「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・4

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「すいません、有難うございます。いや、ホント、申し訳ないです!」
 ガッシリとした恰幅の良い身体が何度も折れる。
 専務室のソファに座り、大きな身体を恐縮させた柳原は、美春が淹れたコーヒーの前で繰り返し頭を下げた。
「そんなにかしこまらないで、柳原さん。大変だったのは柳原さんの方だったんだし。ねっ?」
「お嬢さん……っ」
 美春に優しい言葉をかけられ、感動屋の彼はついつい涙腺が緩む。気持ちも緩むあまり、就業時間内は禁止とされる「お嬢さん」が、つい出てしまった。

 相変わらずの柳原に表情を和ませ、学もひとつ肩で息をついて、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「いや、実際、一番聴取が長かったのは柳原君だよ。御苦労さま」
「そんな、坊ちゃんまで……。自分はっ、分かる事だけを答えていただけですよ。坊ちゃんだって大変だったのに」
 学にまで労われ、更なる感動に気が緩む。就業時間内は「坊ちゃん」も禁句だ。
「私が訊かれた事なんて大した量じゃない。柳原君は、高木康司が死亡したとされる直前に関わっていた人物という事になるからね、警察の訊き方も、少々しつこかったように感じるよ」
「あの人達も仕事です。納得いくまで訊かなくちゃならないんでしょうから、こっちは素直に答えるだけですよ」

 二人の会話を聞きながら、美春は半月前の出来事を思い出していた。
 本社ビルの前で、爆弾を持った男が学の車を狙い、柳原と揉み合いになった出来事だ。
 学が犯人の正体に気付き、警察にも通報をしたのだが、すぐには捕まらなかった。
 そして昨日、やっと発見されたらしいのだ。本社ビルの近くにある、小さな公園の公衆トイレ裏で。茂みに隠され、腐乱死体となり果てた高木康司が。

 今日になって死体の身元が判明し、行方が分からなくなっていた時点の絡みで、午後からずっと警察が三十四階フロアの応接室で、主に柳原に対し聴取を行っていたのだ。
 学も数分調書を取られたが、無論その扱いは雲泥の差。
 柳原に対して、揉み合いになった末に腹が立って高木を追い掛け、公園で刺し殺したのではないかと冗談と本気が混じった暴言を吐いた若手の刑事が、学にひと睨みされ、帰るまで口が利けなくなるという一幕もあった。

「後ろから何カ所も刺されていたって……。通り魔か何かなんでしょうかね。会社の近くにそんな物騒な人間が出没するなんて……。警備体制を強化しなくちゃいけませんね」
「頼みますね。柳原君」
 犯人の正体を予想し奮起する柳原を、学が激励する。職務に忠実な彼の事、きっと素晴らしい働きを見せてくれる事だろう。
 柳原を盛り立てた後で、学は軽く吐息した。
「高木氏も……、考え方をひとつ誤ったばかりに、嘆かわしい最期だったな……」
 女性関係が鼻につく男ではあったが、仕事は出来る男だった。何と言っても紗月姫の婚約者候補を絞る時点で、一度は候補に入っていた男なのだから。

 驕り高ぶった気持ちが、彼に道を踏み外させたと言っても過言ではない。
 もしもあのまま紗月姫の婚約者候補として選出されていたら、彼にはまた違う道が用意されていただろうか。
 いや、結果は同じだっただろう。選ばれた事実に彼はまた虚勢を張り、敗れ去るであろう事実に身分不相応なプライドを打ち砕かれていた筈だ。

 高木が紗月姫に関わりを持っていた人物である事から、美春はどうしても思い出してしまう少女がいる。
 紗月姫に関わった男は皆死ぬのだと、不吉な言葉を口にした成澤咲月の存在だ。
 恨みが生んだ虚言と妄想だと思っていたが、本当にそうなのだろうか……。


*****


「どうかな? 具合は」
 差し出されたのは、ノンカフェインのアイスハーブティー。
 特に指定をしなければ、いつもここで出されるのはアイスティーだろう。少々不可解な物を感じながらも、紗月姫はソファから身体を起こし、差し出される神藤の手からグラスを受け取った。
「大丈夫……。大分良いみたい」
 儚げな笑みを浮かべ、グラスに唇を触れさせる。ひんやりとした液体が、口から体内へ流れていく感覚が体感出来る。それだけ体温がいつもより高いという事なのだろう。
「やっぱり風邪かしらね。嫌だわ、こんな時期に。……もうすぐ、神藤のお誕生日も来るのに」
 額に指先を当て、ふぅと息を吐く。吐息さえも熱く感じられて、紗月姫は戸惑ってしまった。すると、目の前に立っていた神藤が、身を屈め耳元で囁いたのだ。
「毎晩、裸で朝まで寝かせてしまっているせいかな?」

 学園のプライベートルームには、勿論二人だけ。誰かが聞いている訳ではないのに小声で囁かれては、どうもからかわれている感が否めない。
 紗月姫は上目使いに、微笑する神藤を見詰めた。
「そうだったら、どうするの?」
「そうだね、少なくとも、体調不良が治るまでは裸で寝かせておく事は避けようと思う」
「……じゃぁ、早く治すわ。主治医に薬を出してくれるように頼んでおいてくれる? 今夜からでも飲むわ」
 素肌で触れ合う、あの感触が好きだ。それを取り上げられるのが嫌だった紗月姫は、必死の改善策を立てる。神藤はニコリと微笑み、紗月姫の手から静かにグラスを取り上げた。
「そうだね。でも、薬では治らないよ」
「え……? 何故……」
 グラスをサイドテーブルに置き、紗月姫の横に腰を下ろして、彼女を肩から優しく抱き寄せる。

「治るまでは、少々時間がかかるかな」
 
 神藤の手が紗月姫の下腹部を静かに撫でる。
 意味ありげな仕草に紗月姫は目を瞠り、直後、その意味を察した。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 幸せムードの中ですが、7章での出来事を覚えてますか?
 例の彼女。また出てきます。

 そして、紗月姫が体調不良の理由に気付きます。
 幸せな出来事であるはずの事実。
 二人はどう受け止めていくのでしょう。

 では、次回!!





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