「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・2

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「お仕事がお忙しかったようですわね。長い事お顔を見せて頂けなかったので寂しかったのですよ?」
 ちょっと拗ねて眉を寄せる表情は、紗月姫に近しいものだけが見る事が出来る、いわば特権。
 そんな仕草を目の前で見せられてしまった美春。いつもならばギャップたっぷりの可愛らしさに、ついつい笑みも浮かんで慰め体勢に入ってしまうのだが……。
 今日は違った。

「寂しかった? 神藤さんが傍に居るのに?」
 “お世話役”としての神藤が、いつも傍に居るのは当たり前。
 しかし、少々意地悪なトーンを含んだ台詞には、勿論違う意味が込められている。
 勘が良過ぎる紗月姫の事、美春の冷やかしをすぐに悟りティーカップを持った手を止めて硬直すると、薄らと頬を染めた。
「みっ、美春さんっ」
 動揺する紗月姫を目に、美春はクスクスと笑いを漏らす。人が悪いと言われてしまいそうだが、動揺する表情も笑顔になってしまう紗月姫が、見ていてとても可愛らしいのだ。

 二週間顔を見せなかったと責められてしまったが、美春側にだって言い分は有る。
 その訳は冗談では無く、いたって真面目で本気だ。
「だって、毎日幸せいっぱいのところにお邪魔したら、本当の意味で“お邪魔”じゃない? 恋人同士になった最初の頃って、寝ても覚めても二人っきりでくっついていたいものよ? だから来るのを控えていたの。でも、二週間も経ったし、もう良いかなぁ、って思って」
 この二週間、本当に寝ても覚めても二人きりでくっついていたのは間違いではない。図星をつかれた紗月姫はプチ反撃に出る。
「美春さん達も、そうでしたか?」
「そうよぉ? 毎日くっついてたわ。高校に居る時も帰って来てからも。授業中もくっついていたから、ある意味、紗月姫ちゃん達以上かなぁ」
 ふふんっ、という優越感を印象付ける雰囲気は故意に作り上げたものだが、反撃に出たつもりがやり返され、紗月姫はムキになって反論した。
「で、でも、私は夜もずっと一緒ですし、なんといっても同じ邸内に住んでいますし。日中だって特に会えないという訳では無く、定期的に教室へ様子を見に来てくれますし、私だってプライベートルームの方へ行っていますし……」
 必要以上に反論してしまっている自分に気付き、紗月姫の勢いは徐々に失われる。そのまま言葉を失ってしまった彼女は、これもまた近しい者の特権である拗ねた目で、上目使いに美春を覗き見た。
「……意地悪です、美春さん……」

 美春はクスリと笑って隣に座る紗月姫の頭を撫でた。
「遅いわね。紗月姫ちゃんの王子様」

 終業後、美春が学と共に辻川邸を訪れ、既に一時間以上が経っている。
 二人が来る事を心待ちにしていた紗月姫ではあったが、来た途端に学が神藤に手合わせの相手を申し入れ、離れの道場へと移動をしてしまったのだ。それも……。
「俺も大分身体がナマっているから、神藤さんに負けるかもしれないなぁ。そうだ、水野さんも付き合って下さい。危なくなったら加勢して下さいよ」冗談なのか本気なのか、笑顔で章太郎まで連れて行ってしまったのだ。

「学さん、ズルイです。それでは二対一ではありませんか。……まぁそれでも、神藤が引けを取るとは思ってはいませんけれど」
 拗ねる言葉にも、何処か甘さが漂う。紗月姫が神藤を高評価するのは、主従関係である時から変わらない。しかし、同じ褒め言葉でも今の場合は完全に惚気だ。
「そうね、でも学は互角の人を相手に、本気で二対一なんて体勢を構える人じゃないわよ?」
「それは……、分かっています。でも、それでしたら何故、水野を連れて行ったのかしら」
「……あ~、まぁ、色々あるのよ……」
 美春は言葉を濁す。
 学が手合わせに章太郎を指名するという珍事。その理由に、美春は困ってしまうほど心当たりがあるのだ。

