「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・6

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「執事側に、令嬢を想う気持ちがあったのかどうかは分からない。ただ単に、身体を繋ぐ為だけの相手だったのかもしれない。だが、令嬢側に気持ちはあったようだ。彼をとてもお気に入りにしていたらしく、時々あまりにも態度があからさまで、周囲も見て見ぬふりだったらしい」
 椅子をクルリと回して立ち上がり、学はゆっくりと美春に近づく。
「生徒会室での爆破事件で、現場から運び出された一体の骸に、半狂乱ですがった少女がいたらしい。……それが、成澤の令嬢だ」
 美春は言葉が出ない。紗月姫が学園で爆弾魔に狙われた事は知っていても、その背後にあったものなどはまったく知らなかったのだ。
「その後、成澤がどうなったのかは美春も知っているだろう? 紗月姫ちゃんに宛てて爆発物を送りつけたのは高木だ。執事はそれを誤って開けたか、踏んだか……。そのまま良い方に考えれば、紗月姫ちゃんの身代わりになってしまったのだろう、気の毒だった、とも考えられるが、成澤側は報復措置を取られている。その仕事をこなしたのは神藤さんだ。と、いう事は……、令嬢と執事が、紗月姫ちゃんに対して不埒な行為に及んだと考えられる訳だ」
 一通りの説明を終え、学はただ茫然と聞いていた美春の頭にポンっと手を置いた。
「だから、成澤の令嬢は紗月姫ちゃんに恨みを持っている。そういう事なんだろう?」
「――初めて知ったわ……。そんなところまで……」
「初めて話したしな」
 学は悪気なく笑った後、真顔に戻り美春を見詰めた。
「……何かあったのか? 成澤を気にしなくちゃならないような……」

 二週間前、神藤を呼び出した例の公園で成澤咲月に出会った事を、美春は学に話した。
 言動がおかしかった事はもちろん、「幸せになんてさせない」などと恨み事を口にしていた件も。

「学を爆発物で狙ったのも、婚約者候補の人達に手をかけたのも全て高木氏だって聞いて、まるで自分が手を下したような言い方をした成澤さんの言い分は間違いなんだと思ったの。自分の恨み通りに事故が起こっていくから、きっと、自分の怨念のようなものが通じていると思い込んだんだって……」

 咲月の妄想だ。美春はそう思いたかった。
 それだから、学にも詳しい確認を今まで取らなかったのだ。
 もしもこの一連の事故事件が咲月に関わりのある物だとしたら、やっと幸せを掴んだ紗月姫と神藤に、何か善からぬ事が起こるのではないか……。そんな考えを避けたかった。
 だが高木があんな悲惨な最期を遂げたとなると、どうしても咲月の言動を思い出してしまう。

 美春の話から、学も何か不可解なものを感じたのだろう。眉を軽く寄せ、腕を組んで右手を顎の辺りに当てて考え込んだ。
「成澤の一家は、母方の実家を頼って他県の郡部へ移り住んでいる。先週の事だ」
「……そうなの?」
「ああ、娘も一緒に行ったはずだ。;そこで落ち着けば、戻って来るような事もないだろう」
 学がくれた情報は、美春から不安を取り除く。そして彼は、更なる安心を美春の為に用意した。
「その後どうなっているのか、様子を探らせてみよう。一家で落ち着いているなら、それに越した事はない」
 腰のホルダーからスマホを取り出し、今からすぐに支持をすると言わんばかりに口角を上げる。この笑顔も行動も、全ては美春の為。分かってはいるが、美春は少々申し訳なさを感じてしまった。
「……ごめんなさい、私の勝手な想像の為に学の仕事を増やしてしまって……」
 すると学は彼女の鼻の頭を指先でツンっとつつき、少し屈んで下から顔を覗き込んだ。
「美春にそんな心配そうな顔なんかさせておけるかっ。待っていろ、すぐに調べてやる」

