「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第8章≪永遠の約束≫・10

 ←第8章≪永遠の約束≫・9 →第8章≪永遠の約束≫・11


「今回は、色々とすまなかったね、美春さん」
 総司に謝罪され、和んでいた美春の気持ちは張り詰める様に引き締まった。
「これからも親族として、宜しくお付き合い願いたい。それと、貴女に懐いている紗月姫の事も、今まで同様気にかけてもらえればと」
「それは、当然の事です。私の方こそ、総帥には色々と御教授願えればと思います」
 手にしていたティーカップを置き、ソファに腰を下ろしたまま背筋を伸ばして改まると、横でコーヒーカップを傾ける学が忠告をする。
「……総司叔父さん、サドだから、やめておけ」
 暴言に美春は驚くが、間髪をいれず総司がやり返した。
「学君には負けるよ。今回は私が苛められてばかりだ」
 傾けたシノワズリの片隅から、悪戯に椿へと向けられる視線。しかしその視線は絡めてもらえる事は無く、彼女が微笑むアプローチだけを捉えた。

 神藤と紗月姫が出て行ってから、三十分は経っただろうか。
 神藤の部屋を元に戻すという大作業がなされている中、二人は一緒に調査書を読み、彼の出生を確認しながら長い話をしている事だろう。
 ――名前で呼ぶ、呼ばない、でプチ痴話喧嘩をしているとは思わない美春は、そんな事を考えつつ、学と共に辻川夫妻のお茶の相手を務めていた。
 そこで、今回の一件を謝られてしまったのだ。

「いや、本当のところ、お詫びをしなくてはならないと思っているのだよ。そうだな……、美春さん名義でマンションか別荘でもプレゼントしようか」
「とっ、とんでもないですっ。別にどこか怪我をした訳ではありませんし……」
 ケタの違うお詫び内容に、美春は両手を胸の前で振って慌てる。
 以前、紗月姫にも同じような事を言われたのを思い出した。

(流石に親子。スケールが同じっ)

「遠慮はしなくて良いのだよ? ほら、学君と喧嘩をした時用にでも、ひとつ持っておけば良い」
「叔父さんっ」
 使用方法を指定した総司に、学は少々強い反抗を見せる。
「俺は、喧嘩をしても家を出て行かせる様な事はしませんよ」
 総司の横で椿が小さな笑声を漏らした。笑いの理由に覚えがある総司としては、苦笑いしか出てこない。

 一と椿の“実家に帰れ・帰らない”という兄妹喧嘩事件を目の前で見てしまった美春としては、光景が思い出されてしまい笑いが込み上げそうになるのだが、ひとまずそれは自重した。

「紗月姫ちゃんと神藤さんを認めて頂けたのですから、私はそれが一番嬉しいです。それだけで、私が総帥に感謝したいくらいなんですよ。有難うございます」
 笑顔で礼を口にして頭を下げる。美春の素直な態度に好感を持ち、思わず笑顔が出てしまった総司ではあったが、不意をついて彼女の攻撃を受けた。
「あっ……、こんな事を言うから、私は他人の事じゃなくちゃ動かないって言われてしまうんですね」

 美春の弱みを利用した総司ではあったが、利用した事を茶化されてしまった。
 美春のひと言で総司がどんな手を使ったのかを悟った学は、半眼で総司を見る。
「じゃぁ俺も、今度総司叔父さんに強烈なお願い事がある時は、椿叔母さんをタテに使いますよ」
 ギョっとする総司にはお構い無く、椿はにこやかに笑った。
「いつでも、どうぞ」
 総司はまだ、少々苛められているようだ。


*****


 和やかなお茶の時間を終え、総司と椿に別れを告げた二人は、帰途につく前に辻川家の温室へと立ち寄った。
 もちろんやって来たのは藤棚の前だ。
 美春が言ったのだ。「藤が見たい」と。

