「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・8

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「ごきげんよう」
「ごきげんよう。今朝はとても暖かですわね」
 罪の無い、小鳥のような声が、白亜の校舎前に溢れていた。
 送迎用の通路には次々と高級車が停まり、名家資産家のお嬢様達が降りてくる。
 私立西海女子学園高等部の朝。世間の紛擾や事変も、ここではまるで別世界の話。温かく穏やかな清水の中で微笑み合うお嬢様達には、まるで無関係なのだ。
 
 また、生徒皆が自家用車で登校してくる訳ではない。
 タクシーやハイヤーを利用している者もいれば、時々散歩がてら、お伴付きで徒歩、などという場合もある。
 なので、“その少女”が校舎前でタクシーを降りた時、警備員も特に気には留めなかった。
 女性らしい髪形を心掛ける生徒が多い中、少女は少年のような短髪。大きなナイロン製のスポーツバッグは、どう見てもこの学園には不似合いだ。
 それでも尚おかしく思われないのは、ひとえに少女が着ている制服に理由がある。

 学園の制服は、デザインと仕様だけを同じくした、各個人完全オーダーメイド。他所で気楽に購入出来る物ではない。
 学園側が手配をする業者でオーダーする者が多い中、紗月姫を始めとする大企業クラスの令嬢は、自分専属のデザイナーなどにオーダーをする。その為、生地の雰囲気やリボンタイなどが少々違っていたりもするのだ。
 制服は、この学校の生徒であるという絶対の証。
 その証を身に纏っているのだから、何の疑いも持つ必要はない。
 学園には、芸術面やスポーツ面に長けた生徒もいれば、奨学生も通学している。大きなスポーツバッグを持って登校してきた生徒がいたとしても、不思議ではないのだ。
 そのお陰で“少女”は、何の問題もなく校舎の中へ入ってしまった。

「御存じ? 今日は神藤さんのお誕生日なのですって」
「まぁ、存じませんでした。どなたにお聞きになりましたの?」
「数日前に、紗月姫様とお話をする機会があって。教えて頂きましたのよ?」
「素敵な日なのですね。それでどことなく紗月姫様も神藤さんも、楽しげだったのかしら」
「お二人が並ばれる姿は、今日も変わらず素敵でしたものね」 
 感歎の溜息を漏らす二人の横を、少女は速足で通り過ぎる。
「早くに知っていたら、何かご用意したかったわ」
「わたし達が差し上げなくても、紗月姫様が何かお考えではないの? 今朝の紗月姫様は何というか、楽しそうというより、とても幸せそうなお顔をなさっておいででしたわ」
 通り過ぎた少女は、背後で聞こえる会話に足を止める。

「……シアワセ……?」

 機械的な声を発した後に眉が吊り上がる。しかし口角は大袈裟なくらいに上がり、顔面を引き攣らせたまま少女は再び歩き出した。

 誰もが教室へ向かう為に階段や渡り廊下へと流れる中、少女だけは一階の空き教室エリアへと向かう。
 イベント時に使われる事もあるが、主に椅子や机、余剰教材などを置いておく保管場所になっているエリアだ。
 もちろん人けはない。五室並んだ一番奥の空き教室へ入る。そこには教室で使われる椅子や机、テーブル類が置かれていた。
 少女はもしもの場合を思って、教卓の中へ身をひそめる。スポーツバッグを胸に抱き、“これから”を思いほくそ笑むと、うっとりと瞼を閉じた。
「……モウスグ……イクカラネ……」


*****


「結婚は、いつ頃になる予定ですかっ」
 女性の同僚や先輩に訊かれたのなら、答えようもあるし誤魔化し方も心得ている。仕事の関係者に冷やかされる事もあるが、かわし方も我ながら堂に入ったものだ。
 だが、こんなにも屈託なく爽やかに、それも須賀辺りに訊かれてしまうと、美春としても少々躊躇してしまうのだ。

「なっ、なんなの、須賀さんっ、いきなりっ」
 つっこんだ質問など須賀にしては珍しい。学も美春と同じ気持ちだったのか、目を通していた報告書から顔を上げ、須賀に視線を移した。
 しかしそんなに驚かれるとは思っていなかった須賀は、頭をかいて照れ笑いを漏らす。
「いや、あの、……いつ頃なのかなぁ……って。今年の十二月くらいまでにはするのかなぁ……とか思ったり」
「どうして十二月……?」
「あ、いや、二月とか三月、でも良いんですけど……」
 季節のセレクトに何となく勘が働いた美春ではあるが、これは逆に聞いてしまって良いものか迷う。だがそこを遠慮無く突いたのは学だった。
「何? 仲人でもしてほしいの?」

 須賀は更に照れて「ええ、まぁ」と頭を掻く。
 椅子を回して横を向き、学は人差し指を立てた。
「十二月はクリスマス。二月はバレンタイン。三月はホワイトデー。で? どのイベントに結婚式の予定なんだい?」
 再び椅子ごと正面を向き、立てていた指で須賀を示す。その仕草が、昨日一緒に観た探偵物の映画にそっくりだと感じ、美春はちょっと噴き出した。
 すると、美春の笑いを「イベント合わせの結婚式だなんて、意外とミーハー」と思われたのだと勘違いした須賀が、慌てて言い訳に走った。
「やっぱり、イベント合わせだと絶対に忘れないし、悠里ちゃんも『楽しそう』って賛成してくれたんで……。あっ、この間、ちゃんと彼女のご両親にも挨拶してきましたよ。何か、すっごく喜んでもらえて、オレも緊張してたからすっごく嬉しくなって、これは早いところちゃんと決めなきゃって……」

 勢いで訊かれてもいない事まで口にしてしまった須賀だが、彼としては真剣に学と美春の結婚時期を知りたいところなのだろう。二人が結婚をしてくれなければ、仲人も頼めない。
 だが、美春からは答えようがない。
 学は一月から「今年中に」とは言ってくれるが、口で簡単に言えるほど目の前に設定されたハードルは低くないのだ。
「あのね、須賀さん……」
 それに、人の結婚がかかっているとあっては、いい加減な事は言えない。仲人を頼みたいなどと考えてくれたのは光栄だが、やはりここは確実な人を立てるべきだ。
 言葉を濁した美春だったが、そのあとに学が割って入った。
「どれでも良いですよ、須賀さん。クリスマスだってO,Kだ。それまでには結婚しているはずですから」







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後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 学園に入り込んだ“少女”の目的は何でしょう。
 不吉な影が、近付いてきます。

 100回を待たずに、結婚に踏み切ったのは須賀と悠里。
 両親への挨拶も済んだらしいので、あとは結婚準備です。
 上司に仲人を頼みたくて「いつ結婚するんです?」って聞いていた部下が他の作品にもいたような……。(笑)
 それにしても、学はいつも自信たっぷりですね。
「今年中に」は元旦(第10部)から言っていたセリフですが、決定付ける自信があるのでしょうか。
 その自信の理由が分かりますよ。

 では、次回!!
 



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