「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛 完璧な愛・第11部

第9章≪淘汰される愛≫・9

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 美春は口が挟めなかった。
 いくら自信があるからとはいえ、須賀の結婚時期にも関わってくる大切な事柄を、そんなにハッキリと口にしてしまっても良いものか。
「そんなところまで決まっていたんですか。知らなかったなぁ。じゃぁ、クリスマスとか考えてみようかな」
 学の言葉に安心したのだろう、須賀は終始照れ笑いだ。彼としては、目標がひとつ定まったのだから無理もない。
 上機嫌な須賀を見送り、専務室で二人きりになると、美春は学に詰め寄った。
「学、ちょっとハッキリ言い過ぎよ。私を喜ばせる為に言ってくれている分は良いけど、これは、須賀さんにとっても大切な……」

「ロシュティスの社長が、ウチの会社に来るぞ」

 美春の言葉は、その一言で止まる。
 彼女は大きく目を見開き、口を半開きにしたまま彼を凝視した。

「昨年からずっと直接交渉をしていたんだ。やっと良い返事が貰えた。葉山製薬を視察してみたいと……」

 入社時から手掛けてきた大きな契約。
 スイスの製薬会社。数年で世界屈指の地位にまで業績を伸ばしたロシュティスと、提携を結ぶ事。
 それを二人で成し遂げたら結婚しよう。決して簡単な事ではないからこそ、二人はそれを決め、目標に向けて頑張ってきた。
 昨年上手くいきかかっていた話は、ロシュティス側の担当交代というハプニングで全て白紙に戻されてしまった。それからは美春も以前より大変になったが、学はもっと忙しい思いをしていた。それは美春が一番よく知っている。
 しかし、ライバル会社を押し退け、葉山製薬を独自に視察してくれるよう要請していたなどというのは初耳だ。

「来月だ。日程の調整が付いたら、正式な日を連絡くれる。向こうが提示する要求と質問と希望は、全て応えていくつもりだ。これから更に忙しくなるぞ、美春」
 学がまだ呆然とする美春の肩をポンッと叩く。
「この件が本格化する前に、神藤さんの件にケリが付いて良かった。美春も、心置きなく仕事に集中できるだろう?」
「……学」
「俺はな、美春、この視察で話をまとめるつもりなんだ。絶対にロシュティスの社長に『よろしく』と右手を出させてみせる」

 学は昔から自信家だ。
 だがその自信は、彼の知能と行動力、そして、美春という女神に見守られた運の良さから計算された完璧な物。
 故に、彼の自信は、今まで違えた事など無いのだ。

「この提携契約を成功させて、“今年中”には美春と結婚する。――どうだ? 間違った事は言っていないだろう」
「学、凄い!」
 美春は興奮のあまり学に抱き付いた。
 飛び跳ねてしまいたい気持ちを抑え、その代わり何度も学の背を掻き抱き、表しきれない心の高鳴りを伝える。
「凄い、凄い、学っ、……ホントに凄いよ、私の学、ううん……、私の専務、最高!」
 美春が喜んでくれれば、もちろん学は嬉しい。彼女を抱き締め共に喜び合いたいところだが、学は美春の両腕を掴み、身体を離して専務の顔を作った。
「まだ、視察の話を取り付けただけだ。その台詞は、提携契約を成立させた後でもう一度聞かせてくれ」
 美春は興奮を治める為に一度息を吐き、秘書の顔を作る。
「はい、専務」
「各要望書が届いたら忙しくなるからな、頼むぞ。ロシュティスの社長は、彼自身が薬学博士であるせいか、新薬の開発研究に造詣の深い人だ。光野室長にも大いに協力してもらう事になる。近く、会議の場を設けよう」
「はい」
 学は腕を組むと右手を顎の辺りに当て、口調を変えた。
「……ってか、俺がビールでも持って、大介父さんの所に押しかければいいんだよな?」
「そうね、その方が、話が進みそう」
 クスクス笑って楽しそうな美春に、学は更なるご機嫌を付け足す。
「一真も同席させようか。有望な未来の研究室職員だからな。今のうちに勉強させておけば、将来きっと大活躍してくれるぞ。何たって、俺の弟だからな」

 美春は再度学に抱き付き、今の気持ちをストレートに伝えた。
「私の学、最高!」


*****


 少女は鼻歌を歌っていた。
 何という曲だったかは忘れてしまった。“彼”がよく、機嫌の良い時にベッドの中で口ずさんでいた曲だ。
 何の曲なのかが訊きたくても、素直に訊けなくて「うるさいわね」と憎まれ口をきいた。
 「子守歌代わりに歌ってやってるんだ。オレはお前みたいに育ちが良くないからクラシックなんてよく知らないし、……しんみりした歌もよく分かんないけどな……、このバラードは好きだ。素直に聴いてろよ」少女が無理矢理金髪にさせた髪を掻き上げ、仕事中は見せない屈託ない表情で笑う顔は、ハイクラスな社会とは縁の無い、普通の青年の顔。
 もしも彼が、仕事として少女と出会ったのでは無ければ……。未来は、違っていただろうか……。

「……クリハラ……」
 無意識のうちに零れる名前。無意識のまま頬を零れる雫。
 それでも少女は歌を口ずさみ、やがてそれが終わると、ゆっくりと教卓の下から這いずり出た。
 オルゴールのような独特なベルが聴こえる。これは授業が終了した時のベルだ。これから生徒達は、帰途に着く準備に入る。
 少女はこの時を待っていた。この為に、朝からずっと教卓の下に身をひそめていたのだ。時間などあっという間だった。“彼”の事を考えていれば……。

「……モウスグ……イクカラネ……」

 呟きながら、少女はスポーツバッグを肩から提げる。
 そして、空き教室を出た。

 向かう場所はひとつ。

 辻川家専用の、プライベートルームだ。








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**********

後書き

 こんにちは。玉紀 直です。
 学の自信は本物でした。
 彼は社長と直接交渉をし、手応えがあったからこそ美春に「今年中」と言い続けたのですね。
 もうバレバレだとは思いますが、この一カ月後に起こるロシュティス側とのお話は、次の第12部でのメインストーリーになります。
 と、いう事で、まだ11部の終わりも見えていないのに、「第12部も行きます宣言」しておきますね。(笑)
 ロシュティスの件は、第1部のエピローグからずっと引っ張っているエピソードですから、いわば二人の関係が勝負どころを迎える的な物になると思います。

 と、次を語る前に、こちらを進めていきましょう。
 “少女”が“彼”の幻を胸に、行動を始めます。
 そして行先は……。

 では、次回!!




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