「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・3

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「何の武術でも構いません。フリーで行きましょう。とにかくかかって来て下さい。条件はひとつ、俺が倒れるか、神藤さんが“良し”の言葉をかけるまで、決して攻めの体勢を崩さない事」
 不思議な条件だった。また、何故自分が指名されたのか、その真意を測る事も出来ないまま、章太郎は学の手合わせの相手を務めなくてはならなかったのだ。

「大丈夫、章太郎? 痛い?」
 恐る恐る腰を下ろしたベッドが沈む。章太郎の自室で、疲労困憊のあまりベッドに座り込んで動けない彼に衝撃を与えぬよう、ゆっくりと腰を下ろしたつもりなのだが、やはりベッドのスプリングを動かさないように座るのは不可能だ。
 動かしたせいで章太郎の身体に痛みでも走ったのではないかと驚いた萌(もえ)は、次の瞬間に立ち上がり掛けるが、章太郎に手首を掴まれ引き止められた。
「大丈夫だ。別にどこか痛い訳じゃない」
 章太郎は大きく吐息すると、そのまま仰向けに身体を倒してベッドへ寝転がった。
「ひたすら疲れただけだ……。指一本動かすのも辛い……。こういうのも、キツイな……」
 指一本……、動かす気はないだろう。彼の指は、萌の手首を掴んだまま放さない。
「駄目だよ? 章太郎がいくら強い人だっていっても、神藤さんには敵わないんだし、学様は神藤さんと同格なんでしょう? そんな人の相手だなんて、何ムリしてんの? 自分の歳考えなよ」
 口が滑るのは萌の癖。掴まれていた手首をいきなり引っ張られた彼女は、章太郎の胸の上に倒れ込み、そのままかなりの力で押さえ付けられた。
「ごめっ、ごめっ! 痛い痛いっ、苦しいってば、章太郎っっ」
 二十歳の萌からすれば、十五歳年上の章太郎に口が滑ってしまうのもしょうがない。

「年寄り扱いするなら、もう少し労れっ。その為に呼ばれたんだろ」
「何よぉ、威張りんぼっ」
 喧嘩にも聞こえるが、萌は倒れ込んだまま章太郎に抱き付いている。おまけに二人とも笑顔だ。
 強く抱き付いてしまったのが気になったのか、萌は顔を上げ、章太郎を見た。
「……痛かった?」
「いや、本当に痛いところはひとつも無いよ。切り傷も打撲も、一カ所だって無い。ただ疲れただけだ」
「……何の手合わせだったの? 二人でかけっこでもしたの?」
「その方がマシだ。素手での無差別式だったが、そう言われた時はぞくっとした。学様の事だからどんな事になるかと……。しかし、学様は一切手を出されなかった」
「やられっぱなし? ……じゃないわよね。道場でお見かけした時はぴんぴんしていたもん」
「攻めたのは一方的にこっちだけ。学様はひたすらかわすだけ。笑いながら余裕でかわされては、こっちだって正直、精鋭のプライドがあるからムキになる。まぁ、全く無駄だったが」

 十代の頃から喧嘩慣れしている学は、相手の攻撃を読む術に長けている。
 攻めの先が読めれば、より容易に守りの体勢に入れる。結果、疲労困憊まで追い込まれたのは章太郎だけであり、学は全くダメージを受けていなかったという訳だ。

「……絶対、実戦ではやり合いたくない人だな」
 章太郎が大きな溜息をつく。普段彼女の前でも弱音など口にした事のない彼が、ここまで参っているのだ、よほどのダメージなのだろうと気付いた萌は、心配そうに眉を下げた、
「大丈夫? 動ける? 肩貸そうか? 汗っぽいからお風呂入ろうよ。身体洗ってあげるから」
 思わず「介護か!」と言ってやりたい気もしたが、これを利用しない手はない。章太郎は胸の上に乗った萌の背中を撫でた。
「じゃぁ、萌に全身洗って貰おうか。疲れて動きたくないから、黙って寝てるからさ、萌、全身に泡付けて身体で洗ってくれよ」
「やっ、ちょっとっ! 何のプレイよ、それっ! ったくぅ、章太郎はやらしいなぁっ、オジサンっぽいよその発想っ」
(……そうなのか……?)
 特にウケを狙った訳ではないのだが、章太郎は言葉に詰まる。
「……まぁ、楽しそうだから、やってあげてもいいけどさ……」
 萌のひと言で彼の戸惑いは消えた。……とはいえ……。

 恋人同士になってまだ三ヶ月ほど……。
 当初、気にならないと踏んでいた十五歳差は、章太郎の予想外にもジェネレーションギャップを生んでいる。
「今夜は、章太郎の部屋に居てもいいって神藤さんの御許しも出てるし、一晩中介護してあげるからね」
 
 だが、楽しそうに懐いてくる彼女を見ていると、「まぁ、可愛いから良いか」とも、思ってしまうのだ……。


*****


「そういえば、神藤さんの本当の誕生日っていつだったの?」
 辻川邸を出た帰宅の車内で、美春は何気ない疑問を学にぶつけた。
 今までは紗月姫の誕生日から一ヶ月後が神藤の誕生日とされていた。それは、丁度その日が、藤棚の元へ神藤が導かれ紗月姫と出会った日に当たるからだ。
 だが、それとは違う本来の誕生日があるだろう。

 学は信号で車を停め、苦笑いを浮かべて美春を見た。
「それが、誕生日は奇跡的に間違いじゃなかったんだ。今まで知らないままに迎えていた六月二日が、本来の誕生日そのままだったんだよ」
「凄い……。だって、その日に二人は出会ったんでしょう? 神藤さんは、自分が産まれた日に紗月姫ちゃんと出会って、運命が変わったのね」
 口元で両手の指先を合わせ、助手席の美春は嬉しそうに微笑む。
「素敵ね。今年の誕生日は、本当の彼が分かって最初に迎える誕生日だもの。きっと、素敵な日になるわ」

 自分の幸せを喜ぶように嬉笑する美春の笑顔を見詰め、学は気持ちが満たされていくのを感じていた。
 彼は、この笑顔の為に頑張ったのだ。辻川財閥でさえ暴き切れなかった真実。並大抵の覚悟では無かったが、その苦労も美春の笑顔で全て報われるような気持ちになれる。
 
「あと、十日だな」
 十日後、神藤の誕生日がやってくる。
 当日はきっと、幸せに包まれた日になるだろう。学と美春はそれを信じて疑わない。

 誰もが、この時までは……――。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 珍しいカップルにいちゃいちゃしてもらいました。^^
 章太郎のカノジョは「萌ちゃん」といいます。(いや、知ってる人は知ってますよね(笑))
 良かったら、覚えてあげて下さい。

 良く御質問頂くのですが、今回の第11部と基盤になっている『迷宮の天使』とでは、時間の経過とストーリーの進み方が微妙に違います。
 『迷宮~』で二人が禁戒を冒したのは、誕生日の前日。こちらでは誕生日の一週間前。
 神藤の出生が明らかになったのは、彼の誕生日。こちらでは紗月姫の誕生日から一週間後。
 少々展開が早いものになっています。

 さて、10日後に神藤の誕生日を控えて、幸せな雰囲気は続いています。
 そしてもうひとつ、違う幸せに紗月姫が気付きますよ。

 では、次回!!





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