「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・5

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 しかし、すぐに返事は出て来なかった。
 下腹部に当てられた神藤の手から優しさと愛しさが沁み込んで来るように、その部分だけが妙に熱い。
 意識をすると、その部分に不思議な想いが湧き上がってくるようだ。

 だが冷静に考えて、“その可能性”が無い訳ではない。
 “二人の繋がり”が、ここに居るのだと。

「不思議ではないよ。可能性は充分にある」
 神藤の台詞に、紗月姫は頬を染めた。まさか自分がこんな事に……。いや、いずれはそうなってしまうものだと分かってはいても、まさか今そうなってしまうとは。
 言葉が出ない紗月姫を胸の中へ抱き込み、神藤は両腕で彼女を包み込む。
「微熱がずっと下がらなかったから、気になってはいたのだけれど。昨日から紗月姫の様子を見ていて確信出来た。間違いではないよ」
 お世話役としてずっと紗月姫の傍にいた神藤は、彼女の体調変化に敏感だ。
 腕の中へ抱き入れ体温を計る事も、数日間の生活を加味してコンディションを図る事も、彼が得意とするところなのだ。

 微熱は紗月姫が自覚を持つ前から続いていた。神藤としては月経前なのだろうと思っていたのだが、その微熱は一向に下がる気配を見せなかったのだ。
 紗月姫は以前から月経不順気味である為、少々月経が遅れている事もあまり気にかけてはいなかった。
 この一ヶ月間、周辺の変化はあまりにも目まぐるしかった。気にかける余地が無かったという方が正しいだろう。

 神藤の腕の中で身動きひとつしない紗月姫。動揺してしまうのも無理のない事だ。
「すまない……。紗月姫を思い悩ませてしまって。まだお披露目も済んでいないのだから無理もない……。旦那様には、私の方から……」
「ちっ、違うわ、思い悩んでいる訳ではないのよ」
 彼の謝罪を否定し、紗月姫はやっと顔を上げる。その表情は、確かに困惑をしているようではあったが、染まった頬と垣間見る恥じらいは、決して悲観をしているのではないと神藤に知らしめる。
「何ていうか……。言葉にならないの……。でも、うれしいのよ、凄く……嬉しいの。煌が愛してくれた証拠が、私の中にあるのですもの……」
「困ってしまうのではないかと思っていた。私が、ただ夢中で、考えも無しに紗月姫を抱いてしまったから」
「あれは……!」
 ムキになった紗月姫は意見を主張しようとする。だがその内容に羞恥し、視線だけを神藤から逸らした。
「私が……『あなたのものにして』って……、言ったから……。だから、煌のせいだけではないわ……」
 
 恥じらう紗月姫を胸に入れ、神藤は静かに髪を撫でた。
「ひとまず、旦那様にご報告する前に、主治医の先生に診てもらった方が良いね。明日にでも先生に診察のご相談を……」
「診てもらったら、すぐお父様に知れてしまわないかしら……」
「先生は絶対に他言をしない人だよ。内密にしてくれるよう頼んでおくから大丈夫」
「ええ……。あっ、別に、お父様とお母様に言いたくない訳ではないのよ」
「分かっているよ」
 髪を撫でていた手で頭を抱く。神藤は穏やかな声で紗月姫の言い分を承諾し、不安を取り除いた。

 言いたくない訳ではない。診察を受け、懐妊が正常なものであったなら、もちろん総司や椿に報告がしたい。
 喜んでくれるだろうか。いや、少しお小言を貰ってしまうかもしれない。結婚前提とはいえ、紗月姫はまだ学生だ。
 だが、主従関係としての十八年間を知っている両親のこと、きっと二人はこの事実を喜んでくれる。紗月姫はそう思いたかった。気持ちが通じ合ってから無我夢中で愛し合ってしまった事実を、分かってくれると。

 喜んでくれるだろう。そう思うからこそ、きちんと妊娠を確認し、神藤と共に紗月姫の口から報告がしたいのだ。
 そして、学と美春にも……。

 妊娠をしているのかもしれないという事実より、紗月姫は告知の場面に心が躍ってしまう。
 皆どんな顔をするだろう。最初に口を開くのは誰だろう。

「煌、病院へ行くのは、あなたの誕生日では駄目?」
 祝い事を重ねようという意図があるのだろう。「いいこと考えた」と叫ばんばかりの笑顔が神藤を仰ぎ、躍る気持ちを隠せないまま彼女が最高の趣向を口にした。
「当日は学さんと美春さんもお祝いに来て下さるってご連絡を頂いているし、それに加えてお父様とお母様もいるわ。皆がいる前で報告がしたいの。その日まで結果はお預けにしましょう? だって、知ってしまったら、私嬉しくてすぐにでも話してしまいそうだわ」

 襲い来る現実が幸せで堪らない。あまりの至福に興奮状態の紗月姫にキスを落とし、神藤は彼女を鎮める。
 唇を離してから、冷静に彼女を導いた。
「では、それまでは決して無理をしないこと。何かあったら、大変だ」
「分かったわ」
 紗月姫は神藤の胸に身体を預け、夢見心地な陶酔に浸った。

「私……、幸せよ、煌……。幸せすぎて、罰を受けてしまいそうなほど……」


*****


「成澤ホールディングス?」
 その名を出した時、明らかに学は不快を表す表情をした。
「まったく関わりが無かった訳じゃないが、あそこはもう分裂状態だし、成澤一族も散っている。何故、美春が気にするんだ?」
「あ、うん……、それが……」
 学の仕事を窺い見ながら、キリの良さそうなところで話を振ったのだが、どうも学的にはあまり触れたい話題ではないらしい。
 しかし成澤咲月の不審な行動は、やはり気になるところ。美春が理由を話そうとすると、学が衝撃の真相を彼女に提示した。
「成澤の娘が、高木と同じように紗月姫ちゃんを恨んでいるであろう人間だから、気になるのか?」

 美春は目を瞠る。にこりと上がった口角は、学の余裕を示しているかのようだ。
「生徒会室での爆発物事件で、成澤家令嬢の専属執事が巻き込まれている。その執事と令嬢は、ただならぬ関係にあったらしい」

 ――――大切な人を失った……。
 そう言った咲月の言葉を思い出し、美春は背筋が冷たくなった。







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あとがき

 こんにちは。玉紀 直です。
 “無我夢中で愛し合った”そのままですよね。
 二人は結ばれる事を決して想定していなかったのですから。
 その結果が、出てしまったわけです。
 幸せであるはずの事実。それを神藤の誕生日に確認する事は出来るのでしょうか。

 そして、成澤咲月の件を口にした美春が、知らされる事実とは……。

 では、次回!!






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