「綺麗ね……」

 当然のように口から零れる称賛。
 巨大な藤棚に、咲き狂う藤。
 薄紫色のカーテン。零れ落ち、舞い漂う花びらの雨。

 美春は学に腕を絡め、キュッとしがみ付いた。
「……怖くなるわ」

 ザァ……っと、藤がざわめく。
 怖くないよ。もっと、その目で見詰めて……。
 そう言っているように思ってしまったのは、気のせいなのだろうか。

「この藤は、何年経っても変わらない。俺も幼い頃から見ているが、いつでもこうして美しい姿を満開にしている。……まるで、何かを見守る為に、懸命に命を繋いでいる様にも感じるんだ」
 学の言葉を聞きながら、美春は初めてこの藤棚を見た日を思い出す。
 美しさに圧倒され、この藤棚で出会った二人の悲しい話を聞いた。
 あの時から今まで、この藤には悲しみのイメージしかなかった。
 しかし何故だろう。久し振りに見た今日、藤は美しく嬉々として輝いている様にも見える。

「紗月姫ちゃんと神藤さんは、……この藤の下で出会ったのね」
 藤を見詰める美春の目に、藤棚の下で想いを積み重ねて来た二人が見えるようだ。
 表には出せない儚い想いを胸一杯に秘めて、降り積もる花びらと同じくらいの心を積み重ねてきた。
 重なり過ぎて、崩れ落ちそうになりながら……。
 時に、想いの花びらを、零せない涙で濡らしながら……。

 それは、決して叶う筈の無い悲恋だったのに……。

 
 藤を見詰め、ふるりっと身震いをした美春の肩を抱き寄せた学も、同じように薄紫の雨を見詰める。

「ここは、あの二人が始まった場所だ。……俺達にとっての、サンルームみたいなものだな……」

 光射すサンルームで出会った学と美春。
 そこで約束を交わした二人。

「じゃぁ、ここは、あの二人にとっての“約束の場所”なのね」

 藤が優しくさざめく。
 “そうだよ”と言ってくれた様な気がして、美春は微笑した。

 紗月姫がこの場所で“藤と話をする”と言う意味が、分かったような気がする。

「学、もう、出ましょう? 私も、早く二人きりになりたいわ」
「今も二人きりだろ?」
「クスッ……藤が、見てるわ」

 肩を抱かれたまま、藤に背を向ける。
 背後で、見送る笑い声を感じるのは何故だろう……。
 もしかしたらこの藤は、紗月姫と神藤を見守る為に咲き続けているのではないか……――。

 美春はそんな、想像をした。








人気ブログランキングへ

**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 穏やかなお茶の時間に、美春と総司も仲直り(?)です。
 総司はちょっと攻撃されてしまいましたけど、これくらいは許して貰いましょう。(笑)

 大仕事を終えた二人。
 学と美春も、二人きりにしてあげましょうね。

 では、次回!!






 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ 3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 撫子花恋綺譚
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第8章≪永遠の約束≫・9】へ  【第8章≪永遠の約束≫・11】へ

~ Comment ~

いつも楽しく拝見しています。
美春ちゃんを裸にした水野サンへのお仕置き!?はないのですか?
私的には、たまに頼んでいる手合わせを水野さん指定でやる所を見たい気がします☆

Re: タイトルなし(匿名さんへお返事です6/19)


 こんにちは。^^

 章太郎さんは、美春ちゃんのお願いを聞いてくれた事と、椿さんのお陰で放免かなぁ……。(^^ゞ

 でも、章太郎さんで手合わせ、も良いですねぇ。
 学君と神藤さんが互角レベルなので、何となく結果は見えていますが。(笑)

 楽しそうなので、絡めて何か考えてみたいですね。(*´艸`*)(←お仕置き好き)

 有難うございました!

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめtyaiました【第8章≪永遠の約束≫・10】

「今回は、色々とすまなかったね、美春さん」 総司に謝罪され、和んでいた美春の気持ちは張り詰める様に引き締まった。「これからも親族として、宜しくお付き合い願いたい。それと、貴女に懐いている紗月姫の事も、今まで同様気にかけてもらえればと」「それは、当然の事...
  • 【第8章≪永遠の約束≫・9】へ
  • 【第8章≪永遠の約束≫・11】へ