 スマホを耳に当てる学を見詰め、美春は照れくささと嬉しさに表情を歪めた。
 いつも「美春の為に」という気持ちで動いてくれる学。ただの幼馴染でしかなかった頃から、それは当然の事だった。
 学にとっての“当然”は、美春にとって限りなく嬉しい事なのだ。

「俺だ。すぐに調べて欲しい事がある」
 学が話している声を聞いて、相手が信ではなく、情報屋の元締めである事が分かる。元々は葉山家の使用人だった人物で、使用人を辞める前、当時まだ大学生だった一に命を救われたと聞いた。その恩義も関係して、学が学生の頃から惜しみない協力をしてくれる人物だ。
 神藤の件を調べるにあたっても、表社会から調査した信に対して、彼は裏社会から各方面へ手を広げて調査にあたり、大活躍をしてくれた。
 学の「十分で」「五分で」などという無茶な時間指定にも、確実な結果をくれる。「俺の情報網は完璧だよ」と言わしめる所以だ。

(今回は何て言うのかな……。三日、くらいかな)
 成澤は他県の郡部へ移り住んだという。その様子を調べるのだというのだから、数日はかかるだろう。それでも、この不安が取り除かれるのなら、美春としては大いに待てる範囲だ。
 だが……。

「一時間だ。手は回るかい? よし、じゃぁ一時間で調べて報告をくれ」

 相変わらずの無茶振りに、美春は言葉を失う。
「美春、一時間だけ我慢してくれ。出来るか?」
 スマホをホルダーに戻しながら問いかけてくる学はご満悦だ。三日を覚悟した美春に、一時間を我慢出来ないはずはない。微苦笑で頷くと、やんわりと学に抱き締められた。
「よしよし、じゃぁ、結果が出て落ち着けるまで抱っこしててやるから、一休みしようか。ミルクティー淹れてやるから、座ってろ」
「結果が出るまで?」
「出るまで」
 約一時間だ。早い話がそれまで一休みしてくっついていようという訳だが、終業時間も近いというのにそんな事をしていては、残業になってしまうではないか。

(……まぁ、いいか……)
 どうせ今日は、警察の聴取に付き合ってスケジュールが大幅にずれている。残業は確実なのだ。
 美春は心を決めて学の背に腕を回した。
「じゃぁ私は、学にカフェ・オ・レ淹れてあげるね」
「疲れたから、少し甘めにしてくれよ?」
「うん。学の『少し』って微妙なんだよねぇ。クスッ……甘み、足りなかったらごめんね」
「その時は、美春にキスして甘みを足すからいいよ」
「足りなくなかったら、しないの? キス」
「ばーかっ、そんな訳ないだろう」
 楽しげに含み笑いを漏らす唇が迫り、美春はそれに応える。

 学のキスは、美春の不安と心配を甘く溶かしてくれた……――。


 そして一時間後、成澤の一家は母方の実家に落ち着き、心を病んでいた咲月は、心療内科でカウンセリングを受ける事になったという報告がもたらされた。

 その報告に、美春だけではなく、学も安堵したのだ。







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 成澤咲月の件で不安になった美春でしたが、彼女を不安がらせたままにしておかないのが学です。
 あっという間に結果を出してくれました。
 ……まぁ、軽くいちゃこらしたかったようですが。(笑) はい、その分、残業頑張って。 

 取り敢えず、ひと安心?
 そして、神藤の誕生日がやってきます……。

 昨日、Web拍手から、サブタイトルの“淘汰”ってどんな意味ですか」という御質問を頂きました。
 同じ事を思われている方もいらっしゃるかもしれないので、簡単にご説明をさせて頂きますね。
 『淘汰』は、自然環境の中で、生存する事に適したものだけが残され、不要なものは排除される。といった現象の事です。第4部の時には『自然淘汰』という言葉を使わせて頂いた事があります。
 今回は、淘汰、という言葉と一緒に“愛”が付いていますところから、色々と想像して頂けると幸いです。
 その意味に向けて、話を進めていきましょうね。

 では、次回!!





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