あの時も「いつか借りは返す」と学が口にしています。
 紗月姫が言う通り、大き過ぎるお返しを貰った彼女。
 いつか、この大き過ぎるお返しの「お釣り」を、支払ってくれる事でしょう。

 “お姫様抱っこの恨み”(笑)も返し、美春のひと言も出たところで……。
 そろそろ、幸せいっぱいの二人は、二人きりにしてあげたいですね。^^

 では、次回!




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 紗月姫も神藤も、自分達が置かれたこの状況を夢のように感じていた。 閉じ込め続けた心。 決して伝える事を許され無かった愛。 禁戒を冒し、重ね続けた逢瀬の先に有ったのは、互いに寄り添えなくなるのなら、この命を絶ってでも寄り添い合おう。――そんな、愚かしく...
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