「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第8章≪永遠の約束≫・8

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 感動で泣き出した紗月姫を軽く胸に抱き、神藤はハンカチを取り出して彼女の涙を拭いた。
「あまり泣くと、目が蕩けてしまいますよ」
「だって……。幸せなのですもの……。嬉しくて涙が出て来るの……。神藤は、嬉しくは無いの?」
「嬉しいですよ。他に誰もいないのなら、お嬢様に抱きついてわんわん泣いてしまいたいところです」
 有り得ない彼の言葉に、紗月姫はクスリと笑みを漏らす。それ以上に、想像までしてしまったらしい美春が軽く噴き出したのを見て、学は吐息しながら総司に話しかけた。
「叔父さん、もういいでしょう。二人を休ませてあげて下さい。神藤さんにも、俺が調査した内容をよく読んでおいてもらいたい事だし」

 総司は満足げに頷き、壁側で呆然としている章太郎へと近付く。
「驚いたか、章太郎」
「……はい……」
 章太郎は二の句が繋げない。だが彼は、ひとつ大きく吐息して「ですが……」と言葉を繋いだ。
「神藤ならば、不思議には感じません。彼はいつだって、逸脱した雰囲気を持った男でしたから」
「お前が将来、正式に執事としての地位に就く時、神藤煌は、お前の主人になる。――異存は?」
「ありません。お嬢様や旦那様が選んだ男です。異存などあろう筈がありません。彼で良かったとさえ思います」
 章太郎に笑顔が浮かぶ。今彼の心には、喜びが満ち溢れていた。
 長い間報われなかった二人を、章太郎も知っている。
 今回の事で、二人は誰にも咎められる事無く、手を取り合えるようになったのだ。

「では、章太郎。お付き達を集めろ。まずは、神藤の部屋を元に戻す」
「元に……ですか?」
「部屋を離しておく必要はもう無い。元に戻せ。すぐに、だ」
 移動させられていた神藤の部屋を、以前通り紗月姫の部屋の隣へ戻すのだ。章太郎は「はい!」と張り切った返事をすると、部屋を飛び出していった。
 次に総司は、紗月姫と神藤の元へ近付く。
「神藤、落ち着いたら、色々とこれからの事について話をしよう。取り敢えずは、通常、お前は今まで通り紗月姫のお世話役として振舞ってくれ」
「分かりました」
 出生が明らかになり婚約者になったとはいえ、すぐに扱いを変える訳にはいかない。
 今までの身分や立場的な物を考えれば、周囲にお披露目をするにしても、段階を踏まなくてはならないのだ。

「紗月姫が夏休みに入ったら、婚約披露をしよう。結婚式は、紗月姫が高校を卒業したらすぐだ」

「おっ、お父様っ」
 急な総司の提案に、紗月姫は涙も止まるほど驚いた。
 かと思えば、両手に調査書類ファイルを携えた椿がやって来て、更に驚く言葉を口にする。
「いきなり決められては驚いてしまうわよね? 私も、急いでウエディングドレスのデザイナーを選ばなくては」
「おっ……、お母様っ」
「どうしようかしら? 数年前に紗月姫がフランスから連れて来た人はどう? フランスへ戻った後も活躍なさっているようだし。楽しみだわ、何着くらい作らせようかしら」
 何か意見したげに口を開く紗月姫をやり過ごして、椿は神藤を見上げた。
「神藤、あなたもよ? 紗月姫に合わせて、お色直しをしてもらいますからね。お酒を飲みながら談笑している暇なんて無いわよ? 覚悟なさい」
「は……、あ、はい」
「目立つであろう学君より素敵に仕上げて、『私の息子』って、さくらさんに自慢するの。神藤は綺麗だから、楽しみだわ」
 本当に楽しみらしく、椿はとても嬉しそうだ。差し出されたファイルを受け取り、神藤も反論が出来ない。
 急展開で話を進められてしまっている事、そして、長年当主夫人として従ってきた椿に「私の息子」などと言われてしまった照れ臭さが、出てしまったのかもしれない……。

 そして、はしゃぐ椿など珍しい。そんな妻を見られただけでも、総司は気分が良いのだろう。意気揚々と紗月姫と神藤の肩を叩いた。
「部屋が移動完了するまで、紗月姫の部屋で待機をしていると良い。いや、まだ陽も高いから、二人で出掛けて来ても良いのではないか?」
 早く二人きりになりたいのも本音だろう。遠慮なく「はい」と返事をした神藤は、意味ありげな視線を投げて来る紗月姫に気付いた。
 何かを強請る目は、見慣れた表情を作る。その意味をすぐに悟り、彼は迷い無く紗月姫を抱き上げたのだ。

「では、失礼致します」
 急ぐように頭を下げ、素早く身を翻して部屋を出ていく。二人の後ろ姿を見送り、美春が笑った。
「王子様が、お姫様をさらって行ったわ」

 部屋の中に和やかな笑い声が満ちる。
 笑いながらソファへと戻り、大きく安堵する総司と椿を確認してから、美春は学へと微笑みかけた。
「……お疲れ様、学」

 学は微笑む美春の唇を指で撫で、充実感に溢れた笑みを作る。
「これで、美春が泣かなくて済む。俺も大満足だ」
「本当にここまで来たなんて……。信じられない……」
 美春は今回の騒動を思い返した。
 学が神藤を調査していると聞かされてから、賭けが始まり、婚約破棄騒動があって。美春が狙われ、賭けの決着がつき、全てが明らかにされた。
 あの頑なだった総司の気持ちを懐柔し、幸せな結末がやって来たのだ。
 夢の様な結末だ。こんな結果が出るなどと、去年までは考える事も出来なかった。

「言っただろう? 美春」
 学は安堵する美春の顎を撫で、掬う。
「運命は、変えられる」

 それは、学がずっと口にし続けていた言葉だ。
 彼は改めて、強く断言する。
「あの二人は、結ばれる事を許されない運命の元で迷い続けていただけだ。けれど、宿命は二人を認めている。だから、変える事が出来たんだ」

 生まれた時に定められるのが、運命。
 生まれる前から決められているのが、宿命。

「宿命の中で運命は廻る。――運命は、変えられるんだ」

 そして、学の言葉を聞きながら、美春は確信をする。

 学と自分も、きっと、宿命で結ばれているのだ、と。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。 
 ラストで学が言った言葉は、『迷宮~』側でも出て来たものですが……。
 この言葉、私的に好きなんです。^^
 「運命の恋愛」とか、作品のあらすじには使っていますが、二人の関係は宿命級だと、一人納得しております。(笑)

 もう結婚式の話題まで出ちゃってます。(*´艸`*)
 先に婚約披露ですよね。椿も嬉しいんですね。
 そうそう。ちらりと噂が出た“以前フランスから連れて来たデザイナー”さん。
 これは、6部に出て来た「彼女」の事です。

 やっと解放してもらった二人。
 せっかく二人っきりになれたのに、何故か紗月姫が怒ってしまいます。
 どうしてでしょう?

 それは、次回!!




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 感動で泣き出した紗月姫を軽く胸に抱き、神藤はハンカチを取り出して彼女の涙を拭いた。「あまり泣くと、目が蕩けてしまいますよ」「だって……。幸せなのですもの……。嬉しくて涙が出て来るの……。神藤は、嬉しくは無いの?」「嬉しいですよ。他に誰もいないのなら、...
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