そうだ、君にキスしよう

第6話・隣の席、座らせてもらいます

 ←第8章≪永遠の約束≫・13 *R18 →第8章≪永遠の約束≫・14 *R18


「い、いいわよ、田島君。私、観ていられるから……」
 腕を引かれながらも、涼香は一応の遠慮を見せる。
「駄目だよっ。寝不足と疲れはお肌の大敵だよ。りょ、涼香さんの綺麗な肌が荒れたら、オレ、悲しいしっ」
 せっかく話す機会を得たのに、ここで引き下がる訳にはいかないのだ。信は懸命に休む事を涼香に勧める。――この機会を逃すまいと彼も必死である為、いささか意味不明な説得である事は否めない。

(ああっ! もう、何言ってんだ、オレ!!)
「とにかく、行こ、行こ、ほら!」
 言葉で上手く伝わらない場合は行動あるのみ。涼香の手を掴み、信はどんどん後ろの席へ移動していく。

 それを見て、いささか呆気に取られているのは学と美春だ。
 とはいえ、二人の思惑は全く違う。
 美春は、涼香が後ろの席で居眠りをしている現場を先生に見つかりそうになった時、誤魔化す役目が信で本当に大丈夫だろうかと疑いを持ち、学はといえば、涼香を誘う信の手際の悪さに、ただただ苦笑いを抑えられずにいたのだ。

(田島君は、学と違って誠実で一生懸命だし、大丈夫かぁ……)
 学が聞いたら男泣きしそうな事を考え、美春は気持ちを切り替える。スカートのポケットをごそごそと探ると、ガムケースを取り出した。
「学さぁ、ガム食べる? これ、眠気が覚める奴だよ。アンタ、映画鑑賞の時っていっつも寝ちゃうから」
「おっ、流石美春は気が利くなぁ。どれどれ、ご褒美にチューしてやろうな」
「うるさい、やめろ、アホ」
「いーじゃん、チューしよ、美春ちゃんっ」
「枕とでもしてなさいよ。このエロ男っ」
「分かったっ。じゃぁ、枕に美春の顔プリントしとく」
「全力で阻止させてもらうっ」

 何だかんだとじゃれる幼馴染。信にとっては、例えそれが喧嘩でも羨ましい。
 しかし、いつも羨ましさいっぱいの彼は、今自分の事で精一杯。他人を見ている余裕はない。
「ほら、そっちに座って。暗くなったら寝ちゃっていいよ」
 視聴覚室の一番後ろの席に陣取り、涼香が反抗をするよりも早く椅子に座らせ、当然の如く隣に座る。
「遠慮しないで。オレ、ちゃんと見張ってるから」
「あの……、田島君……」
 自分が言いたい事だけを言ってニコニコと笑う信に、涼香は一言物申そうとしたようだが、彼の笑顔に騙されたのか口をつぐんだ。

 勢いだったとはいえ、涼香に話しかける事が出来て、信は嬉しい。エヘヘと照れ笑いをして、ひとまず前を向く。
 視聴覚室の椅子は、扇形に位置された机の長さと合わせたベンチシート。座る位置によっては限りなく彼女に近付ける。
 学などは何気ない顔をして、美春にべったりくっつき鑑賞体制に入るが、信に同じ真似は出来ない。それでも、今出来るギリギリの位置まで涼香側へ近付いてみた。
 肩が触れる寸前の位置。今までも近付いた事が無い訳ではないが、現在の状況が状況なので、その分緊張する。
 
 視聴覚室の中はざわついているのに、信は自分の鼓動が聞こえてきそうだ。
 涼香と隣り合わせになったこの空間だけが隔離されている様な、不思議な感覚さえ覚える。

「涼香さん……あのさ……」
 ずっと黙っているのもおかしいだろう。せっかく二人きりになれたのだ。謝るには絶好の機会ではないか。
「オレ、昨日、変な事言っちゃって、……あの、……ごめんっ……」
 信は意を決して横を見る。しかし、すぐに言葉を止めた。

 こくり、こくり……。涼香が小さな舟を漕いでいる。
 長いまつげが瞼を塞ぎ、彼女の綺麗なストレートヘアが頭の動きと共にサラサラと揺れていた。

(もう、寝ちゃった……)

 まだ教室の中は明るい。せめて暗くなってからの方が担当教諭にも見つからなくて良いのではないかと焦るが、良い方に考えるなら、信を信用してくれたからこそ早々に安息体制に入ってしまったとも考えられる。
 ちょっと気持ちが浮かれかかった時、教室の照明が消された。
 スピーカーから、授業説明をする教師の声が流れる。さっきまでよりは静かになった教室内、この暗闇の中ではあるが、信はずっと涼香の横顔を見詰めていた。

(可愛いなぁ……、いや、寝顔も綺麗だなぁ、涼香さん……)

 しかし、背凭れは有るが座ったままの体勢での居眠りは辛くないだろうか。せめて机に突っ伏して寝た方が楽だったのではないか。涼香の寝方に不安を感じ、信は心配で堪らない。
 ――だが、心配は要らなかった……。

 彼女の身体がぐらりっと揺らぐ……。

 これは、神様の悪戯か。
 はたまた、母へのお祈りの成果か。

 いや、悪魔の悪戯にも思える……。

 涼香が、信の肩に寄りかかって来たのだ。

 突然の事に、信の頭は真っ白になりそうだ。
 正直、涼香と身体が触れた事が無い訳ではない。
 入学時から同じクラスで友達をやっているのだ。彼女をおぶった事もあれば、ノリで肩を抱いた事だってある。
 だがこの状況は、今までで一番緊張をするシチュエーションではないか。
 眠った彼女に、寄りかかられているのだ。

(母さーん……、ありがとぉ……)

 ひと先ず彼は、神様でも悪魔でもなく、母のお陰にしたようだ。








もくじ  3kaku_s_L.png 2017・短編集
もくじ  3kaku_s_L.png 溺愛マリッジ
もくじ  3kaku_s_L.png 恋のエトセトラ
総もくじ  3kaku_s_L.png 迷宮の天使*LS*
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋桜~さくら・シリーズ
総もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【第8章≪永遠の約束≫・13 *R18】へ  【第8章≪永遠の約束≫・14 *R18】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第8章≪永遠の約束≫・13 *R18】へ
  • 【第8章≪永遠の約束≫・14 *R18】へ