 美春を監禁し、逃走不可能な状況を作った章太郎。
 命令をされれば、彼は決して逆らえない事を重々承知している学ではあるが、どうしても、許せなかった事がひとつある。
 章太郎が、美春の裸を見てしまったという事だ。

(まさか、本当にやるなんて……。学ったら……)
 美春は指先で眉間を押さえる。章太郎が美春の服を奪ったのだと聞いて、罪滅ぼし代わりに手合わせの相手にでもなってもらおうと言っていたのは、二週間前。
 今夜はどんなに恋人が拗ねようと、章太郎が恋人の部屋へ行ける事はないだろう。
「神藤さんが怪我をする心配はないわよ。怪我をしたってしなくたって、夜通しずっと一緒に居るんでしょう?」
 さっきの惚気を逆手に取った美春が再び茶化すと、紗月姫が笑って口を開きかける。直後、ドアにノックの音がして、軽快な声と共に開いた。
「みっはるぅ~、さっつきちゃ~んっ、お待たせぇ」
 妙に機嫌が良いのは、学。共に入室し、ドアを閉めて微かに苦笑しているのは神藤だ。
「いやぁ、久々に思い切り身体を動かすと気持ち良いなぁ」
 腕にスーツの上着をかけたまま首を左右に捻り、笑顔で近付いて来た彼は身を屈めて紗月姫を覗き込む。
「流石は“辻川の精鋭”だよ。有難う、拝借を承諾してもらえて感謝するよ」
「いいえ……、御満足なら……」
 どうも釈然としない紗月姫は、学の後から歩いてきた神藤に目を移す。上着を脱いでいる学に対して、神藤はいつも通りキッチリスーツを着込んでいる。手合わせで汗を掻いたからと、シャワーを使った形跡も無い。
「……もしかして、神藤が相手をしたのではないの?」
「私は監視役です。本日のお相手は、水野が勤めさせて頂きました」
 紗月姫は目を見開き、キョトンッと学と神藤を交互に見た。「身体がナマっている」とはいっても、学と対等なのは神藤であって、章太郎がそれに及ばない事は知っている。

 しばしの思案。そして紗月姫は、チラリと横の美春に視線を流した。
「水野が……、何か失礼をしたのですね……?」
「あ、はは……、失礼、というほどの事でもないんだけど……」
 気まずさに視線だけを学へ移して助けを求めるが、彼は大満足の笑顔を浮かべるだけだ。
 察しがつくので特に深くを訊こうとはせず、紗月姫は神藤を見上げる。
「お医者様は、必要?」
 すると神藤は、支障なく答えた。
「いいえ。医師よりも改善効果が有りそうな看護役をひとり付けてあります。彼女が、一晩かけて看病してくれますよ」
 気の利いた采配に、女性二人は笑みを浮かべた。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 ノロケ合戦。(笑)
 これは……、ずっとやらせてあげたかった事なので、ちょっと嬉しい。^^

 学はやっぱり実行しちゃったんですね、章太郎との手合わせ。
 まぁ、看護になるのかどうか分からない看護婦も付けてもらえましたし、良しとしましょう。(笑)

 和やかな雰囲気は続きます。
 
 では、次回!!




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~ Comment ~

こんにちはー♪
な~んかこの章の出始めはほのぼのデスネ。従来のいちゃラブが戻って嬉しい限り…。がっ!、と続くのでしょうね。今のうちにイチャイチャさせてやっちゃって下さいませ♪

ペコちゃんさんへお返事です7/2

ぺこちゃん、(で、いい?(笑))こんにちは!

 第9章は、はじまりが穏やかだったでしょう?
 やっぱり、少しはいちゃいちゃさせてあげなくちゃ。(少しは?)^^;

 ここからまた、「ちょっとぉぉぉ……」になっていくかもしれませんが(かも?)、こっ、この先もよろしくお願いしますねっっ。(←ちょっと必死)

 有難うございました!

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